18
二人はアイニスの家の扉の前で狼狽えていた。
流石、王家の四大分家の一つ。ほぼ城。デカい。
あん時の王宮程ではないが、まぁデカい。…うんデカい
「いやーやっぱやめても良いかな?」
「ここまで来て?」
「そうだよねー…でも…………超キョワイ」
「俺も自分のほう行きたいから、早めに決めて欲しい。行くの?行かないの?どっち!!」
「ビクッ……い、行きます!」
「た、ただいま帰りました。…お父様」
扉を開けるとあらかじめ知っていたかのように、
父親が立っていた。父親とは思えないほど冷めた目で娘を見ていた。
「………いい、何も言うな。とにかく…上がれ、話そう。君も、お上がなさい」
(流石東家って感じだな。怖いくらいデカい。
窓にはスタンドグラス、あれは…聖母様か。教会みてえだな)
執事がそそくさとノヴァの前に出て来て、別室へと案内した。
アイニスは父の部屋の書斎で面接のように向き合った。そんな中先に口を開いたのはアイニスだった。
「本当に…私はこの家を出なければならないのですか?どうしてもダメなのですか」
「勿論だ。約束は約束、お前にはこの家から出る義務がある。」
「…………………」
「お前はみんなと同じいい子だ。それを誰よりも私は知っている。でも背に腹は変えられない。お前は家を出ていき、そして……そして、静かに暮らしていけ。いいな?」
「私はこの大会で優勝した勇者様といっしょに旅に出る事になりました。」
「そうか、それもいい。勝手に生きていけ。」
「失礼します」
そう言ってアイニスが父親を背に、部屋を出て行こうと扉を開けた時、父親が独り言を言うように呟いた。
「家族に…挨拶していけ」
一瞬扉を開ける手が止まった。
アイニスは決心したような表情で、部屋を出た。
マルシア・ホーソーン〈5歳〉
「ええーー!!お姉ちゃん出て行っちゃうの?
どうして…?」
こんな風に椅子にちょこんと座る妹を見るのも最後かもしれないと思うとやっぱり寂しいと思ってしまう。
「家のしきたりなのよ。…大丈夫!また会えるは」
アイニスは小さく「きっと……」と呟き、意識して口角を上げた。
「……でも…私…」
今にも泣きそうな顔をする小さな妹を抱き寄せた。
「大丈夫貴方にはあと二人、お姉さんが居るんだから。心配する事ないわ」
「ギブギブギブギブギブギブ……ッガ………」
自分で思った以上に力が入ってしまったらしく、
気がつくと妹がグハッという顔と声を上げ、グロッキーしていた。
三女:ノア・ホーソーン〈13歳〉
「ご愁傷様です」
前世ウサギか?と言わんばかりの『無』顔の妹は…まぁいつも通りだとして。
「貴方は本当に……そういうところがあるわね」
「失礼な、私なりの最大限の配慮です。」
「最大限とか言わないの。本当に心配だわ
この家で一番の心残りは貴方なんだから。」
そう言って、指差した。
「何が心配だというんですか?自分で言うのもなんですがこの家で一番しっかりしてると思いますよ?」
「いやそうなんだけど!そうなんだけどね!
根本的に問題があるのよ貴方は!」
「なんでしょうか?」
「大した事じゃないのよ、ただ…………愛想がなくてわKYで、いつも無表情で、キレやすいってだけなんだけど……」
「グハッ!!」
!!!!K.O.!!!!
「…燃え尽きたわ……真っ白にね…」
(ノリはいいのよねこの子)
長女:マリア・ホーソーン〈23歳〉
「そう。じゃあね」
帰ってきたのは案の定冷たい挨拶だった。
「お姉様は相変わらず辛辣ですね」
「そんな事でわざわざ挨拶なんてしに来ないでくれる?私も暇じゃないのよ」
「………………」
「あ、そうだ。ミラルのとこにも行くのよね?」
「ま、まあ…そうですね……はい……?」
急にどうしたのだろう、ミラルとマリア姉様が話してるところなど見た事ないのに、何のようだろう。
「この手紙を届けて」
そう言うと、引き出しをゴソゴソと漁り出した。
ゴソゴソゴソゴソゴソゴリゴソゴソゴソゴソゴゴリソゴソゴソゴソゴリゴソゴソゴソゴリゴソゴソゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴソゴソゴソゴソゴリゴリ
ゴッ?………ゴソゴソ…ゴッソゴソ…ゴソリゴソリ……
「無い。」
(何が!?!?)
ミラル・ホーソーン〈10歳〉
「なんでですか……なんで姉様が、出ていかなくてはならないのですか!?」
「しょうがないわ、もう決まった事なの」
「そんな……そんな……姉様がいなくなったら、
僕は悲しいです。」
「泣かないの。いい?これからちゃんとお姉様達のゆうこと聞いて頑張りなさいね。」
「…はい……うっ…」
「そういえばマリアお姉様がアナタに何か渡そうとしてたけど知ってる?」
目を擦りながら、答えた。
「多分文通です最近始めたのですが。それが何か?」
(あのお姉様が文通?あの人がねぇ……)
「ちなみにどんなのなの?」
「あ、見ますか。ちょっと待っててください。」
手慣れた手つきで棚の方へ行き、本と本の間にピッタリと隠すように挟まれた紙を取り出し、渡してくれた。
「ふーん……ナニナニ……………・・・・・・・。」
「詩です。マリア姉様からの」
そこに記されていた物はこの世のものとは思えないほどの、ポエムが美しい字で記されていた。
字の美しさとほんのり残るいい匂いを、喉が焼けそうな甘ったるくエゲツないポエムが綴られていた。
「これ……」
「あ!勿論返してますよ」
(お前も書くんかい!!)
なんてものを知ってしまったのだろう。あのお姉様がこんな世紀末を書いていたとは。
「挨拶回りをしているのですよね最後の」
「う、うん。そうだけど」
「ならヘーデク地方におられるお母様にも挨拶をしてみてはどうでしょう。」
「お母様?」
「はい!さっきマルシアにお姉様が勇者様のパーティーに入って冒険に行かれると聞いたので、そのついでに会ってきてはいかがなものかと」
「お…母様か……それもいいかもしれませんね。」
「ですよね!ですよね。あ!そうだお母様に会ったらこれを渡して下さい。」
そう言ってポケットからしっかりと封をされた、ちゃんとした手紙を手渡した。
「魔法で送るんじゃダメなの?」
「はい!直接お渡しして欲しいのです。」
「……分かったは、ちゃんと渡しておきます。」
「おっ、おかえり。五体満足っぽいね」
アイニスはグッタリと、猫背で手をブランと下げ歩いてきた。
「もう全ての線が切れたって感じ。琴線からアキレス腱まで」
「アキレス腱は切れちゃダメだな。でも長すぎやしないか?」
「まぁ半分が、執事やら召使だったからね」
「大変だったな。……ってことでレッツゴー」
「ええー、ちょっとカフェとかで休憩さして〜」
「俺はずっと暇だったんだからな、あの間」
「そういえば何してたの?」
「なんか…メイドさん達にすごい体を触られた」
「誤解が生まれるからやめなさい」
「というか、貴方の家ってどこにあんの?南家は私行ったことがないの」
「まぁ……ちょっとね。行けばわかると思う」
「ふーん」
歩くの大好きな、二人はどんどん行きました。
ある時は坂道をある時はトンネルを、蜘蛛の巣を潜り、歪んだ砂利道を歩き見えてきたのは、古式の洋館だった。古いことは古いが、大きさは東家と引けを取らないほどだ。
「なんか……すごいね」
「そんな専門的知識を持つ者と話した人みたく言わなくても」
「あ、そうだ。一つ聞いておきたい事があるんだけど」
「ん?なんだ?」
「家族仲はよろしいですか?」
ノヴァは少しの間黙り考え込み、答えた
「まぁ……ね………そういうのはさ…………ね?…」
アイニスはテレパシーを受け取るようにノヴァの深層心理を正確に理解した。
「とりあえず俺は行ってくるから。ここで待っててくれ。うちそう言うのアレだから」
(言葉ってなんかすごく…アレだよね)byアイニス
扉を開けると、その音を聞きつけて一人の老爺がダッシュで駆けつけて来た。
「おいコラノヴァ!!今までどこをほっつき歩いとったんじゃ」
「どこも何もただの散歩だよ」
「お前が出て行ってまる2日経っているが?」
「いや…その…ちょっとバックルームに迷い込んじゃって」
「んなわきゃねえじゃろ!!逆にどうやったのか聞きたいくらいじゃ!まぁいい…とにかく上がれ」
「いやここでいい。ちょっと話したい事があってさ。じいちゃんに」
「ワシに?」
「ああ、俺勇者のパーティーで冒険しに行くんだ。だから、頂戴…」
「何を訳のわからんことを」
「俺、勇者選抜大会に出てたんだ。まぁそこで負けたんだけど、訳あって勇者パーティーに入って、冒険を共にする事になった。とにかく急いでるんだアレ渡して。」
「何を言っとるのかさっぱりじゃ」
「はあー、なら簡潔に……出せ。さもなくば天日干しして、パリパリにしてから落ち葉みたいにくしゃくしゃにした土に還すぞ」
「なんでワシがバイオマスにされにゃならんのだ?
(なんつう孫を持ったんじゃワシゃ。)そこまでいうならワシと勝負せい!お前が勝てたら渡す。」
「手短にな」
「だが……もし負けたら即当主となって家に残れ。」
「っち……まぁいいよ。何すんの?」
「蹴鞠?短歌?」
「どんだけジジイだと思われとんじゃワシ」
「じゃあなんだよ。っどくせぇな」
「ふっ!(許せ。ノヴァ)八●六十四掌」
「ふんふんふんふんふん」
ジジイの柔拳をものともせず、ノヴァは人差し指だけで全て受け止めて見せた。
「ふんぬ!!」
そして、その人差し指でジジイの腹部を刺突で一発
「ぐへ!!!ぐへ、ぐへ、、ぐへ、、、ぐへ」
「ハウリングしなくていいから早く持って来んかい!」
「分かった分かった……」
そう言って、ポケットの中をまさぐり始めた。
「んー……あ!……イヤ違うなー…」
「なんで家宝をそんなとこに入れてんだよ」
「……ちょっと待て……集中してる…んー……!?」
「あったか?!」
「チッチッチッ……んー?……」
痺れを切らしたノヴァはその場で、ジジイのポケットに手を突っ込み、きっかり4個取り出し自分のポケットに入れた。
「おい………!はあ〜、一応聞くが4個だけじゃろうな?」
「ああこれでしょ」
そう言ってポケットからそれらをチラリと見せた。
「孫がまた一人ワシの前から消えるのか……」
ボソッと呟いた。
「俺は死なないから安心しとけって!!それに…
兄さんがいるだろ」
「アイツはもう滅多に帰ってこなくなった。
次いつ帰ってくるかもわからん。わしは心配なんじゃよ。ワシはなアレ以来、お前ら達と会うとこう思ってしまうんじゃ。『これが最後なんじゃないか』って。」
「ジジイ……年寄りが…しんみりすんなよ、死んじまうぞ…」
ノヴァは背を向けて、微弱に体を震わせ、天を仰いだ。
「大丈夫!!ジジイが死ぬ前までに速攻で帰ってくっから。」
「ありがとう。あ、そうだ。じゃあお使いを頼もうかの。」
「おつかい?」
「そうじゃ……」
「お!おかえりー……大、丈夫そーーね。うん」
「はい。五体満足しっかり生きております。
で、これからどうする?カルマんとこ行くか?」
「ええ、そうしましょ」
「いやーにしても疲れた。ここまでどんくらい歩いたよ?」
「私も疲れたは、主に精神面が」
「とりま宿でアイツを待とうぜ」
目が覚めると俺は保健室のベットにいた。
「兄貴は!?」
起き上がったが部屋には誰もいない。
記憶が途中からぱったりと途切れている
(確か、今日は文化祭で………)
「そうだ………思い出した!」
シグマは布団を無造作に払いのけ、部屋を飛び出した。廊下に出ると、全ての人間がこの世界からいなくなったかのような静けさがシグマの体を包み込んだ。下校の時間をとっくに過ぎているのだろう。
下駄箱へ向かい自分の靴を取ろうとかがみ込んだ。
その時、何かを躊躇うように靴を取る手を止めた。
そして、靴を取り履いていた上履きを片手に持ち、門を出た。
昼下がり、カルマは一人宿への道を歩んでいた。
(取り敢えず、待ち合わせしてる宿で二人を待つとしますか。まあでも多分、俺の方が待たれてる側なんだろうけど)
「これをラストに死ぬまで俺と会わずに生きていってくれるなら…………」
たちと滲んだ紫色の空を見上げ、鼻から大きく吸った。そして、ゆっくりと足を進めた。
「でもやっぱり、寂しいよな…」
「待て!兄貴!」
背後から聞き覚えのある声が、カルマの背中の裾を引っ張るように体を止めさせた。
「なんで、またいなくなっちまうんだよ!」
一瞬足に枷をつけられたように足取りが鈍くなるのを感じた。だが、カルマは再び一歩、一歩と足を上げ歩み始めた。
「ルロイさんとアンさんが死んじまったあと、俺がどんな思いで、誰もいない家で過ごしてたか知ってるか?俺がどんな気持ちで、寝て!起きて!飯を食ってたか知ってるか?」
背後から震える声がカルマの目頭をヒリリと刺激させた。矢の雨が横なぶりに心に突き刺ささる。心に一つ、また一つと穴が開き、風が吹き抜けで行くような感覚がより目頭を熱していった。
「……………」
カルマは口の中で唇の裏を八重歯で強く噛みしめた
拳は爪が刺さるほど強く握りしめた。何かが溢れないように必死で握った。
「頼む……!!頼むよ……」
そのとき、ようやくカルマは足を止めた。そして振り返る事なく話し始めた。
「ごめんなーシグマ。俺、何もできないんだ。
あのとき、ルロイさん達が死んじまったとき、俺は葬式に行けなくて、お前のそばにいてやらなくて…………あんなに……俺たちを、本当の息子みたいによくしてくれたのに……」
カルマは上を向いて、まるで誰かがそこにいて、対話をするように話を続けた。
「そんな、俺と一緒にいちゃーお前もバチが当たちまうぞ。お前は俺と違って『選ばれし者』なんだから………」
カルマはおもむろに振り返った。
「目一杯コッチを楽しんでくれよ。……じゃあな」
そう言ってカルマは再び前を向いて歩み始めた。
「話は聞かせてもらったわ」「たぜ」
「え?」




