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シグマは考え事をしていた。
昨日、唐突に兄から『学校を辞めろ』と言われてから、夜も眠れず考えていた。
シグマは兄がおかしな奴である事を理解している上で、無理強いをしてまで自分を連れていくようや人間ではないと言う事を知っていた。
でもやっぱり俺は今の生活に充分満足して………
「よーーう!シグマ!なになに考え事?」
後ろから肩を思いっきり、押したのは、女友達のカナタだった。
「二人ともお熱いね。フ〜フ〜」
「うるせーなシュタイン、お前らがいるとおちおち考え事もできねえ」
「なになに?やっぱり考え事?」
「どんなだよ?」
コイツらには言えない、一番言わなきゃ行けない奴らだって分かってるけど言える気がしない。
「お前らには言わない」
「え〜」
「何だよ」
今はただこの心地いい空間を感じていたい。できるのならずっと…
「そう言えばさぁ、今日の文化祭お前ら何やんの」
隣の席に座る、男に聞かれた。
「言っちゃったら面白くないだろ」
「まぁそうだな」
俺はこんなに恵まれた環境にいていい人間なのだろうか?友達もいて、話しかけてくれる人もいて、恋人も…はいないけど、好きな人はいて、俺なんかがいいのか?
その日は時が過ぎるのが異常に早かった気がした。
文化祭だからだろうか、まぁそんなんだろうけど本当に早かった。どんなに俺が踏ん張っても時計を見ても時は容赦なく進んで行った。みんなと売店巡って、バンドの練習して、告白されて……
告白されて!?
「ずっと好きだったんだ…でも、なんだか言い出せなくて高校まで引きずっちゃって。あっ!ごめんねこんなに喋っちゃって………………その…………
それで………」
どうなってんだ。…これ、なんでこんな事になった?バレた…のか?いや!
なわけない
「その……………………俺……………」
そりゃ好きだったさ!中学で最初に話しかけてくれたのお前だったよな。でも初めての好きな人ってのと同時にお前は……お前は
俺の初めてのちゃんとした友達だったんだ
急に目頭が熱くなって、なんだか鼻の中が痒い感じがする。なんでだろう
「………俺は……………」
『シグマ君って言うんだ。カッコいい名前だね』
あああ……
『大丈夫?転んだの?もうしっかりしてってば』
ああああああああ………
『ちょっと二人だけで話せないかな…』
はああああああ!あああああ!ああああああああ…
その時頬に冷たくて生暖かい感触がつたったことに気がついた。
「お…………俺は……………」
言え!!好きだといえ!!それが以外何がある!
カルマはうっすらと涙を流した。
その時頭の中に1人の男が振り返って自分を見つめている映像が流れてきてハッとした。
なんだよ……俺に……
これは俺の人生だ!俺が選択するんだ!
シグマは後頭部のよれた髪を強く鷲掴んだ。
『でもここで……したら俺は兄貴とまた離れ離れだよな……』
シグマは今度は反対の手で頭頂部の髪の毛を強く掴んだ。
なんで……なんでだよ……
俺の人生なんだ!ほっといてくれよ
俺の……人生だってのに……
今度ははっきり自分の頬に涙が伝っていくのが分かった。
さぁ言え!言え!言え!!!
「シグマ……君?」
急な問いかけにシグマは咄嗟に答えた。
「へ?……………あ!ごめん……」
「え?……『ごめん』って…ダメ……なの?」
「あ……あ…」
『ち……違うそう言う意味じゃ……』
「分かったは………ありがと……聞いてくれて…」
「あ!……あ………!!」
『違うんだって!そう言う意味じゃ……』
「やっぱり『転生者』のシグマとなんかと私が……釣り合うわけないよね」
「え?なんで……知って…」
咄嗟に声が出た
「中学の頃、隣の席に時、寝言で聞いちゃったんだ。その時知ったの」
俺は、昔からよくモテた。最初は「転生者」っていうブランドを欲する女性が寄ってきているんだろうと思っていた。でも、今分かった。転生者という存在がそういった「ヒロイン」を引き寄せるのだと。
事実、俺は目立つような事を何一つしていなかったし、特に特徴もなかった。だがなぜか妙に人から好かれた。特に美女と呼ばれる類の女性からは、熱を上げられることが多かった。
いろんな人に告白された。美人にも、頭のいい子にも、天然な子にも、同性にも一度告白されたっけ。それも全部カナタのためだ。俺はカナタだけを見ていた……なのに何で!!何でなんだ?!
気がつくと、カナタは目の前にいなかった。
どこかで鳴くひぐらしの声がこれでもかというほどの空から降ってきた。
カルマの腫れた目はおもむろに時計に向いた。
「そろそろ………時間か……」
「お〜い大丈夫かよ」
「ああ大丈夫だよ」
ドラマのコザトが心配そうにシグマを見た。そりゃそうだろう、終始涙目で最後の練習をしてるベース
兼マイクを見て心配にならないはずがない。
「まぁ本人が言ってるしいいだろ」
「電子オルガンが言うならそうか」
「電子オルガンっていうな!ベースごときが」
「ベース大事だから!絶対バカにさせねぇぞ!」
ドラムの男はとても不安そうに四人を守るしかなかった。
「かかか、かっかかかかかか〜♪」
シグマが布○○泰式、音の調整をしていると、出番の合図が出た
「そろそろお願いしまーす」
四人は舞台袖で今やっているグループの曲を聴いていた。
とうとうか、でも緊張しないな何でだろ……
そのグループが演奏が終わり、彼らへの惜しまない拍手を横目に、俺たちは改めて楽器を持ち直していると、前のグループが横を通るのを確認した。
「じゃ皆んなよろしく〜」
俺以外の奴らはガチガチで、物理的に前を向けていないらしい。俺はリアルに前がYOU向けていないからか、全くその気持ちに共感できなかった。
「皆さんどうも『青春フーリッシュ』です。」
なんか…思い出しちゃうな、こうしてると
生前をこと
「それでは一曲目聞いてください。」
俺あっちでも……
「『君のそばで立っている』」
こうやってバンドやってたっけ……
ああ辛いな……
でもやっぱり歌ってる時が一番いいな。
何もかもどうでも良くなるっていうか、なんていうかさ、こう…本当の自分って言うのかな、そう言うのが出てる気がするんだよな。
あっちでも俺はそうだったし、今でもそうだ。
正直俺は世界一のめんどくさがりだから、自分で曲書こうとか思わなかったし、多分これからも思うことはないんだろうな……
でもそれが俺なんだ、そうだ!!それこそが俺なんだ!!
シグマはギターをかき鳴らし、彼らに新しい、自分の知ってる音楽を全力で発散した。
皆んな見てる、俺のことを………
いい曲作るよなー本当に!
自然とカルマの頬に涙がつたい、観衆はより、ヒートアップしていった。その観衆の中から一人の視線が飛び込んできた。その女の子は、俺と同じように涙を流して、こっちを見ていた。
多分後でちゃんと説明すれば誤解は解ける……
はずもないかwwww
カルマの頬に伝う涙の線がより太くなった。
その時、観客の中の一人の視線に気が付いた。
「シグマもいつのまにかこんなに大きくなったんだな!」
奴はこの学校とはどう考えても不釣り合いな
おっさんだった。カメラ片手に溶け込んでいたのだ。機械が苦手なのか、何度もカメラを覗き込みカメラワークをチェックしていた。
不意にシグマの中から沸々と怒りが込み上げまできた。さっきまでの自分がとても憎くなった。
その時、不本意にも奴と目が合ってしまった。
奴は涙を浮かべながら、『お兄ちゃんは嬉しいよ』と言わんばかりの笑みを浮かべていた。
その笑顔がシグマの心を切り裂き、破いた。
(俺はこんな目にあってるのに、なんでアイツは笑ってるんだ?アイツのせいで失恋した。そうアイツ……アイツのせいで)
「ええーとでは続きまして、『I was born to kill you 』!」
シグマの声が急に気だるげでどんよりと口調が変わった。
「あれ?シグマ、なんか……………ピキってね?」




