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さぁてと
愉快な仲間たちを煽って気分もスッキリしたし
本戦に臨む(心の)準備は整った。
場内に二人の男が現れた。
一人は何の武器を持たず貧相な格好をした男だった
もう一人は、丈夫そうで藍色の綺麗な鎧に身を纏った青年だ。
だが忘れてはいけない。二人ともここまで勝ち上がった正真正銘の猛者なのである。これは運や偶然なんて甘ったるいものではないただの純粋な『実力』
によるものである。
お互いが場内の中心へ集まり二人が正面に向き合った。カルマは大勢に見られているという緊張と相手の力に少し恐怖していた。
それに比べてカルロスは純粋な笑みを浮かべ、その表情は自信に満ち溢れていて、これから始まる戦いに期待を寄せているようだった。
『決勝戦!!カルマ・コールマン対カルロス・キングスマン!試合…はし″め″い″!!!』
(なんかやけに力入ってんな)
その声と共に会場中が熱狂に包まれた。最高の強者による最高の戦いが観れると誰もが期待していた。
だがその期待は一瞬にして裏切られた。
その瞬間カルマの腹から大量の血が吹き出し、膝から崩れ落ちた。
カルマはその会場なら熱気と歓声に呆気にとられ、目の前で対峙するカルロスが半端じゃない速度で切り掛かっていることに気づくことができなかった。
その姿は二つ前の試合にコタロウが見せた抜刀術
『秋茜』と不気味なほど似ていた。
カルロスはコタロウと違い前方に勢いよく踏み出すことで、(踏み込みによる飛び出す速さ+『秋茜』の抜刀スピード)×エメラルドブラックドラゴンの剣という、圧倒的な力でカルマをねじ伏せた。
だがカルロスだけは気付いていた。
「すごい!受け止めた!僕の攻撃を…」
カルロスが踏み込んだあの瞬間、カルマの手から黎剣が飛び出し、異次元の防衛本能で、カルロスの剣を完璧ではないが受け止め、攻撃の方向を僅かにずらし即死を回避した。
カルマは苦痛な表情を浮かべ、立ち上がった。
「ここまでくると流石にさっきみたくはいかないよね」
「伊達に年食ってないもんでね…」
カルマも対抗するように笑って見せた。
(っぶっね!あんなん食らっちまった……ら…)
その時カルマはハッと何かに気づき、焦るように傷口を撫でた。
カルロスは、ん?と言う様に首を傾げた。
「何か不思議なことでも?」
カルマは静かに眉を顰め、表情を曇らせた
「お前……転生者なんだってな」
「え?そ、そうだけど…何?」
カルロスはキョトン顔で頭を傾けた。
ああそうだった、コイツは……『転生者』だった。
「もう……いいよね?」
カルロスはめんどくさそうに、会話を強制的に終わらせ、また踏み込んだ。
だが今度は全く狼狽える事なく、カルマは冷静に黎剣でカルロスの大剣を受け止めて見せた。
カルマは片手間で大剣を受け止め平然とカルロスに問いかけた。
(コイツ!俺の剣を片手で!)
その時カルマの黎剣がカルロスの大剣を押し返した。そうしてガラ空きになった胴にカルマが矢のようなスピードで黎剣がぶち込まれるその時。
「水閃!」
そう言った途端、カルロスの右肩の上方に、水の塊が出現した。何かを感じ取った、カルマはすぐに飛び上がった。カルロスとカルマの間から爆音と白く眩い光が一直線にカルマの腹のど真ん中を突っ切った。
カルマは地面に倒れ込み呆然と地を見つめていた。
カルロスな不敵微笑み、カルマを見つた。
「大丈夫?って聞こえないか、閃光で目も視力も多分イカれてるでしょ?」
視界が変な感じだ。前が見えない。全てが白い。
耳もすげえキーンってなってめっちゃ痛え!
あ!少しずつ視界がひらけて………
目の前には大剣を振るっている真っ最中のカルロスがいた。まずい避けないと、死ぬ。いやダメだ間に合わねえ!
カルマの脇腹に大剣が当たる、あと僅か5cmというところカルマは動いた。両手を出し、剣の上下を両手で挟み込んだ。
(おいおいおかしいだろ!!)
「ぬああああ!!!」
剣がどんどん減速していくが、ゆっくりと腹へと剣先が近づいていた。だがその時、剣の動きが一瞬にして止まった。
(お前、なんでそんな事できるんだ?腹、撃ち抜かれたんだぞ!……と、とりあえず今は身を……)
カルロスが大剣をカルマの手から引き剥がそうと
引くが、何故だかびくともしい。
まるで地球そのものに剣が刺さっているようだった
そして今度はカルマの方からカルロスを手繰り寄せるように大剣を引いた。
カルマとカルロスの距離がどんどん近づいていく。
(まずいこのままだと至近距離でやられる!)
必死に足で踏みとどまろうとするがあまりにも力の差が歴然過ぎた。二人の距離がジリジリと縮まっていった。痺れを切らしたカルロスが人差し指でカルマの頭を指差し
「水閃!」と叫ぶと、再び凄まじい爆音と直線状の白い光がカルマを襲った。
(よし!今度は鼓膜もイカれたはず。とりあえず今は一旦距離を置かなければ……あれ?剣が…)
「第三壊相壊」
その時カルマはモールス信号を打つように、中指で剣の側面を高速で連打していた。
視力・聴力を失ったカルマが今できる最善の策。
それは触感を最大限に利用することである。
相壊でカルロスが剣を引き抜こうとするエネルギーと全く同じ、それ以上でもそれ以下でもないエネルギーを生じさせ相殺する。一般的には一時的なエネルギーを相殺するのに特化しているため、今回のようにエネルギー(引っ張る力)が全体を通して変動し続ける場合、相殺するエネルギー
がズレてしまい効果を失ってしまう。だが高速で連打し続けることにより、秒単位で変わる引っ張る力をその都度相殺することができる。
そして、右手で相壊し、剣に生じる圧力がリセットされた状態で、左手で引っ張る。
単純ながら確実に剣を動かす事ができる策である。
だがこの技には唯一欠点がある。
それは、自傷が伴う事だ。相壊した対象にかかるエネルギーはその対象とカルマの中指に均等に分配されるのである。今もカルマの指が少しづつ裂傷と青あざで、指が死んでいっていた。また、一見なにも起こっていなさそうなこの大剣も内部から少しずつひび割れていた。
だがカルマは指を止めなかった。大剣を引き続けた
視覚が徐々に取り戻してきたカルマは、より一層
強くひき、早く指を連打した。
そして遂に剣の柄を掴み、カルロスの手から大剣を力尽くで奪い取った。剣を取った瞬間、スリの現行犯かの如く走り出し、場内の端っこに剣を深々と突き刺した。
「ふーーこれでどっちも丸腰だ…な」
「死鎌鼬…」
気がつくと、カルマの脇腹は鋭利な刃物で切り付けられたように裂けていた。鮮血がズボンに染み込み、靴へと伝っていった。
「正味、僕の主戦力はあの剣じゃなくて、こっちなんだよね」不意にカルロスの目が蒼く光った。
カルマは早急に創復で傷を塞ごうと手を当てるがその時、左手の指先から肩までが真紫に変色していることに気がついた。
(こんな短時間で黎剣と創復を使いすぎちまったせいか!)
「死鎌鼬!」
狼狽えるカルマにカルロスは攻撃の手を緩めなかった。飛んできた見えない斬撃をカルマはとにかくその場から移動して避けることしかできなかった。
「これいいね!あの眼鏡の魔法なんかより攻撃間隔が格段に短い!」
カルマは開く傷を全力で抑えながら必死に走った。