1.マグネリアムにて
風に揺れたピンク色の花が、異邦人を見物するかのように咲いていた
幻の宝石グレートパールを探し始めてから一体いくつの国を回ったのだろう
アールノット地方にのみ生成されると噂される宝石を求めて8年近くが経ち、マグネリアムと言う国へと向かった。
淡い期待と疑念に入り混じった心をよそに、国境を超えて足を踏み入れる
マグネリアムの国境付近の街は、数年前の戦争の爪痕が大きく残りかつては家屋だったはずの木材が散乱していた。
無垢な子供たちはボールを持ってその周りを遊び、大人たちは昼から酒を飲み狂う、そんな街だ。
そんな街の事を横目に流し、マグネリアムで一番の大きさを誇る迷宮、ラジノ迷宮へ一人入ったバロックはグレートパールを探すためだけにここへやってきた。
グレートパールと言う宝石を見つけて、バロックの出身の国、ミーラムの王室へ渡した者には永遠の富が与えられると聞いてラジノ迷宮へ入った探検家は山のようにいたが、誰一人それを見つけたことは無い。
しかしバロックは、生まれてからずっと街を歩く貴族の靴を拭いて生きてきたのだから、簡単に富を諦めるには行かなかった。
途中、何名かの探検家と出会ったが皆やつれた様な顔をしていた。
片手には剣を持ち、残り少ない持ち物でさらに迷宮の奥へと向かって行く姿を見たバロックは、少し不安感を覚え一度迷宮を出る事にした。
旅の途中で貯めた所持金で、バロックは街の中心地から少し外れたバーへと向かった。
「いらっしゃいませ」
バーの店主は少し冷たい声で言った
「ザクロのカクテルをお願いします」
「かしこまりました」
席に着いたバロックに、隣の男が話しかける
「あんたグレートパールを探してるのかい?」
「そうです」
「こんな事を言うのはアレだが、グレートパールは探さない方が良い」
「どうしてですか?」
「これまで何千人、何万人とあの宝石を探す者がいたがこれまでそれを見つけた人は誰一人としていないんだ」
「なら私が一人目になりましょう」
「そのセリフも何百回と聞いて来たよ、まぁその命を大切にする事だね」
ザクロの様にならないでー 彼はそう呟いた
「お待たせしました」
目に前に置かれたカクテルにすっかり沈んだ気分を乗せて一口飲んだ
辛口で舌に絡みつく様な味だった。
「お客様、ラジノ迷宮へは行かれましたか?」
マスターからそう聞かれたバロックはすぐに答えた
「ええ、先ほど行ってきたばかりですよ」
「あそこはグレートパールどころか、もう宝石もほとんど取られてしまって残っているのは石炭だけです。もう少し離れたメラニア迷宮が良いですよ」
「ありがとうございます、明日そこへ行って見ます」
「ラジノ迷宮から北西に13kmほど離れた山の麓に入り口があります、見つけづらいですから用心深く探す事です」
「助かりました」
バロックはそう返事をすると残ったカクテルを飲み干して宿へと向かった
帰り道、何度か売春婦に出会い声を掛けられたが無視して先へ進む
こんな所で金を吸い取られている場合では無いのだから。
翌日、朝早くからメラニア迷宮へと向かったバロックはオルタネイア山の麓で入り口を探した。
洞穴は見つかるものの迷宮の入り口らしいものは見つからない
インチキの情報を掴まされたのかと苛立ちを覚えながら街へ戻ろうとすると、一つの洞穴から女性の泣き声が聞こえてきた
声の方向へ向かうと、そこにはツタの絡んだ小さな階段が現れた
その階段を一歩踏み締めると不思議と泣き声は消えてしまった