三幕 ~朽木の章~ 後編
「六道さん、信じて大丈夫……だよね?」
私は震える声で祈る様に、そう言った。
──ボーン、ボーン!!
突如、時計の音が鳴り響いた……。
「え!?」
気が付くと、そこはベッドのある一室だった。
呪いの人形がカタカタと震え、喋り出す。
「十二時ダ!サア、楽シイ処刑時間ノ始マリダ!!」
「嫌ァ!」
私は急いで部屋を出ようとした、すると扉が勝手に開き人が一人入って来た……。
──!?
「六道さんっ!!」
私は六道さんの顔を見て、一瞬安心したのだが……すぐに凍りついた。
六道さんの顔が醜く変形し、蛇の様な顔になったからだ。
「フフフフ……六道なんて名前の生徒なんて、最初かラ存在ナンテシナイノヨ……ハハハハハハハハ!!」
──!?
「嫌ァア!」
私は急いで走り出し、扉を開け廊下に出た。
……そんなっ!?六道さんは最初から居なかったの!?……じゃあ私は一体どうすればいいの?
「誰か、助け……。」
──!?
一人いた!廊下で出会った黒髪の女生徒!私は長い廊下の場所へと急いだ……。
……"彼女"はそこに居た。
「お願い!助けて!!」
……良かった、まだ私を見捨てないで待っていてくれた様だ。
「だから言ったでしょう?六道なんて名前の生徒、最初から居ないって……。」
「ごめんなさい……私。」
「時間が無いわ、こっちよ……急いで!」
二人で館の出口へと、走り出した。
玄関に到着すると、彼女はこの館からの脱出方法を教えてくれた。
「いい?十数えて、きちんと三回やるのよ?」
「分かった、ありがとう。」
…………。
「あっ、忘れてたわ……御札。出して頂戴。」
……えっ。
私は一瞬躊躇ったが、彼女に御札を渡す事にした。
「はい、これ。……それで、十数えて三回やればいいのね?」
…………。
返事は無かった。が、気にせずお呪いを始めた。
……えーと、目を閉じて十数えるのよね。
一、二、三……。
──がしっ。
彼女が無言で私の腕を掴んできた……。
「痛いっ!何!?」
……その握力は尋常では、無かった。
「手放したわね……。」
……え?一体どういう……事!?
「手放シタワネ……。」
──!?
彼女の顔がみるみるうちに、蛇へと変わって行った……。
──!?
「い、嫌ァアアア!!」
────────。
私はそこで目を覚ました。
「ハァハァ……。」
多少暗いが、私の部屋だった……。
私の膝の上には、やはりまた呪いの人形が乗っていた。
「ひいっ、もう嫌ァ……。」
私はその人形を部屋の隅に投げた……。
……カタカタカタ。
「後、二十分!残リ、後二十分!!」
……人形の声に驚きながらも時計を確認した、十一時四十分……。
私はその人形を持って走り出していた……。無駄な事は自分でも分かっていたが、走らずにはいられなかった……。
しかし、そう遠くにも行けず半ば諦め、また近くの公園のごみ箱に投げ入れた。
「お願い、もう戻って来ないで……。」
私は泣きながら祈る様に、そう呟いた。
「あら?その人形捨てるの?」
──!?
私の頭のすぐ後ろで声がした。
「ひいっ!!だっ、誰?」
私は驚いて飛び退いた。
……同じ学生服だった。私と同じ学校の生徒なのだろうか?顔は……見覚えは無かった。
「捨てるの?なら、私が貰ってもいい?」
……え?この気味が悪い人形を!?
「や、止めておいた方が……いいよ。ちょっとその人形呪われてるみたいで……その動いたり喋ったり……。」
この人形を誰かに手渡したら、もしかすると助かるのでは?……と一瞬考えたが止めておいた。
それで助かる保障は無いし、何より無関係な人を巻き込みたくは無かったからだ。
「あら?呪いの人形だなんて……ますます欲しくなったわ。とっても面白そうね。」
面白い!?いやいや、こっちは死にそうなのに……。
「フフフフ……じゃあ、貰っていくわね。フフフフ……。」
彼女はそう言いながら、闇へと消えて行った……。
「……え!?ええーっ。」
……私は彼女を心配したが、極度の睡眠不足でもう限界だった。緊張の糸が切れたからなのだろう……。とりあえず家に帰って一眠りしてから考える事にした……。
誰もが寝静まる、丑三つ時。彼女は一人彷徨っていた……。
いや、正しくは一人と呪いの人形一体。街灯がほとんど消えた夜の街を、ただひたすら歩いていた。
……カタカタカタ。
「馬鹿メ、アノ小娘ノ次はオ前ノ番ダ!!コンナ呪イの人形ヲ欲シガルナンテ、奇特ナ奴ダ!!オ前ノ命ハ、後三日ダ。残リ僅カナ短イ人生ヲ、精々楽シムンダナ!!ハハハハハハハハハハハハハ!!」
…………。
「……。」
「ハハハハハハハハ。」
「……。」
「ハハハ……。」
「あら?喋るなんて。フフフフフ……面白いお人形さんね。」
彼女は満月を背に、微笑んだ……。
「でも、少しおイタが過ぎる様ね。フフフフフ……帰ったらたっぷりお仕置きしてあげなきゃ。」
「ハハハハハ……ハ。」
「フフフフフ……。」
「大丈夫よぉ、たーぷり可愛がってあげるから……。お友達も沢山居るから、寂しく無いわよ?……クスクスクス。」
「ハハハハ……ハハ。」
──二日後、多少寝不足な目を擦りながら私は学校に向かった。
「えー、転校生を紹介する。」
──!?
彼女だ……。呪いの人形持ち帰った……。
あの人形……大丈夫なのかな?
「初めまして、五十嵐霊子よ。……ただの人間に興味は無いわ。この中に吸血鬼、神族、魔族、妖怪が居たら私の所に来なさい、以上!」
うん、何だか大丈夫そう。
その日は、五十嵐さんとは話せなかったが。翌日……お弁当を忘れた私は学食で五十嵐さんと六道さんと、たまたま同じテーブルになった。
「やはり私は、相対性理論よりも特殊相対性理論の方が好きだわ。」
「フフフフ……そうね、今時般若心経の暗記なんて楽勝よね……。」
一体二人は、なんの話をしてるのだろう……。
話の内容も気にはなったが、私は恐る恐る人形の事を聞いてみた。
「あの……人形なんだけど、大丈夫なの?……その夜中に動きだしたり、喋ったりしてない?」
……五十嵐さんは、にこりと微笑みながらこう言った。
「いいコにしてるわよ?でも最近元気無いのよね……お仕置きがキツすぎたみたい。」
お仕置き……私は多少気にはなったけど。やはり世の中、知らない方が幸せな事があると理解する事にした。
五十嵐さん、三幕までお読み頂きまして誠にありがとうございます。
感想、評価、栞、顔文字をして頂いた方に抽選で一名様に、五十嵐さんから呪いの人形がプレゼントされます。