三幕 ~朽木の章~ 前編
……私の名前は朽木葉子。両親が旅行から帰宅し、お土産を買ってきた。
ああ、両親が……いや父がこんな物さえ買って来なければ……。私はこんなにも恐怖に怯える必要など無かっただろう……。
……こんな人形さえ、買って来なければ。
────────。
──時は戻り、父はお土産を私に手渡した。
「はい、これお土産。」
「…………。」
気味の悪い人形を手渡された……。
「いらないわよ、こんな薄気味悪い人形なんて……。」
私は"それ"をテーブルの上に置いた。
「なんでだよ?……せっかく買ってきたのに……。」
……残念そうな父の顔なんて、見向きもせず私はお風呂場へ向かった。
「……ふぅ。」
入浴を終え、部屋に戻った私は驚いた。
私のベッドの上に、"その人形"が置いてあったからだ。
私はそれをむんずと掴み、父の元へと走った。
「ちょっと!いらないって言ったのに、どうして私の部屋にまで持って来るのよ?勝手に私の部屋に入らないでよ?」
……私の言葉に父は顔をしかめた。
「いや……父さんはそんな事なんてしていないぞ?勝手に部屋なんて入って、もし口聞いてくれなくなったら困るしな……。」
…………。
父ではない?じゃあ一体誰のいたずらなのだろうか?
……弟?母親?
うーん、わからない。……誰なのよ?……そう考えながら部屋に戻る私は悲鳴をあげた。
「ひぃっ!」
……人形がまた、私のベッドに戻っていたのだ。
……あり得ない。私は先ほど確かにその人形を父に返した筈なのだから……。
私はその人形を掴み外へ出て、走り出した……。
ただ、この人形が怖かった……。
「どこか、どこか遠くへ捨てに行こう。」
……しかし、夜中だしパジャマなのを気が付き。私はその人形を近くの公園のごみ箱に投げ捨てた。
……私は恐る恐る、自分の部屋に戻り自分のベッドの上を確めた。
……ベッドの上には何も無かった。
ほっと安心し、ベッドに腰を降ろした……。
あれは……あの人形は一体何だったのか……。
その事はあまり深く考えずに、葉子は眠りに付いた……。
「……ん。」
目が覚めると、そこは自分の部屋では無かった。
……まだ自分は夢を見ているのだろうか。
回りを見渡して見る……どうやら古びた洋館の一室の様だ。部屋の中はかなり殺風景でベッドしか無かった。……いや部屋の真ん中に何か……。
「……ひぃっ!」
私は急いで走り出した。部屋の真ん中にはあの"人形"が置いてあったのだ。私は急いで部屋の扉を開け廊下へと走り出した。
……しかし、いくら走っても外に出れる事は無かった。廊下へ出て玄関に向かい、扉を開けても何故か元の部屋……人形の部屋にもどされるのだ。
「これは……夢なの!?」
葉子は走った……。一体どの位の時間走ったのだろうか……?
一、二時間程度なのだろうか?……葉子は疲れ果て、座り込んで泣き出した。
「……やっぱり、あの人形……呪われてるのよ。」
葉子はこの館から出られない恐怖と、呪いの人形の恐ろしさに怯えた……。
館からは出られない、部屋に戻ってもあの人形が居る……葉子はただ恐怖に怯えながら、時間が過ぎるのを待つしか無かった。
……あれからどれだけ時間が立ったかわからない……小一時間程度だろうか……?
まだ開けて無い洋館の一室から、なにやら微かに人の声が聞こえた……。
葉子は恐る恐るその部屋に向かい、扉を少し開けて中を覗き込んだ……。
……そこは部屋ではなく、廊下だった。長く……果てしなく長い廊下……。
窓からは風が入り、白いカーテンが風に靡いていた。……その白いカーテンから一人の女性の姿が見える。……風に靡く流れる長髪の姿の少女だった。
「……誰?」
私はその少女に近付き顔を見ようとしたが、靡くカーテンが邪魔をして、顔がきちんと見れなかった。
少し歩くとその少女の顔が、はっきりと見え出した……。
その少女は……。
────────。
…………。
私は夢から覚めた……。
「夢……。」
どうやら先ほどの悪夢は、ただの夢だった様だ。
……見渡して自分の部屋である事を確認し、落ち着く私。
「ふぅ。」
なんだ……ただの夢か、そう思いベッドから出ようとすると"それ"は私の膝の上にあった……。
──!?
……昨夜の人形がまた、私のベッドに戻っていた。
「いやっ……。」
……私はあまりの恐怖に、ベッドから転がり落ちた。
……人形は、カタカタと震えながら……喋り出した。
「オマエノ命ハ、後三日ダ……残リ僅カナ人生ヲ恐怖ニ怯エナガラ、過ゴスガイイ……。ハハハハハハハハハハハハハ!!」
私は足がすくみ、ただただ恐怖に怯える事しか出来なかった……。