二幕 ~針山の章~ 後編
「おいおい、何の冗談だよ?ロン。」
「ははははははははははは!まだ、騙された事に気が付いて無いのかよ?お前、どんなにバカなんだよ!……俺が鬼なんだよ!!」
……俺は絶望した。……いや俺がバカだったのだ。ロンを信じてしまった……この俺が。人を撃つ事に恐怖し、自分の手を汚さず……生殺与奪を他人に任せてしまった事を……俺は後悔した。
「冗談……だよな?ロン。」
「ははははははは、じゃあなハリー!」
──ダンッ!
無情にも弾丸は発射された……。これが走馬灯と言うやつなのだろうか?発射された弾丸は、ゆっくりとゆっくりと俺の方へと向かって行った。
……俺にじゃれついて来る、愛犬のポチ。
……俺の弁当を作っている母さん。
……俺の事を心配そうに見守ってくれている大好きなお爺さん。俺の頭の中に走馬灯の様に様々な光景が浮かぶ。
──俺は恐る恐る目を開く……まだ弾丸は飛んでいる。……長いな、走馬灯!
てか、俺の走馬灯のラインナップがポチ、母さん、お爺さん。……別にいいんだけど誰か一人くらい可愛い女の子とか出てくれよ!……そうだな、同じクラスの女子なら一花さん。……一花さん可愛いよなぁ、あの元気で明るい所とか最高だ。てか、弾丸まだかよ?長いよ走馬灯。もういっそ弾丸回避出来るんじゃね?って程に長い!
「いや、それ本当に止まってるぞ?」
……眼鏡をくいっとしながら、クリスはそう言った。
──!?
「は?」
弾丸は止まっていた。……一体どういう事だよ?
「なんで止まってるんだよ?」
俺も驚いているのだが、ロンも同じ様に驚き戸惑っていた……。
「止めないと君は死んでしまうだろう?だから止めた……弾丸の時をな。」
「……は?」
「はぁ!!」
何を言ってるんだ?こいつ……と思ったが止まっている物は止まっているのだ。
……いや、いやいや色々おかしい。百歩譲って時を止めて俺を助けたとしよう……。
「そんな力があるなら……なんで、なんであの二人は助けなかったんだよ?」
「あの二人……か。」
クリスは眼鏡をくいっとしながら、その二人を見た。
「アリスの方はあれだ、最初から死んでいるのだから、もうあれ以上死なないだろう?」
「……は?」
「アリスは……彼女は恐らく"不死"だ、そうだろう?アリス。」
……何を言ってるんだ?こいつは。
「……なんだ、やっぱりバレてたの?」
アリスの顔が急にこちらを向き、喋り始めた。胴体は勝手に歩き出し顔を「よいしょっ」と言いながらくっ付けた……。
──!?
「はぁ!?」
「なんかさー、ヤバい奴が居るから死んだふりしてたのよねぇ……。」
「もう一人……マイ、君もその程度では死なないだろう?」
え!?……マイの方を見ると死体は綺麗さっぱり消えていた……。
「あら、バレてたの?上手く死んだふり、出来てると思ってたのに……。」
……後ろから声がした、いつの間にか椅子に座っていたのだ。
「ええ!?」
……一体どうなってるんだ?あまりにも混乱し過ぎて俺の頭は思考が停止した。
「ふざけるなよ!なんで生きてるんだよ!一体どうなってやがる!!」
ロンが震えながら怒鳴り出す。
「君が鬼で良かったよ……もう一人の方だと、どうしたものか?と悩んでいた所だ。」
……もう一人?俺の事かな?……何故だ?わからん。
「困りますねぇ、困りますねぇ……困りますねぇ!!私の邪魔をされちゃあ!!」
怯えるロンの隣に、ピエロの様な仮面の男が突如現れた……。
「ルールはルール、貴方達には全員死んで頂きますよ?」
……俺は震えて動けなかった。なんだこいつは……?悪魔?悪魔なのか!?
俺はその悪魔の異様な姿に驚き恐怖した……が。こっちの三人は……なんだ?
時間止めれる奴、不死の奴、マイは……わからん。
わからん……が、どっちだ?どっちの方が強い?三人居るからワンチャン勝てるのでは?
「ヒャーハハハハ、死ねぇ!!」
「フン……貴様ごとき下級悪魔風情がこの神である私に抗うとは……消えろ。」
あー、神だったわ……。
悪魔さんは、ギャアアアアアとか断末魔の悲鳴を上げ、スッと消え去った……。
「んー、終わったし帰るかぁ。帰れる様になったしね。」
背伸びしながら言うアリス。
「フフフフフ……そうね。」
椅子から立ち上がるマイ。
「なかなか面白い余興だったな、また来るとしよう。」
眼鏡をくいっとするクリス。
「ああ……そうだな、帰るか。」
俺も流れに任せ、ポーズを決めてそう言った。
──キリッ。
いや、どうやって帰るんだよ?色々突っ込みたい所多過ぎて突っ込みが追い付かねぇよ。俺の思考が停止した頭は、もう既に限界だぜ?
「…………。」
泡吹いて倒れているロン。
「少しいいか?マイ……君は一体何者だ?」
またもや、眼鏡をくいっとしながら、喋るクリス。
「何って……ただの人間の女子高生よ?」
「はぁ?そんな訳ないでしょ?あんな下級悪魔程度なら私でも余裕で倒せるのよ?あんたみたいな得体の知れない奴が居るから、死んだふりしてたのよ?」
「その通りだ……この神の力を持ってしても、貴様の正体が何なのかはわからん。」
「フフフフフ……大げさねぇ、ほんとにただの人間よ?クスクス。」
「まあ、いいだろう。……そういう事にしておこう。」
そうクリスが言うと、突然辺りが白く光り始めた。眩い光に包まれ、俺は視界を失った。足元が崩れ去り俺は下へ下へと落下した。
……落ちて行く落ちて行く、どこまでも。気が付くと俺は自分の体を上から覗いていた。
……俺は死んだのか?
……俺は。
俺の意識は段々と薄れて行った。
……まだだよ、俺はまだこんな所で死にたくない、死ぬ筈ない、立てよ……。俺は……まだ……。
遠い、遠い薄れ行く意識の中で……俺は。
…………。
神の声を……。
……。
──バリバリバリバリバリッ!六根清浄!!
けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音で、俺は目を覚ました。
おはよう、俺だ。……そう針山拳次だ。
俺は最近変な夢を見る。昨日はヴァンパイアと戦う夢、一昨日は大泥棒になって世界を駆ける夢。今朝は…………なんだっけ?まあ、いいや。なんかギャンブルして走馬灯なのは記憶している。
俺は歯を磨きながら、今朝の下らない夢を思い出した。
ポチにエサをやり、ポチに話しかける。
「走馬灯に真っ先に出てくれてありがとうな、お前はいい奴だな。」
「わふっ。」
ポチをなでなでし、俺は学校に向かった。
「転校生を紹介する、えーっ。」
「五十嵐霊子です、コンゴトモヨロシク……。」
……マイ!?
俺は驚いた。夢に出てきたマイそっくりじゃねぇか……。
いやいや、そんな筈は無い。あれはただの夢だろう?きっと他人のそら似さ……。
しかし、よく似てるなぁ……声までそっくりなんて、不思議な事もあるもんだな……。
どうやら一ノ瀬さんの従姉妹らしく、昼休みに少しだけマイ……いや五十嵐さんと話す機会があった。
「針山です、よろしく。」
「……。」
マイ……いや五十嵐さんは無言だった、まあいいか。
俺は後ろを向き、その場を去ろうとすると誰かが肩をちょんちょんと叩いた。
「ん?」
振り向くと、マイ……いや五十嵐さんだった。
「え、何?」
「フフフ……よろしくね、ハリー。」
……おいおい、まじかよ。
「俺の悪夢は、まだ終わってないらしい……。」
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……って五十嵐さんが言ってました。