二幕 ~針山の章~ 中編
──何処からともなくカードが出現し、並び始める。
「追加なら言ってね。あ、後イカサマはしても構わない……出来るものならね?」
……イカサマ?どうやってイカサマなんてするんだよ?と、言いたいのを抑え自分の手札を見た。
"スペードのエース"と"スペードのキング"だった……。
どうやら今夜の俺はツイてるらしい。
「俺はこのままでいい。」
追加をしないロン。
「俺もこのままでいい。」
眼鏡をくいっとしながら、追加をしないクリス。
「私もこのままでいい……です。」
怯えながらも、追加しないマイ。
「追加よ、追加!4なんて、最弱じゃない?追加よ!早くしなさいよ!!」
……そういうのはあまり言わない方がいいんじゃないか?と、言いたいのを我慢する俺。
どうやらアリスの手札は、あまり良くない様だ。
皆の手札が決まり、真っ先に手札を見せる俺。
「ブラックジャックだ。」
「俺は、19だ。」
舌打ちしながら手札を見せるロン。
「俺もブラックジャックだ。」
眼鏡をくいっとしながら、手札を見せるクリス。
「私は、これです……。」
マイの手札は"4"だった。
「あんたバカじゃないの!?死にたいの?」
ガタッと席を立つアリス。
「ルール知らなくて……ごめんなさい。」
「…………。」
ぺたんと座り手札を見せるアリス。
「7よ。」
「おいおい、あんたも死にたいのか?」
と、言いたいのを我慢出来ずに言ってしまう俺。
「五月蝿いわね、私の勝手でしょ?7よ?縁起いいから強い手札に決まってるじゃない!?」
……どういう理屈だよ?と、言いたいのは我慢した俺。
「最下位は……マイ。それじゃあ死んで貰おうか?」
……マイは青ざめ、手で頭を覆った。
「嫌ァ、死にたくない……死にたくない……死にたくな…………。」
──ザシュ!
……それは一瞬の出来事だった。
マイの体は真っ二つになり、辺り一面は血の海と化した……。ギロチンの様な物が一瞬で現れ、マイの体を真っ二つにし消えたのだ。
「うわああああああ。」
怯え床に尻餅を付くロン……。
「…………。」
何も言わずに眼鏡をくいっとしかしないクリス。
「嘘でしょ?」
ただ呆然と立ち竦むアリス。
俺も同様、その非現実の光景を呆然と見ていた……。
「流石に夢……だよな。」
「拳銃……使うかい?」
非情なアナウンスが耳に届く……。例え夢でも人殺しはあまり気分の良いものでは無い。
……俺は首を横に振った。
そして、またカードが配られ始まる……。
俺達の絶望とは関係なく、またゲームが始まった。
「さあ、お次は楽しいポーカーだよ?交換は一回だけだよ?」
俺は多少怯えながらも、手札を確認した。祈る気持ちが多少あった。……これは夢だ、夢に決まっている。……しかし本当にこれは……夢なのか?
──手札は……。
ワンペア……。
「さ、三枚交換で。」
……三枚の配られたカードを見て驚く……全て同じ数だ!
「俺も交換だ。」
「俺も交換しよう。」
ロンとクリスも交換の様だ。
「私も交換よっ。」
皆の手札が決まった……。
「フルハウス!」
俺は皆に手札を見せた。
ロンはツーペア、クリスは……。
スペードのストレートフラッシュだった。
で、アリスは……。
「ブタよ……。」
「…………。」
俺の頭の中に、沢山の思いと言葉が過ったのだが……それをけたたましいアナウンスがかき消した。
「ハーハッハッハ、楽しくなって来たね。お次のショーはアリスに決定だね!」
「ふざけるな!!」
俺がそう叫ぶと、同時に……アリスの首は飛んだ。
首は高く宙を舞い、花の活けていない花瓶の上に乗った。……そしてアリスの顔はニヤリ……と微笑んだ。
「うわああああああ!!」
「ひぃっ!」
俺とロンは、悲痛な悲鳴を上げ倒れた。クリスだけは、何も言わずにただひたすら眼鏡をくいっといじっていた。
「さあ、そろそろお別れで僕も寂しいが、ラストゲームと行こうじゃあないか!」
……この時やっと俺は気が付いた、これは決して夢なんかじゃない、現実と言う事に……。
……次は七並べ、手札がかなり悪い。正直少しヤバい、いやかなりヤバそうだ……。
「俺、ちょっとトイレ……。」
出ない筈なのだが、俺はトイレに駆け込んだ。鏡を覗き込み自分の顔を見る。……記憶が無いから知らないのも当然なのだが、俺の顔は酷く青ざめ、二枚目と言うには程遠い顔になっていた……。
「俺は……死ぬのか?」
鏡の中の少年は何も言わない。
……落ち着いて状況を整理する。俺が、自分が生き残るパターンを。
鬼が最下位なら俺達の勝ち、生き残れる。自分が一位になり、鬼を撃つ、もしくは俺以外の奴が勝ち、俺ではなく鬼だけを撃つパターン。
この三パターンだろう……。
それにはまず勝たないといけない、もし鬼が勝つような事があれば二人共死ぬ運命になるだろう……。
鬼はロンなのか……それともクリスなのか?
……どっちなんだ?
──ガチャリ。
扉が開いた……ロンだ。……ロンもトイレか?
……ロンは近付き、俺にこう言った。
「……俺と組まないか?」
……組む?どういう事だ?
「お前は鬼は誰だと思う?」
……鬼は、ロンかクリス……まだ分からない。
「俺はクリスだと思っている。……おかしいだろ、どう見ても?俺とお前は悲鳴を上げているのに、アイツは一言も何も言わない。……表情すら替えやしない!」
「……だから、俺はお前……ハリーを仲間だと思っている。」
「組もうぜ?ハリー、ロン同盟を!」
……確かに一理ある。言われて見ればクリスの様子は少しおかしい。落ち着き過ぎている。
やはり、組むならロンなのか?……クリスが鬼なのか?
「でも、組むって具体的にどうするんだ?」
「……簡単な事さ、イカサマだ!」
……!?イカサマ!?駄目だろ、それは流石に……。
──あっ。
「イカサマは認めているらしいからな……俺とお前でこっそり手札を交換するんだよ!」
……確かにそれなら勝てる、確実な程に。
「だいたいアイツおかしいんだよ……ブラックジャックとストレートフラッシュだぜ?ありえねぇだろ。」
「…………。」
「で、どうする?どちらがやる?」
「やる?……何を?」
「何ってお前……一位ならクリスを撃つだろ?」
──あっ、そうか。
……俺に撃てるのか……人を。
「どうする?俺はどちらでも構わないぜ?……俺が撃ってもいいし、俺が信用出来ないならお前が撃つんだ。」
俺は……。
──ガチャり。
「……少し長かったな、一体何を話していたんだ?」
「……いや別に、なんでも……ははは。」
「……まあいい、始めるとしようか。」
また眼鏡をくいっとするクリス。
──ゲームが始まる。
俺とロンはテーブルの下でこっそりカードを交換する。……頼むぜ?ロン。
ゲームが始まり、イカサマ仕様なので七並べは楽勝かと思いきや。……かなりの接戦だった。危ねぇ……。
「おめでとう!これでゲームは終わりだ!後はその銃で撃ち殺すだけだよ。鬼を撃てば君達の勝利が決まる!……まあ、ロンが鬼だった時は君達の負けはもう決まってるんだけどねっ。」
……俺は少し不安になりロンを見た。……いや大丈夫な筈だ、鬼はクリスで間違い無いのだから……。
ロンは銃を手に取り、銃口をクリスの方に向けた……。
俺は自分で撃たずに、ロンに任せた。……それが間違いだったのだろう。人を信じるのは良いことだが、自分の手を汚さない事は良い事では無いのだから……。
……俺は判断を間違えたのだ。
銃口の先はクリスではなく、俺に向いていた。