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一幕 ~四谷の章~ 後編

──5分後……。

幽奈は自分の携帯電話の液晶を眺めていた。時間は後25分しかない……。急がねばならないのは理解していた。しかし、一人では心細かったので、誰かに助けを求めようと考えた……。でもこんな事に大切な友人を巻き込んでいいものなのか?……無論駄目に決まっている。……それでも何かにすがりたかった、助けを求めたかった。

……幽奈の精神状態はそれほどまでに追い込まれていたのだから。もしかすると、大勢いれば何事も起こらないかも知れない。

……いや、例えどんな理由があっても、大切な友人を巻き込むのは間違っている……それでも。

「お願い……学校まで……今から一緒に行ってくれない?」

「え?今から!?どうして?こんな夜中に……?」


「……駄目……かな?」


「いいよ。すぐに行くから……待ってて!」

……ごめん……一花……。幽奈は心の中で幾度も謝り、すぐに来てくれる一花に感謝した。

「ありがとう……ごめんね。」

家の前で10分程待っていると、一花が走ってやって来た。

「……学校に行くだけなのに、泣いてるなんて……どれだけ怖がりなの!?」

「あ……来てくれて、ありがとう。」

……抱きついて泣いてしまいたいのを我慢し、学校に向かった。


学校は……また電気が消えていた……。

管理人室には、誰も居らず。……校舎の扉も開けっ放しだった。

「あれ?夜の学校ってこんなに暗いんだー!知らなかったねー。」

探検気分でわくわくしてる一花に対し、幽奈はガクガクと震え、怯えていた。

(どうして管理人室に誰もいないのよ……開いてるのもおかしいでしょ……。)


……キィ…………ガチャリ。

玄関の扉が勝手に閉まる……。

慌てて扉とカギを確認するも……カギが回らない……。

(閉じ込められたの……!?)


「何してるの?行くよー。」

「……あっ、うん。」

……二人は、暗闇の中を進んだ。あるのは手に持っている懐中電灯一つのみ。

一応いるかも?と、職員室も覗いてみるが、やはり真っ暗で誰一人居なかった……。

一応電気のスイッチを押してみるのだが、職員室も廊下の電気も点かなかった。


「夜の学校って思ってたより、真っ暗なんだね。知らなかった……あはははは。」

……流石にそんな事は無いだろう、と言いたがったが。今はこの一花の明るさが何よりも有り難かった。


二階の生徒会室にたどり着くと、すぐに電気のスイッチを押した。

……カチッ。

明かりが、パッと点灯した。

(どうして生徒会室だけ、電気が付くのよ……)


「あっ、そうか。電気のスイッチ押せば良かったんだー。」

一花は何も知らずに、そう言った。

一刻も早くここから逃げ出したい幽奈は、机に向かい財布を探す。

「……確か、机の引き出しの中って言ってたよね。」

机の引き出しに、財布は入れてあった。すぐに逃げ出そう!……そう思って振り向くと。

「あっ私ちょっと、トイレ行って来るね。」

……えっ!?

一花は返事も待たずに飛び出した……。懐中電灯すら持たずに。

……ええっ!

「ひっ、一人にしないでよっ!!」

幽奈は叫ぶが、返事は無かった。……ちょっと追いかけて、廊下には出たものの……廊下は電気もなく真っ暗闇だった。

(で、電気も点いてるし。……ここで待っていよう。)

真っ暗闇の中、トイレの外で待つよりは良いのかと、考えた。


……しかし、何分待っても一花は戻ってこない。一花がトイレに行ってから既にもう20分が経過していた。

「ちょっと……長いかなー。」

ただでさえ、怖いこの状況。一花が全く戻って来ない状況に何とも言えない恐怖を感じていた。

……もちろん、一花の身の安全も心配していた。


──さらに20分後が経過した。

いくらなんでも、遅すぎる。……まさか一花の身に何か合ったのでは……そう考えてる矢先。


コンコン……。

扉をノックする音が聞こえた……。

「……えっ?何!?」

コンコン……。

またもやノックの音……。その後一分程何も音がしない……。

「何なの!?」

幽奈は怖くなり後退りした……。


「たっだいまー!」


一花の声だ!

幽奈は安心した。……一花のいつものいたずらだったようだ……。


「ここ、開けてよー。」


なんでこの子は、自分で開けないのよ?と考え、扉に向かった……。

普通ならおかしいのに気が付いた筈だ、この違和感に。

しかし、この時の幽奈は……。一花の声を聞き安心仕切っていた……。


ガラリ……。

扉を開けたその先に……。


……「ナニ」かが居た。

制服を着た、髪長い少女が立っていた……。

すぐに一花では無い事は理解出来た。体全身に見も毛もよだつ恐怖が襲い。恐怖に体がガタガタと震え、一歩も動けずにいた。

そのナニかは異様な雰囲気を放ち、人ならざるものである事を理解するには充分だった……。


「ひいっ!」

黒髪の少女の首は、あり得ない角度で曲がっており。その異様さを際立たせていた。

「い、嫌!」

……ゆっくりと少女の頭が……上がる。

ズルリ……。


少女の顔には……目玉が無く……口からは血を流していた。

「………………!」

幽奈はあまりの恐怖に、声にならない悲鳴を上げた。一刻も早く逃げ出したいが、体が鉛のように重く全く動かない。

その「ナニ」かは、ゆっくりと……ゆっくりと近づいて来る。

幽奈の怯える顔を覗き込み、腕を掴んできた。

「痛いっ!!」

恐怖で……泣く事しか出来なかった……。

「誰か……助けて……。」

周りを見回すが誰もいない、ここは深夜の学校なのだから。……もしかしたらトイレに行った一花が戻って来るかも知れないのだが、当然誰もいなかった。

「……誰かっ!!」

…………幽奈は、あまりの恐怖に目を閉じた。

怖い、怖い、怖い、怖い……。


「止めなさいよ、彼女嫌がってるでしょ?」


……声がした。一花が戻って来たのだろうか……?幽奈は、恐る恐る……目を開けた。

「五十嵐さんっ!?」

……どういう事!?

その異様状況に、既に頭は回らなかった。


「ナニ」かは、ズルリと五十嵐さんの方に頭を向けた。……そして幽奈から離れ、ヒタヒタと歩き出し……五十嵐さんの元へ向かって行った。先程と全く同じ様に「ナニ」かは、頭をぐるりと回転させ。……五十嵐さんの顔を凝視し、腕を掴んだ。


「汚い手で触らないでくれる?」

五十嵐さんは掴まれた手を振り払い、その振り払う手でそのまま拳を「ナニ」かの顔面に叩きつけた。!

ギヤァァァァァアアア!

「ナニ」かは、奇声を上げながら20メートル以上先まで飛ばされ、壁に激突した。


……そして、窓から指す朝日と共に……消えて行った……。

「ええっ!?」

……その異様な光景に、思わず声を漏らすも。全く頭が働かずただ、呆然と見ているしか無かった。


「……貴方、何で来たの?今日はもう来ちゃ駄目って教えたでしょ?」

……えっ?

「だって、五十嵐さんが電話で!やっぱりすぐに取りに来いって!言ってじゃない!?」


……五十嵐さんは、それを聞いて首を傾げた。

「私はそんな事、言った覚えは無いわよ?」

……えっ?どういう……事なの?


「たっだいまー!」

陽気で明るい声がした……。どうやら一花が戻って来たようだ。

「あっ!霊子も来てたんだー!」


……え?

……なんで、知ってるの!?

………………。

その時、幽奈は初めて五十嵐さんに会った時の事を思い出した!

……そう言えば私も、「会ったこともない」はずの五十嵐さんの事を認識していた。

私は五十嵐さんに、一度も会ったことも無ければ、話をした事も無い。それなのに、私は五十嵐さんの名前と、顔を知っていた。


もしかしたら、一花も同じなのかも知れないと考え。……深く言及せずにいた。


……三人は、玄関口で靴を履き替え外に出ようとした……。

「あれ?霊子は帰らないの?」

……一人、外に出ようとせずにこちらを見ているだけの五十嵐さんに、一花は声をかけた。


「私は……行けないから。」

五十嵐さんは、悲しそうに微笑む。

「もう、会うことは二度と無いかも知れないけどね。」

「あはは!何も言ってんのよ?もう、明後日学校で会うでしょ?」


「もう、時間が無いわ……お行きなさい。」

私は深々と五十嵐さんに頭を下げた後、一花の手を引いた。

「……行きましょ」

「……え?霊子は?えっ!?」

「いいからっ」


──学校から外に出ると、もうすっかり朝日が昇り、夜が明けていた。

顔に当たる風がとても気持ちが良かった。あれほど怖い目にあい、泣いていたにも関わらず。……今は晴れ渡る空の様に清々しい気持ちになった。


……五十嵐さんは「もう会うことは無い」と言っていた……。少し悲しい気持ちになる。

それにしても五十嵐さんは一体何者なんだろうか……。そう言う考えも頭を過ったのだが、幽奈は微笑みながらこう言った。


「また、五十嵐さんに会いたいなぁ……。」


「またすぐに会えるわよ!」

一花もまた……笑いながら答えた。






いつもの日常に戻り、教室にある自分の席につく。隣には一花がニコニコしながら座っている。

「おっはよー」

「……いや、一瞬に学校に来たよね?」

そう言った下らない話をしながら、ふと先日の夜の事が頭を過る。

一花は五十嵐さんの事を覚えているのだろうか……?いや、あまり「あの夜」の話はやめておいた方がいいと思った。……嫌な予感がしないでもないからだ。……うん、やめておこう。

「ねー、それより聞いてよー。私の今日の運勢最悪だってー。」

「え、そうなんだ……大変だね。」

「なによそれー!私の今日の命運が掛かっているんだからねっ!一大事よ?一大事!霊子もそう思うよね?」

「……ええ、私もそう思うわ。」

五十嵐さんも、一花の意見に同意の様だ……。


「!?」


「だよねー!霊子もそう思うよねー!」

「その通りよ、一花の今日の運勢はかなり悪いわ。今日は冥王(プルート)が2000年に一度、ブラックホールに一番近付く日よ!カタストロフィーがゲシュタルト崩壊を起こして一花の身にも災いが降りかかるわ!だから今日は真っ直ぐにお家に帰りなさい!もし、寄り道なんてしようものなら……命は無いわよ?」


……五十嵐さん!?


「でも、まあ。霊子の占いなんて当たった事一度も無いから、まあいっかぁ。今日はさ、帰りにケーキ屋さんに行こう。うん、決定!」


……五十嵐さん……いるし……。

「えっ!ええっ!?」

私はあたふたと取り乱した……。


「幽奈は昨日会ったよね?私の従姉妹の霊子よ。ねー?変わってるでしょ?中二病なの……それもかなり深刻な……。」


……え?……いやいやいや……え?

従姉妹?……あっ、ああっ!?転校生?そうだ転校生だ!幽奈は転校生の資料と、生徒手帳の写真と名前を思い出した……。

なんだ、考えて見れば簡単な事だった。生徒手帳の顔写真で、顔と名前を知っていただけなのである。クラスも同じ、今日から同じクラスなのだから何も間違っては、いなかった。


……えーと、じゃあ私の携帯電話の着信は……?

「あー霊子ね、使い方が分からないからって何回もやり直したみたいなのよ、履歴残るの知らなかったみたい。」

……私はポカンと口を開けたまま、言葉を失った。


──その後、特に何事も無く。三人はケーキ屋さんに寄り、家に帰った。

幽奈は夕食や入浴を済ませ、部屋に戻ると携帯電話が光っているのに気が付いた。着信……24件……五十嵐さんかな?履歴を確認すると全て一花だった。……そしてすぐに鳴る着信音。

「はい、何の用?一花。」

「ちょっと聞いてよー。最悪よ!今日のケーキ高かったのに、全く美味しくなかったよー。」

あー、それは最悪だ。一花にとっては最悪な1日だろう。


全ては私の思い過ごしだった様だ。五十嵐さんはただの普通の人間で、一花の従姉妹で同じクラスメイト。何一つ不思議は無かった。

……幽奈は、灯りを消しベッドにダイヴした……。







な、訳無いでしょ!?幽奈はベッドから起き上がり叫び出す。

「あの化け物、パーンしてたよね?パーンって吹っ飛ばしてたよね?パーンって!!」

どうしても突っ込まずには、いられなかった幽奈でした。

掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありませんが、

この作品に感想、いいね、評価、ブックマークならびにリアクションをするとガチャ運がアップすると言う報告が多数寄せられています。作者の励みになりますし、また、世界平和にも繋がると思われます。皆様何卒よろしくお願いいたします……。(効果は個人差があります。療法を守ってご使用下さいますよう、よろしく申し上げます。)

……って五十嵐さんが言ってました。

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