四幕 ~一ノ瀬の章~ 中編
中年男性は、懐から袋を取り出す。
「……かっ、金なら用意して来た!」
先程まで、話し声で五月蝿い程賑わっていた酒場が、その人物の登場で多少のざわめきはあるものの、少し静かになる。
一人の冒険者がその人物に近付き、話を聞き始めた。
「……数はどのくらいだ?魔物の強さは?また、その種類は?」
…………。
その人物は、目を反らし少し気まずそうに説明を始める。
「か、数は数百、いや千くらいだ。魔物の強さと種類などは分からん。儂は、あまり魔物には詳しくなくてな……。」
……ざわざわ。
「千か……。ちょっとばかし、割に合わねーな。すまんな爺さん、悪いが他を当たってくれ。」
「そっ、そんな!?かっ、金なら用意してきたんだ。……ほらっ。」
思ったより、大金を用意して来た依頼人。……しかし、冒険者は大金に、見向きもしなかった。
…………。
「死んじまったら、元も子もねーぜ。」
…………。
依頼人の男性は、冒険者に断られ。おろおろと取り乱す。それでも諦めずに、他の冒険者達に声を掛け続ける。
「だっ、誰か。村を救って下さる、冒険者は……。」
…………。
……すたすた。
「あっ、私で良ければ行きますよ?村まで案内して下さい。」
……にっこり。
むふー。と、やる気満々で、その依頼者に話しかける一花。(パンを手に。)
…………。
「え、えーと。すまんが、お嬢ちゃんは魔法使いか何かかね?」
依頼人にそう質問され、きょとんとする一花。
「えーと。魔法使い……では、無いですね。」
…………。
「でっ、では。回復魔法が得意とか?」
……回復魔法?
「うーん。得意じゃないかも?です。」
…………。
…………。
「でっ、でも。大丈夫ですよっ!頑張りますからっ。こう見えても私、強いんですよ!」
…………。
当然ではあるが、依頼人の男性もがっかりし肩を落とす。
「他の冒険者は?誰かいないのかっ?」
…………。
「仕方ねーな。なら、俺達が行こう。」
ガイン達が立ち上がり、依頼人の元に向かう。
……ざわざわ。
「おいっ、あれ。ブルーフォレストのガインじゃねーか?」
……ざわざわ。
「ガイン達が行くなら、俺達も行こーぜ。」
……ざわざわ。
……?
「あのー、もしかして。ガインさん達って、結構有名な冒険者なんですか?」
一花は不思議に思い、ガインに尋ねてみた。それを聞きガインは、ふっと笑う。
「まぁな、これでもここいらじゃあ、一番名前が通ってるんだぜ。」
「へへっ、そーゆー事。」
「リーダーはほんと、お人好しねー。まっ、そういう所、嫌いじゃないけどね。」
ブルーフォレストのメンバーが四人集まり、依頼人から詳しい内容を聞いていた。
ブルーフォレストのメンバーが参加すると聞き、他の冒険者達も参加するかを話始めた。
「とっ、とにかく村へ来て下され。話はそれからでも……。」
「ああ……。そうだな。」
…………。
「それにしても、村を衛るにしちゃあ大金だな。」
「……村の為だ、仕方あるまい。村の為と思えばこれくらい安い物じゃあ……。」
…………。
「待ちなさい。」
後ろから声がし、その場の全員が振り向き、その声の主の方へと視線を送る。
「面白そうね、私達も混ぜてもらおうかしら?」
…………。
「マジかよ?」
驚く、ガインリーダー。
……?
冒険者達が、一斉にざわめき始める。
「えっ?」
一花の頭には「?」マークが飛び出し、全く理解していない様子だった為、ガインが気を効かし説明する。
「あれが噂の、勇者様だ。」
「えっ!?勇者?」
「……ああ、本物のな。」
…………。
勇者パーティーの参加により、ギルドにいる冒険者全員がざわめき、盛り上がり。そして、ここのギルドに居る冒険者、全員の参加が決まった。
一花、ガイン、勇者含め。一行百数人は村の救助へと向かう。一行が村に到着する頃には夜が更け、真夜中になっていた。
「おーい、皆ー。戻ったぞー!皆、無事かー?」
魔物達を警戒してか、村には沢山の松明が灯り。先に雇った傭兵らしき人物が数人、村の衛りを固めていた。
少し話をしていると、村の方から数名。大声を上げながら走り寄って来る。
「村長ー。」
「おお、皆無事の様だな。安心したよ。所で今、どんな状況だね?」
「……ああ、村長。それがちょっと不思議で。朝、村長が出て行ってからと言うもの、魔物の動きがぴたりと止んだんだ……。だから、今の所は無事だよ。」
…………。
「そうか……。このままずっと来なければいいのだがな。」
…………。
「しかし、村長。これまた大勢の冒険者を、雇ったもんだな。」
「……ああ。背に腹は代えられんからの。」
…………。
…………。
冒険者達一行は、少し考えた後。今は魔物が居ないという事で、夜営の準備に取り掛かった。
……ちなみに村には、宿屋は一つしか無い。
「一花。金は渡しておくから、今日はそこで泊めて貰え。」
ガインは懐から、お金が入った袋を取り出す。
「ほえ?えっ?いいんですか?あ、でもお金なら私も……。あ、いけない。友達に財布を預けたままだったよー。どうしよー。」
ガインは笑いながら、いいからいいからと、一花にお金を渡した。
一花が宿に行くと、その宿には沢山の子供達がおり。聞く所によると、冒険者達が託児所代わりに、宿に子供達を預けてるとの事。子供達は一花に飛び付き、動く事が出来ない一花だった。
…………。
「リーダー、少しいいかい?」
「どうした?ウィル。」
夜営の準備を終え、一息付いた所でウィルは何やら、神妙な面持ちでガインに話始めた。
「……リーダー。この依頼、少しきな臭いぜ?」
「どういうこった?」
「……あたしもそう思うよ、リーダー。村長、あたし達に何か、隠し事してそうな気がするよ。」
「シーフの勘ってやつか?」
「……まあね。」
「僕はハンターだけどね。」
…………。
「……単なる、思い過ごしならいいけど。」
「ま、勇者も居るんだ。何とかなるだろ。」
「……そうだと、いいけどね。」
……翌朝。
村に魔物の大軍が押し寄せた。数は五百くらいだろうか?かなりの数だ。本来、魔物がこんな風に集まる事は、通常あり得ない事なのだ。
……何か、無い限り。
「…………。」
ウィルはこの村に、何かあると踏んだ。
「これは少し、探りを入れた方が良さそうだね。」
──そして、魔物との闘いが始まる。
……ちなみに、一花はガインが宿屋に無理やり押し込んだ。
「私も戦います!」
とか、言っていたからだ。
「はいはい。これくらい俺達だけで余裕だから、お前にはガキ共のお守りを任せる。頼んだぜ、一花。」
…………。
「ええっ!?」
子供達が一斉に一花にしがみつく。子供達に圧倒的人気を誇る一花。
「お姉ちゃん、遊ぼー。」
「ええええ……。」
日が落ち、魔物達の討伐を終えるガイン達。
…………。
激しい戦いが終わり、ガイン達四人以外の冒険者達は、村の酒場や夜営地などに戻って行った。
……ガイン達は、ただ静かに夕陽を眺めていた。
「リーダー。私達も、そろそろ戻ろうよ……。」
「ああ……。そうだな。……しかし、これ明日もこんな感じなのか?」
…………。
「原因が解らない限り、何とも言えないね……。」
「それより勇者達よ!全然戦わないで、一日酒場でのんびりしてるなんてっ。一体、何考えてるのよっ!」
…………。
「確か、この程度の敵、私達が出る間でも無い。って、言ってたね。」
今日の討伐戦には勇者一行は、全く参加していない。その為、ガイン達が指揮を執り、中心となって戦っていた。
…………。
「うん。やっぱり、少し調べた方がいいみたいだね。いいかい?リーダー。」
「ああ、こっちは任せておけ。」
「あっ。じゃあ、私も一緒に調べるー。」
リーフィもウィルに同行し、調査へと向かって行った。
「……嫌な予感が、当たらなければいいんだがな。」
……翌日。
魔物の数は、さらにその数を増やしていた。数は千五百。昨日の三倍である。そして出現する魔物の種類も昨日より強く、ガイン達は苦戦を強いられていた。
「ウィルとリーフィが抜けている分、さらにキツいぜ!」
「……こっちは任せておけって、言ってたのはリーダーでしょ?ほら、頑張んなさい。」
「……へいへい。」
──ゴパァ!!
魔物達が、激しく吹き飛ぶ。
「やっと、勇者パーティーのお出ましか……。おせぇよ!」
…………。
「あん?何だ?戦士の兄ちゃん、一人だけかよ?」
応援に駆け付けて来たのは、勇者一行の戦士一人だけだった。
……だが、それだけで十分だった。
ガインとその戦士は、次々と魔物を撃退していく。この百数十人居る冒険者達の中でも、この二人だけ、強さが群を抜いていた。
その頃、村の酒場では。残りの勇者パーティーの内、二人が食事をしていた。おずおずと店の人が二人に話しかける。
「あのー。勇者様は、戦いに参加されないのですか?」
店の人に話しかけられたが、勇者は返事をせず。代わりにもう一人の武道家が、店員に話をした。
「戦士バリーが行っておる。あやつ一人で十分じゃよ。」
「は、はぁ……。」
おずおずと店の奥へと戻る店員。しばらくすると勇者パーティーの一人、魔法使いが戻り席に腰を掛ける。
「首尾は、どうだったかの?」
「……ああ。やはり、この村の村長は何か隠してるぜ。」
「……やはりか、来て正解だったな。」
「動くなら、早い方がいいだろう。外の魔物達は、バリーに任せて問題無いだろう。だが、急がねば我らの命とて、危うくなるかも知れん。」
「そうだな。儂らの目的は、最初から"それ"よ。頼んだぞ、勇者よ……。」
日が落ち、二日目の魔物達の討伐が終了する。今の所、冒険者達に死者は出ていない。それは、ガインと戦士バリーの活躍が、かなり大きいと言えるだろう。
「リーダー。」
ガインの元に、ウィルとリーフィが走って来る。
「何か分かったか?ウィル。」
…………。
ウィルとリーフィは、少し険しい顔をする。
「ああ。聞いてくれ、リーダー。こいつは思ったより厄介そうだよ。」
「実は……。」
翌朝。魔物達の数は、五千を超えていた。
「な、なんだよ?こりゃあ!」
いや、魔物の数はさらに増えていき。さらに昨日よりも、遥かに強い魔物も現れた。
…………。
「ちょっと、マズイんじゃねーの?」
「お、俺は降りるぜ。」
「おっ、俺も。」
「逃げろ、勝てる訳がねぇ……。」
一万を超す魔物の大軍に恐怖し。冒険者達は皆、ガイン達を残し逃げ始める。残ったのは五人。ガイン達と戦士バリーだけだった。
「あんたは、逃げねーのか?」
「…………。」
戦士バリーは、無言だった。
「リーダー。僕達も早く逃げないと、ヤバいよ。」
「ほらっ、あんたもっ。」
リーフィは、戦士にも逃げる様に勧めたのだが、バリーは首を横に振るだけだった。
……そして、襲い来る魔物の大軍。
──ゴパァ!!
バリーの大剣が、巨大な魔物の体を斬り裂く。
「……オレは、この命ある限り闘うのみ!」
退く気は全く無い、勇者パーティーの戦士バリー。流石は勇者の仲間、と言うべきだろう。
「は、早く逃げるよ!リーダー。」
「逃げるって、何処に逃げるんだよ?……このままじゃ、村も、子供達も、一花も皆死んじまうぜ?」
…………。
「このまま、ここにいても何も出来ないよ。……一つ、僕に考えがあるんだ。僕を信じて付いて来てくれ、リーダー。」
…………。
「ふっ。」
「分かったぜ、お前を信じる。仲間だからな!ウィル、俺はお前を信じるぜ!!」
──ドドドドドドド。
魔物の大軍は、そのまま一気に村へとなだれ込んで行った。




