四幕 ~一ノ瀬の章~ 前編
……ここは魔界。
海が広がる崖の上に、月夜に照らされ不気味に佇む城が見える。その城の一室にある大きなテーブルを囲み、十人のある人物が座っていた。
……人物。いや、それを人物と呼ぶには少し相応しくは無いのかも知れない。
正しくは魔王。
この世界を。いや、数多ある異世界の全てを統べる、十二人の魔王達である。
その十二人いる魔王の内、十人が既に集まっていた。
…………。
不気味な静寂が続く中、一人の魔王が話始める。
「……十人。これで全員か?」
「ああ、その筈だ。二人死んだのだからな……。一人は寿命、もう一人は勇者に敗れた。」
…………。
「勇者か……。人間如きに遅れをとるなど、奴は魔王の面汚しよ。」
…………。
「もう一人は寿命か……。儂ら魔族と違い、やはり人間は寿命が短過ぎるわい。たった百年しか生きられんとはな……。」
「いや、待て。その寿命で亡くなった魔王の一人。"魔女"王は、その後継者が新しく魔王になったと聞いたぞ?」
「は?……だったら、何故ここに来ぬのだ?」
──カツン、カツン。
足音が聞こえ、その者は入って来た。
「……フフフ。」
最後の魔王。"魔女"王が到着する。
…………。
「遅いぞ、女。」
「……フフフ、女はね。朝は、色々時間が掛かる物なのよ?」
"魔女"王『六道 冥子』
「そーよ、そーよ!」
隣に座っていた、同じく女性魔王が同意する。
「……フフフ。」
怪しげな瞳で、新たな魔王六道を見る女性魔王。
「私は"不死"王ベアトリスよ。女同士、仲良くしましょ?」
「……ええ、よろしくね。」
すっと、椅子に座る六道冥子。しかし、それをよく思わない魔王が数名。
「フンッ、人間が……。」
「ククク……。貴様、本当に強いのか?息を吹くだけで吹き飛びそうだぞ?」
息荒げに獣の姿の魔王が新人魔王、六道を挑発する。
…………。
「フフフ……。面白い事を言うわね。……なら試してみる?この煉獄の魔女の炎をね!」
怪しく目が光り、魔王の挑発に臆せず言い返す、六道冥子。
…………。
「止めておけ、二人共。……今はそれよりも、まずやるべき事があるだろう?」
「……そうだ、残り一人。後任の魔王と勇者の件だ。」
「人間など、放っておけばいい!」
「…………。」
「…………。」
魔王達が言い争う中、先程の六道冥子の隣に座る女魔王は、あくびをしながら退屈そうにしていた。
「ふわぁ……。どーでもいいわぁ。」
「フフフ……。」
そんな魔王達の会話を聞き、六道冥子は不敵に微笑むのだった。
────────。
「私は一ノ瀬一花。絶賛、迷子中です!」
今日も明るく、元気いっぱいの一花。
…………。
「ここ、どこー?」
きょろきょろしながら、辺りを見回す一花。
…………。
「えっ、どこ?ここ?……おーい、幽奈ー!霊子ー!いるー?返事してー!」
返事は無い。当然だが、誰もいない。
「おっかしいなー、何も覚えて無いやー。何か変な物でも食べたかなー?……そう言えば、ちょっと頭痛いし、記憶が……。」
……きょろきょろ。
「どうしよー、お腹空いたなー。晩ご飯までに帰れるかなー?よく考えたら昼ご飯から、ケーキ五つしか食べてないやー。……もうお腹ぺこぺこだよー。」
……きょろきょろする、一花。
「コンビニとか、ハンバーガー屋さんとか無いかなぁ……。」
……きょろきょろ。
「お腹減って、もう一歩も動けないよー。」
…………。
一花は少し落ち着き、今の状況を確認してみる。
「昨日の夜の事は、覚えてるのよね。確か、幽奈と霊子が泊まりに来て、ゲームしたりトランプしたり……。後はケーキ十個程食べたり、他にもドーナツとか食べて。後は……。バームクーヘンとカステラとワッフルと。えーと、それからそれからー。」
……何やら、食べ物の事ばかりの一花。
「それでえーと、今日の朝も昼もそんな感じで、二人で遊んでて……。」
……えーと。
…………。
「……ここ、何処?」
…………。
「まあ、いいや。とりあえず、お家に帰ろう。うん、よし!」
そんなに家から、遠く離れてはいないだろう……。
……きょろきょろ。
もう一度改めて、今自分の居る地点を確認する一花。
広大に広がる草原、空を飛ぶ巨大な謎の生物、巨大過ぎる二つの太陽。その太陽よりも十倍以上ある月の様な、何かしらの惑星。
──一花は理解した。
「ここ、東京の何区だろ?」
……理解していなかった。
明らかに日本ではない、何処か。……一花はちょっと寝惚けていた。
「うん、よし!まずは、腹ごしらえだよね。食べ物屋さん探して、お家に戻ろうう。幽奈も霊子も心配してるだろうし、晩ご飯までに戻らなきゃね!」
一花はとりあえず、当てもなく闇雲に勘だけで走り出す。
「あっ!」
一花の走るその先に何か居た。……巨大な何かが。それは牛の二、三倍はある、巨大な狼の様な動物だった。……プラス、スライム。
「かっ……。可愛いー!!」
一花は初めて見る、巨大な狼の様な動物を全力でもふりに行く。勿論スライムも、ぷにぷにした。
一花は巨大な狼の背に寝そべり、空を眺める。
…………。
ぼー。
…………。
──はっ!
一花は何かに閃き、勢いよくがばっと起き上がる。
「……そうだ!これ……多分アレよ!そうアレ!」
一花は確信した。……それは。
「あれよ!今流行りの異世界転生!!私は魔王を倒す為に、選ばれた勇者なのよ!!……きっとそう!うん、よし。」
──ばーん!
…………。
どや顔する一花。
──ぽてっ。
「お腹空いたなー。お腹空いて、眠れないよー。」
……zzz。
狼の背中の上で、すぐにすやすやと眠りに付く一花。
……すやすや。
一花、スライム、狼。三人仲良く眠りに付く。三人は気持ちの良い草原に吹く風の中、数時間程眠っていた。
日が落ち、少しづつ辺りが薄暗くなる頃。何かがざわめき出す声が、聞こえ始める。
「おいっ、あれ!」
…………。
何やら数人の話し声が聞こえるのだが、一花はぐっすりと深い眠りに付いていた。
「ガウ!!ガルルッ!」
──!?
突如、狼とスライムが暴れだし、目が覚める一花。
「ふえっ!?何?」
「ガルル!ガウッ!!」
狼がその声の主に吠え、飛び掛かる。
──ザシュ!
「ガオゥン。」
狼は大剣で一刀され、どさっと地面に倒れ込んだ。
「……え?」
一刀で狼を葬ったその男は、一花にそっと手を差し伸べる。
「ほらっ、怖かっただろ?もう大丈夫だ。俺達が偶然通らなかったら、お嬢ちゃん。今頃、そいつの腹の中だったぜ?」
…………。
「おーい。リーダー、大丈夫かー?」
「さっすが、リーダー。こいつを一撃なんてね。」
「フフ。お嬢ちゃん大丈夫?……怖かったでしょう?」
剣士の仲間だろうか?男性が一人、女性が二人。計四人が、一花と倒した狼の周りに集まる。
…………。
一花は倒れて動かなくなった、狼を悲しそうな瞳で見つめる。
「可愛いのに、何も殺さなくても……。」
「はぁ?何言ってやがるんだ嬢ちゃん。俺達が来なければ、今頃確実にそいつに食われてたぜ?」
大剣を持った剣士は、やれやれといった表情で一花を見る。
「そうよ、こいつはグレートウルフ。かなり狂暴な魔物よ!」
「そうそう。普段はこんな草原には、滅多に居ない筈なんだけどね。こいつには、もう何人も食われちまったって話さ。」
「ええー!?」
それを聞いて一花は、さーっと青ざめた。
…………。
「でっでも、大丈夫ですよ!私とっても強いんです!」
むふーと、どや顔する一花。
「そ、そうか……。」
はいはい、と言った表情でそれを聞き流すリーダー。
「私、体育の成績は五なんですよ!かけっこも得意で、クラスで一番だし!……そっ、それに私。なんたって勇者ですから!」
──ばーん!!
…………。
「はぁ?勇者!?」
「はいっ、勇者です!!」
…………。
「はっはっは……。これは可愛い勇者さんだ。確かに、この前魔王の一人を倒した勇者は女性だったが、年はもうちょい上の筈だぜ?」
「そうそう、今から行く街に居るんだよね。僕達も行く予定なんだけど、君も一緒に来るかい?」
「と言うか。貴女、こんな時間にどうしてこんな所に一人で居たの?」
「そーいや、そーだ。」
…………。
「あははっ、ちょっと迷子で……。」
一花は、この冒険者達と一緒に、近くの街へと付いて行った。街に入ると大通りはかなり賑わっており、もう日が沈んでいるというのに、店等に人通りが多く。その大抵の人は、今街に来ている勇者の話で、持ちきりだった。
「勇者の一行が、今ギルドに居るらしいぜ。」
「ああ、戦士、武闘家、魔法使いの四人パーティーらしいな。」
……一花は思った。
へー、凄ーい!私そんなに有名なんだー。
「勇者は凄い美女らしいぞ?」
……えへへ、やだなー。照れちゃうなー。
「だから、今度王子と結婚するんだってな。」
……えっ!?私、知らない。……私、知らないよ?聞いてないよ?
──ばーん!
そして、一花達一行は街の中央にあるギルドに到着した。
「さーて、噂の勇者様とやらの面でも拝みに行くとするかな?」
この街のギルドは、食堂、酒場。兼用ギルドでかなり大きく、賑わっており。空いているテーブルが、なかなか見付からない程だった。
「あー。いっぱいかなー。何処か空いてる所は無いかな?」
「あっ、あそこ。空いてるわ。私、確保してくる。」
初めて入るお店に、へーという感じで店内をきょろきょろ見回し。テーブルの上に並べられている美味しそうな料理に、よだれとお腹の虫が鳴り止まない一花。
……だらだら。ぐー。
「……一花もどう?おっ、奢るわよ。」
「ごっ、ご飯ー。もうお腹ぺこぺこだよー。」
一花は急いでテーブルに付き、とにかく食べ物を沢山注文する。
テーブルに付く四人、必死に食べ物を頬張る一花。しばらくするとリーダーが遅れてやって来て、席に付いた。
──ドカッ。
「で、どうだったリーダー?噂の勇者様は。」
「…………。」
「あー。強いかも知れねーが、愛想は悪ぃな。あまり、人と話すのが好きなタイプじゃないらしい。まっ、あれだけ人に囲まれりゃあ、そうなるのも無理ねぇかもだが……。」
「ふーん、あまりいい印象じゃないって事ね。」
……もぐもぐ。
「まっ。とりあえず飯でも食いながら、自己紹介でもしとくか。」
……はぐはぐ、ほえっ?
とりあえず、一通り名前程度はここまでの道中に、自己紹介は済ませていたのだが。しかし、それ以外の事はまだ何も話しておらず、何も知らないままなのだ。
一花が何故、あんな時間に。それも一人で居たのは、この冒険者達も疑問に思っている事だろう。
まあ、当の本人の一花は。何も考えず、必死にひたすら口の中にご飯を詰め込んでいた。
「俺はガイン。このブルーフォレストのリーダーだ。クラスは剣士、よろしく頼む。」
「私は、リアム。よろしくね。」
「僕の名前は、ウィル。ハンターだよ、よろしく。」
「私はリーフィ。シーフをやってるわ、よろしくね一花。」
……はぐはぐ、んぐっ。
「わっ、私は一花。勇者です!」
──ばーん。
…………。
…………。
「お……おう。」
「あのね……。よく聞いてね、一花。勇者はね、誰でも簡単になれる訳なんかじゃ無いの。魔王を打ち倒した者に、初めて贈られる称号なの。分かる?」
……もぐもぐ、んぐっ。
「そっ、そうなんですかっ。でも私、ここじゃない異世界から、いきなり飛ばされて。気が付いたら、こんな所にいて……。そっそれで、チート能力とかで無双して、魔王を倒す予定なんですっ!」
──ばーん!!
「…………。」
「…………。」
「ごめんなさい、一花。ちょっと何言ってるか、私には理解出来ないわ……。」
…………。
もぐもぐー。
──バタン!!
「たっ、助けてくれっ!」
ギルドの入口の扉を開け、血相を変えた一人の中年らしき男性が、息を切らしながら入って来た。
「村が魔物の大軍に、襲われてるんだっ。頼む助けて下され!」




