160cm、髪は短め、青色の服
わが旅の推進力は幕末の竜馬のような青い海風 水辺果実
灼熱のプールサイドの足跡を素足で踏んだ午後の体育 松尾響子
米利部長への直談判で、一人十首、二人で二十首のノルマを、一人一首二人で二首にまでさげてもらった。その結果が、今、体育館のスクリーンに、でかでかと投影されている。
暗がりで演台にたった米利部長が、新人歓迎会の、「その③ 各部の紹介・新人勧誘」 で、文芸部の勧誘をしているところだ。米利部長の、研究テーマ「河」に関した短い論説、桜並木先輩、夏にはイギリスへ留学してしまう、の「推理小説研究」の進捗、桜並木先輩と同じ二年生の、姉妹もくじゅ先輩の童話とエッセイが簡単に紹介され、演説の最後に、新入生ふたりの短歌二首がプロジェクターで映し出された。
さっきまで静まり返っていた体育館にさわさわとしたざわめきが起こった。短歌ブームは硬い。本名ではなく、ペンネームの「らっこ三世」で行きたかったんだけど、部長の反対にあったんだ。
「カナツ高校文芸部は、伝統的に筆名禁止よ。」
「ペンネームが許されるのは、代々、部長のみと決まっているの。」
まあ、文芸部を選んだ時から覚悟していたし、「踊る阿呆に観る阿呆、おなじ阿呆なら踊らにゃそんそん」だ。これは座右の銘みたいなものだ。
「わが文芸部では、今年度から『短歌』を活動の一角にします。」
「この二首のような短歌をもっと読みたい方は文芸部前までおこしください。」「部室のドアに毎月短歌の新作、二首を展示します。」 「短歌を読みたい人、短歌を作りたい人はぜひ文芸部の門をたたいてください。」
部長の演説は、まるで部室の前までいったら、引きずりこまれてしまいそうな激しさだった。
「水辺くん」
集会が終わって、椅子をかかえてみんなのなかを教室に向かって歩いていると、松尾響子が話しかけてきた。
「大成功だね。米利部長も上出来っていってたわ。」
身長は160cmぐらい、髪はショート、短め、青色の服を着ている。
これが情報の全てだ。部室のドアに貼られた、部員募集の文字の紙と、松尾響子、僕の短歌二首が書かれた紙を読んでいた女生徒。
目撃者は、桜並木先輩。さすがは推理作家志望なだけはある。星の特徴を的確にとらえている。そして、中央廊下の方へ猛スピードで走り去った。
星は有力な新入部員候補だ。絶対に確保しなくてはならない。この目撃情報は午前中には、文芸部員全員で共有された。四月下旬にしては寒い、晴れた日の午前だ。
昼休みに入ると非常招集がかけられた、桜並木先輩、姉妹先輩、松尾響子、僕、そして招集をかけた米利部長が部室にあつまった。
「俺は二階の二年生をあたります。」「部長と水辺が一年生、姉妹ち松尾さんが二年生を担当してくれ。」
推理作家志望の桜並木先輩が指揮をとって、星、いやいや、新入部員候補者の捜索が始まった。僕と米利部長は、一階の南端から各教室をのぞきながら青色の服を着た女生徒をさがした。一年E組、昼の太陽が差し込み教室は眩しくかがやいている。眼をほそめ、こそこそとのぞき込むが青色はみあたらない。米利部長は廊下に目を光らせている。昼食時間で人通りは落ち着いている。青色なんてみあたらない。カナツ高校は、制服が無くて服装は自由だ。星も明日には違う色の服をきてしまう公算が高い。今日中に確保しなくてはならない。
桜並木先輩の推理では、
「みんなとワイワイやるタイプ」
「弁当を持ってくるタイプ」
「飯はゆっくり食べるタイプ」
「だから・・・昼休みは、教室ですごす・・・と結論する」
三階担当の姉妹先輩から、文芸部のグループメッセージにメッセージが入った。
「ワレキシュウニシッパイセリ」
三階の南端から北端まで到達したらしい。僕たちも全教室をチェックし終えてしまった。
「風と共に去りぬ」
米利部長がメッセージを送った。
「シオドキ」
桜並木先輩からも、空振りを伝えるメッセージが入った。
「この暑さでしょ。」
「僕も途中で気づきました。星は上着を、青色の上着をしまいこんだ可能性が高い。
米利部長と桜並木先輩が部室で作戦会議を行っていた。
「だから、夕方、太陽がかげる放課後に、ふたたび青色の人が降り立つ・・・と思います。」
「放課後になったらいそいで部室に集まって、作戦を練るわよ。」
放課後がラストチャンスだ。
「いい、これがラストチャンスよ。」米利部長が激をとばす。
「姉妹と松尾さんは北玄関を、部長と水辺は南玄関。俺はチャリで駅までの市街を担当します。」
「みんな、いくわよ。」
米利部長の号令にみんなは目と目を合わせた。
「よしっ」桜並木先輩が気合をいれる。
僕は、その勢いにおされて部室のドアをやや乱暴に勢いよく開けた。
部室のドアを開けると、そこに青色の服をきた女生徒が立っていた。ショートヘアで160cmぐらいの。