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文芸部 ほたる短歌班  作者: はあとのええす
5/13

客寄せパンダ

 三年で部長の米利門子が言った

「文学は交響楽のスコアーよ。人間という作者の心を紡いだ楽譜よ。」

 月曜の放課後、再び文芸部の部室を訪れると、松尾響子と米利門子が部室のテーブルについて談笑していた。そこに入ってきた僕に米利部長が話し出した。例の自己紹介を済ました後に。「森」の歌はまだだしていない。

 「そしてそれはどれも素晴らしい楽譜、作品ばかりだわ。人間の心に良し悪しを付けることはげきないの。」

 「読者は、オーケストラとなってスコアーを演奏するの。良し悪しは、その時の読者の年齢、経験の有無、未熟、成熟度合い、気分の状態で違ってくるのよ。」

 「だからスコアーに、一席も二席も三席も無いの。」

 「短歌の世界のような、心の表象たる詩に順位をつける文化は受け付けられないわ」

 僕が、この文芸部で短歌をやりたい、短歌の順位付け大会とも言えるのか「先刻短歌大会」に部員をメンバーとして参加したい、の旨の自己紹介をしたのを発端に、短歌の独特の世界にたいする米利部長の批判が始まってしまった。

 それは僕も感じていたことだった。一生懸命詠った歌が投稿しても採用されなかったり、採用されて、それが三席だったり一席だったり。

 それに、「お題」に対してほか投稿者が採用されて、自分は落選という状況をうまく受け入れていなかった。他の作品を、その素晴らしさ、を素直に観賞できないことが多くなってきていたんだ。でも、ぼくにはこの状況を説明する一つのアイデアがあった。それを米利部長の短歌界批判論にぶつけた。

 「それは僕も感じてます。」

 「でも、短歌作りって、部長の表現を受け継ぐと、楽譜書きより楽器作りに似ているとおもいます。」この反駁がうまくいくかどうかは出たとこ勝負だ。

 「一首一首が、一本一本のブルースハープなんです。一つのブルースハープをその製作者が吹けばその音楽が、そして、読者もそのブルースハープを手に取って、読者なりの演奏、短い演奏をができるんです。一つの詩に関して、作者も読者も、その詩を、その楽器をそれぞれの背景の中で奏でることができるのが短歌なんです。」

 「だから・・・、楽器作りに良し悪しはあります。ブルースハープのリードが良くなければ良い演奏はでみません。」「短歌は、落選や入選、順位づけの批評をうけて、つまり楽器でいえば品評をうけて、そのつくりを工夫していく世界です。言葉の使い方を工夫することは心の修練、感性の醸成、良いブルースハープを仕上げる練習です。」

 米利部長はじっと聞いてくれていた。左手で胸を抱いて、右手であごをつまんでる、あのポーズだ。

 彼女は微笑をうかべながなにやら考えていた。僕のしゃべったことを、整理してくれてるらしかった。松尾響子がきょとんとした顔で、でも僕の言ったことをわかってくれてる様子でたたずんでいた。なにやらノートを出しながら。

 米利先輩もなにやらノートに書きこんでいた。そしてまた話を始めた。

 「確かに、A川賞、N木賞といった賞レースはあるは」

 「そして、作品は出版会という商業ベースに乗らなければ読者に届くことはないは」

 「さしずめ長編小説は、バイオリン作り、フルート作りってことね。あなたの言葉を借りれば」

 「短歌、それは心の修練。文学の高み。」米利部長は詠嘆した。

 「『瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末にあはむとぞ思ふ』っね。」

 部長は、長編に挑戦していて、研究主題は「河」だった。

 「わかったわ、水辺果実、松尾響子、あなたたち二人は今日からカナツ高校文芸部『短歌班』よ。」

 「ちょうど良いわ。部員に欠員が出るのよ。二年の桜並木くんが夏休み明けに留学しちゃうの。あなたたちが入部してくれたから、今、短歌部は五人。四人になっちゃうのよ。五人未満だと活動休止で部費とかでなくなっちゃうの。」

 「世は短歌ブーム。」米利部長はアクションをまじえて話を続けた。

 「あなたたち二人で、月に十首つくって、それを部員募集に載せて部室の前に貼りだすわ。この手があったわね。短歌ブームを窓口にして、文芸の世界にみんなをひきずりこむのよ。部員倍増計画よ。」

 月十首は無理だろう。投稿もしたいし、だいたいプロの歌人は一首につき二カ月は推敲するっていうぞ。歌集本だって一冊だすのに五、六年かけてる。一首詠む労力は半端じゃない。

 呆然としたままの僕と、僕を見直したみたいなふうで微笑んでいる松尾響子は、米利部長に帰宅の旨をつげ二人して退室した。松尾響子が

 「一首できたわ。」

 と言ってノートを見せてくれた。



短歌って書いてパンダよ白色と黒の世界を歌うパンダよ      松尾響子



 短歌班が結成された。

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