~王妃に呼ばれてみる~
~王妃に呼ばれてみる~
王妃からのお呼び出しは学園に入学してからはじめてだった。馬車で王城へ向かう。馬車にはコンラディン公爵家の家紋が入っているから門番が確認を行う時間も短い。
いや、門番にはすでに王妃が私を呼び出したことは連絡済みなんだろう。
それくらいスムーズだった。いや、スムーズすぎて怖かった。
王城に入ると案内するものがやってきた。
「王妃殿下は執務室におられますのでご案内いたします」
「ありがとうございます」
仕事中だよね。王妃でも決裁できる案件は多い。というか、王妃が優秀だからそうなっているのだ。
国王が無能というわけではない。ただ、なんというか、ちょっと国王は自由な人なのだ。大事な時は間違わないが、それ以外だと結構「まかせた」と言って役職ある人に分投げるのだ。
その癖、不正はすぐに気が付く不思議な人だ。だから、王妃も長い目で第一王子であるアルベイン王子を見ているのだ。
憂鬱だな。
「失礼いたします」
「入れ」
低い、不機嫌な声が聞こえた。入りたくないが、ここで帰っても意味はない。
中に入ると樫の木で作られた大きなデスクが中央にあり、左右には文官が控えていた。決裁された書類を持って走り回る。王妃からの質問に答える文官もいる。
「呼ばれた理由はわかっているかしら?」
目線は書類を見たままだ。
「それはアルベイン王子殿下にまとわりついている羽虫についてでしょうか?」
「わかっているじゃない。なら、排除しなさい。手段は問わないわ」
排除したいよ。でもね、あれチート主人公なのよ。武力ではうまくいかないし。ってか、手段は問わないの?
「それは何をしてもよろしいのでしょうか?」
「ええ、これ以上あのバカ息子が問題行動を起こす前に原因を叩き潰してちょうだい。期間は3か月よ。それ以上は待たないから」
長いようだけれど実はこの3か月というのはかなり短い。でも、おそらく失敗したらこの怒りの矛先は私に向かってくる。
「かしこまりました。では、私からもお願いがございます」
「内容によるわ」
一旦深呼吸をする。
「アルベイン王子殿下との婚約を解消してください。女狐に騙されたとはいえ、あのような行動は許せません」
「残念ね。私はこの場所に座るのはあなたがふさわしいと思っていたのに」
「私にも選ぶ権利はあります。『アレ』はもうちょっと教育してくれていたらこの選択はしなかったでしょうけれど。それでは、私は準備がありますから」
そう言って私は王妃の前から立ち去った。言ってやった。というか、言ってしまったが正解かもしれない。
けれど、怖気づいていたらうまくいかない。これからはあのチート主人公を潰すことだけを考えておこう。
ゲームとは違う。貴族としての特権をすべて使ってやるわ。だって、手段は問わないという言質をいただいたのですもの。
さあ、これから追い込みの時間ですわ。