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天空の妖界  作者: siguhatyou
出会い
3/15

帰宅のち雪女

「で、お前のやりたい事って?」


 話し合いの結果、一度俺の家へ帰宅する事になった。来た道を帰りながら沈黙を作らぬよう雪撫に話しかける。

 一方彼女も喋る事が好きなのか、俺の言葉を積極的に聞いて反応してくれる。陰陽師志願者と妖怪が並んで喋っている奇妙な光景だ。


「とある妖を探しているんです」


「とある妖ね、名前は?」


夢現(ゆめうつつ)という妖怪です。私の仲のいい友達で、凪君と呼んでいました。彼は少し前にここに来ている筈です」


「妖怪の雪撫と人間の俺じゃ時間感覚が違うだろうから曖昧だけど、魑魅魍魎の百鬼夜行が空から降ってきた日の事かな」


 問題は夢現なんて妖怪を教えて貰ったことは無い。天空にあると予想されている妖怪の住む世界、通称『天空の妖界』には人間の知らないような妖怪が沢山いるのかもしれない。……かなり安易に困っているのならと言ったが想像以上に難易度の高いお願いかもしれない。


「なんか特徴とかないのか?というか取り憑いているから特徴聞いても分からないか」


「そうかもしれません。でも、妖怪の生命力である妖力が見えれば凪君を見つけられるんですが……取り憑かれている人間は妖力を発しますのでそれを見れば判別出来るかと。と言っても、隠そうと思えば隠せるんですが……」


「難しいんだな……ほら、遠くに見えるあの家が俺の家だ」


「あの川沿いにポツンと建っている白い家の事ですか?」


「そうそう、まぁ普段は別の所で生活してるからあんまり使わないんだけどな」


「そうなんですね、真君の家なのだとすれば……来客が来ているみたいですよ?黒い髪の女性がインターホンのカメラに向かって手を振っています」


「え、お前この距離からそんな見えるの?」


 俺も遠目で来客が来ている事は見えていたが、宅配便か何かだと思っていた。どうやら雪撫の視力も人間のそれとは大きく違うらしい。


「えぇ、その隣には小さな金髪の女性が腕を組んでいます。何か黒髪の女性に話しているみたいです」


「え――」


 俺はそこで足を止める。雪撫はそんな俺の様子に首を傾げ、同じく足を止めた。


「真君?」


「その二人、多分俺の知り合いだわ……」


「あっ――」


 事件の話を聞いて俺の家に来るにはあまりにも早すぎる。雪撫の事を話す心の準備も出来ていない。


「わ、私隠れておきましょうか!?」


「そう思う前から隠れておくべきじゃ」


「はっ――」


 聞き慣れない声が背後から聞こえ、振り返る間もなく鋭い蹴りが背中へと刺さった。雪撫ではなく俺の背中に。

 慣性の法則が働き、首の骨が持っていかれそうになりながら俺は蹴り飛ばされ、家の近くで地面に叩きつけられる。

 なんとか受け身は取れたものの、反応が遅れたために胸元を地面にぶつけてしまった。呼吸が上手く出来ない……。

 俺の様子を心配して先程インターホンの前に立っていた女性が駆け寄ってきた痛みの無い背中を優しく撫でてくれる。


「真君大丈夫?」


「ゴホッ、だ、大丈夫……」


「嫌な予感がして来てみたのだけど、『真君にとって』嫌な状況だったわね」


「流石の勘だよ御社……」


「真君大丈夫!?」


 ようやく体を起こした俺の元へ雪撫が慌てた様子でやってきた。その後ろで俺を蹴りつけた金髪の女性が腕を組んで立っていた。


「大丈夫……」


「え、えっとこの人達は?何もしないから真君の心配してあげろって言われたんだけど……」


「雪撫、蹴り飛ばしておいて心配してあげろって言う人間はまともな人間じゃないから信じない方がいいぞ」


「はぁ……お主は先輩の紹介も出来んのか」


「先輩なの?」


「あぁ、こっちの黒髪は御社好(みやしろこのみ)。俺と同級生だ」


 全く手の加えられていない綺麗な制服に身を包み、目が隠れるか否かの所まで前髪を伸ばしている御社が雪撫へと手を挙げる。雪撫も恐る恐る頭を下げた。


「もう一人が背の小さい金髪女性が千宮司焔(せんぐうじほむら)先輩だ」


「もう一度蹴り飛ばされたいか?」


「勘弁してください」


 白いベルスリーブに黒いサルエルパンツを身につける金髪が千宮司先輩、俺より五歳程年上だが身長は一番低い。

 つり上がった目をしているせいで怖い印象を持たれるが、もう数年の付き合いなので優しい先輩だと知っている。雪撫は俺達のやり取りが面白かったのかくすりと笑った。


「さて、一旦お主の家に入ってから話をしようか」


「ですね、千宮司先輩と御社に何があったのかも話したい」


「雪撫ちゃんで良かったかしら?その白い着物と不思議な目、雪女よね。驚く事が多いだろうけど何もしないから一緒に家に入りましょう」


 一人困惑する雪撫の手を取り、御社が家の扉を指差す。


「は、はい!」


 不安の色が表情から消え、雪撫の顔に笑顔が戻った。


「そうそうこの何も無い家にな」


 千宮司先輩はニヤリと笑いながら俺が鍵を開けるのを待っている。


「千宮司先輩は俺の家紹介も出来ないんすか……」


 先程の言葉を真似て答えると、千宮司先輩は鼻で笑って俺の脇を通り過ぎた。


「百点満点の紹介じゃろうが、行くぞ。あまり雪撫の姿を見られるのもまずい」

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