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オカルト部  作者:
7/14

六話目

六話目です。変更点として、一話目の事件を七年前から九年前に変えました。辻褄合わせです。意識しなくともさほど影響はないと思われますのであしからず。

  睦月有香は英都を玄関まで見送ると、その足で居間に入った。壁沿いにあるスイッチを押し、電気を点ける。居間の中はただただしんとしていた。時折、虫の鳴き声が聞こえてくる程度だ。有香は急ぎ足で台所に進む。少し、肌寒い気がしたが、気のせいだろう。

 夕食を作ろうと、まな板を用意する。それが、彼女が料理をするときの癖であった。だが、すぐに作れる料理は思い浮かばない。頭が少し、ぼんやりとしていた。虫の音が、この家の静けさを教えてくれるようにうるさく耳に流れる。有香の両親は、帰りが遅い。そのため、有香は中学二年の時から、晩御飯を一人で作る様にしている。

 まな板を前に料理を考えようとして、だんだんと思考がずれていくのが意識される。彼は、結局心霊スポットへ行くとは言わなかった。まだ、迷っている。

 そのことが、どうしても気になってしまう。

 有香は数日ぶりに、涙が出そうになる。部屋が寒いのがいけない。

 有香の予想では、英都はなんだかんだ言いながらも、心霊スポットに必ず来ると確信していた。それは、彼の性格の良さを知っての見込みだった。彼はまだ一度も有香の誘いを断ったことがないのだ。それはきっと、他の友人からの誘いも同じはずである。

 妹の話をしたのが間違いだったのだろうか?

 有香は考える。

 有香が選んだ心霊スポットで、英都の妹が死んでいたことは彼女にとっても偶然な出来事だった。彼女は、オカルト部の過去を漁り、そのスポットに興味を持ったのだ。だが、発見してしまえば仕方がない。貴重な情報だからと、有香は逆に利用して、彼を心霊スポットに行くように注意を向かそうとした。外ずらは、ああやって優しく、丁寧に気を使って喋っていたが、あれは、彼が来ることを見越しての心配であった。言うなれば、最後の追い打ちのつもりである。彼なら、気にかけて来るだろう、と。

 しかし――結果はどうだ。

 来ないかもしれない、と言う状態になってしまった。追い打ちなどかけない方が良かったのだ。

 有香はそれを後悔していた。

 そして、英都が来なかった未来を考えると、心臓が痛んだ。

 どうしてだろう?

 包丁を持つことも、まな板を水でゆすぐことも今の彼女は忘れていた。気が散っていてしょうがない。

 有香は料理を作るのを辞め、台所を出ると、疲れを取る様にソファに深く腰を掛けた。そこで、眠る様に瞳を閉じる。部屋の中にある、何かの電子音が低く耳に響いていた。しばらくして、闇の中で日本人形が浮かび上がった。あれは、呪物でもあり、呪いを避けるお守りでもある、と黒衣の少女は言っていた。有香は、その言葉についてしばらく考えようと思った。


 約二年ほど前、優香は自殺を検討したことがある。それは、高校に入ってすぐの時期。友人の不在、テストの点数が極端に悪化、誰も居ない家が重なり、彼女は極度のストレスを抱え、鬱になってしまった。高校受験の時、無理に勉強し本来の学力よりも数段レヴェル高い高校に入学したことを恨んだりもした。通学路の駅で、何度も自分が巨大な電車にひかれる空想をした。だが、結局、一週間悩み、自殺をすることは無かった。理由は、母と父が、優香の誕生日を祝ってくれたことだった。その日は平日であったが、特別に両親は休みを入れていた。優香は学校から帰ってきて、始めてその事実を知ったのだ。もう、自殺は辞めようとその日に誓った。

 有香が降霊術オカルトにハマったのは、その後、自殺の衝動を抑えるためであった。自殺したいと思うとき、彼女は本当に死ぬ代わりに、降霊術を調べ、用意を整え、実行する。思いのほか、有香は降霊術と言う恐怖に抵抗を感じなかった。降霊術を行うことで、自分が不幸になったり、死んだりするかも知れないし、何も起きずに生きてしまえるかもしれない。その、生と死のはざまの状態を、その時の有香は求めていた。また、幽霊と言う不確定な存在によって、自分の生死が決まることも彼女にしてみれば魅力的で愉快な事実だと思うことが出来た。そうしてこれまでに有香は六度降霊術にチャレンジした。だが、その全てにおいて、失敗している。最後に降霊術を行ったのは一年前の夏である。ひとりかくれんぼを行った。だが、当然何も起きなかった。四時間が経ち、何も起きないことにわくわくが冷めたのを彼女はよく覚えている。

 有香はまだ、幽霊を知らない。オカルトを知らない。

 その状態にある自分が、酷く恐ろしいように思えてならなかった。

 英都は幽霊を知っているという。他の人は、幽霊を怖いと言う。心霊スポットが恐ろしいと言う。

 有香には、その感覚が無い。だから、幽霊とかオカルトの話をすると、どうしても、自分には何かが欠けているような感覚を持ってしまう。それが、不愉快だった。

 カタカタカタカタ――。

 不意に、何かがぶつかる音が聞えた。それは連続性を持っている。

 有香は驚き、瞳を開ける。視界がぼんやりとしていた。

 天井に意識を向けると、その音は、少しづつ早くなっているのが分かった。

 髪の長い、動く日本人形。有香はそれを思い出す。きっと、それが動いているのだ。彼女はまだ、日本人形が動いた所を見たことがなかった。想像すると、頬がにやついた。

 ソファから降り、有香は慎重に二階にあがる。

 予想通り、その連続性の音は、有香の自室から響いていた。彼女は興奮状態のままドアノブを回し、勢いよく扉を開ける。瞬間、音が消えた。しんと夜の空気に静まった部屋は、夕暮れの光に淡く照らされている。日本人形の頭が、鳥かごの檻にくっついていた。身体全体が左に傾いている。それ以上、ピクリともしない。

 有香は五秒ほど、日本人形を見つめた。だが、それは動く気配を見せない。不意に、英都から日本人形に注意するよう言われたことを思い出した。今度は安全確認を心の中で行ってから、慎重に檻に近づき、檻の上の取っ手に手を掛けた。日本人形は動かない。空中に浮かすと、ガタン、と人形と檻がぶつかる固い音がした。その音は、先ほどのような波長では無かった。有香は檻の中身が余り重くないことを確認すると、鳥かごを持ったまま、ゆっくりと廊下に出た。

 動く人形を持ち歩く。そう意識すると、弱い明かりに照らされた廊下が、一気に不穏な世界に変わった。階段を降りるときも、日本人形が今にも動くのではないかと、有香は興奮しっぱなしになっていた。この感覚は、久しぶりである。有香はまだ、今年に入って自殺を考えたことは無かった。

 居間に戻ると、有香はテーブルの上に鳥かごを置き、興奮状態のまま台所に入った。夕食を作るためだ。まな板をゆすぎ、包丁をその上に置いた。鍋がコンロの上に置いてあったので、蓋を取るとカレーのルーが半分ほど埋まっていた。有香は昨晩、カレーライスを食べたことを思い出し、今日の晩飯はカレーうどんになるな、と冷蔵庫を覗いた。

 それから数分後。簡素な食事を終えたのが十九時前だった。

 食器を片付け、ソファの前で韓国ドラマの録画を見ていると、不意に、机に置いていたスマホが震え出した。

 ラインの通知が来ている。有香はスマホを手に取った。

〈日曜日、行くことにします〉

 英都からの連絡だった。

 感動に、手が震え、スマホが落ちそうになる。

「よっしゃぁ!」

 有香は勢いよく叫ぶ。この瞬間、すべての不安が消し飛んだ。 

急ピッチで書いたので、文体がおかしくなっていたと思うけど、どうかな?

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