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オカルト部  作者:
4/14

三話目

三話目です。A市をT市に変えました。まあ、そんな大きな変更ではないので気にしないでください。

 今後の話し合いが終わり、四人はいつものように部活動の時間を雑談で過ごした。千草はおどおどと来週の日曜に迫った肝試しに怯えていたが、他の面子はあくまでも表面上は変わりなかった。いや、有香などは口が良く回り、比較的いつもより騒いでいた。

 五時ちょっきしに顧問の高木が教室に入ってきて、部活動終了の知らせを言った。四人はリュックを持ち、部室を出る。外の夕日は若干暗さを伴っていた。廊下はもう静かになっており、四人はゆっくりと階段を降りる。帰宅を急ぐ人間は居なかった。高木先生は鍵をかけるため三階を回っている。

 ぽんぽん、と英都の肩に手が置かれた。彼は振り向く。階段一つ上に有香が居た。彼女は一度人差し指を口元に寄せてから、ゆっくりと階段を降り、踊り場で立ち止まった。

「なんですか?」英都は踊り場に降りる。「みんな行っちゃいますよ」

「…この後用事ある?」有香はうっとりと微笑んだ。

「ああ」英都は頷く。「無いですね。また、先輩の家ですか?」

 これはいつもの事だった。有香は家に『自称オカルトグッズ』を置いている。だが、霊感がある英都が見るに、どれも怪しい点は無かったし、そもそもその大半が一般で売られている可愛らしい縫いぐるみでしかなかった。だが、彼女は何故かそれらを呪いの人形や呪いの縫いぐるみなどと紹介し今までに四度、英都が彼女の家に出向き、調べに行かされているのだ。つまり、ちょっと頭のおかしな先輩であった。

「まぁ、いいですけど」英都は基本暇人である。塾や勉強は彼の中で必要事項には入っていない。

「今日は特別なんだ。英都君もびっくりするくらい、特別な物を診てもらうの」有香は本当に嬉しそうな顔をした。

「どんな物?」英都は冷たくいう。言った後、彼は少し後悔した。時折、彼の口調は他人行儀になるのだ。

「ふふっ。それは内緒」有香は微笑む。「来てからお楽しみ」

 そして、彼女は階段を降り始めた。英都はゆっくりと彼女のあとに続く。


 睦月有香の家は、学校から五駅分先の場所にある。ここは海が近かった。英都の家は学校のすぐ近くにあり、彼女の家に行くこと自体ロスタイムが否めなかったが、それもいつものことだと諦めた。

 電車内は帰宅する学生が比較的多くいた。だが、それも彼女の降りる駅になると、人数は格段に減った。

「喫茶店、閉まったんですね」道半ば、英都はシャッタの閉まった喫茶店の前で立ち止まった。

「ここ?…ああ、そう言えばそうだねぇ」有香が興味ありげに古いつくりの喫茶店を見つめている。「通ってたの?」

「いや、二、三度だけだです」英都は抑揚の無い声で答える。「もう一度行ってみたかったってのは、ありますけど…」

「ふぅん。喫茶店かぁ…私、行ったことないなぁ」有香が言った。

「そうなんですか」英都が有香の方を向く。「へぇ…近くなのに」

「近いけどさ。別に目立ってるわけじゃないし」

 確かにその喫茶店は目立つ場所には無かった。この付近自体が廃れている。高いビルも無く、屋根を見れば、青い空が大きく視界に映る。かけられた看板にはこうあった。

 〈極楽堂〉

 個人経営の喫茶店で、英都は雰囲気が気に入っていた。だが、閉まったのなら仕方がない。また別の喫茶店によるだけだ。

 二人はゆっくりと田舎特有の寂しい街並みを歩く。十分程歩き、有香の家に着いた。彼女の家は一軒家だった。

「お邪魔します」英都は玄関に入る。他人の家特有の匂いが鼻についたが、英都はもう何度も来ているから慣れたものだった。

「ささ、上がって上がって」優香が先に廊下に上がり、すぐ近くにある階段を一段登った。

 英都は急いで有香に続く。彼女の部屋は二階の隅にあった。有香の部屋は、壁一面に縫いぐるみが飾られている。少し高い位置にあるカーテンは閉められ、カーテンの前を縫いぐるみが占拠しているのだ。その大半が縫いぐるみだが、一割ほど日本人形があった。そして、その一割の人形が一つ増えていた。

 英都は机の上に置かれた、膝ほどある大きさの一体の日本人形を見た。それは、何故か檻の中に入っている。

「これは…」彼はぞっとなる。

 その人形には少量の霊気があった。他の人形にはないものだ。他の日本人形よりも大幅に髪が長い。呪物である、と彼はすぐに確信した。

「呪いの日本人形」有香がベッドに座り、嬉しそうに答える。「英都君に見せたかったのはこれ。ネットで買ったんだ。夜カタカタって動くし、たぶん呪いの人形に間違いない」

 有香はベッドの上にあるリモコンを取り、エアコンの冷房をつけた。

「そうでしょうね…」英都は後ろ手で扉を閉めた。「今のところ、危険はなさそうですけど」

 呪物ではあるが、その霊気はまだ少量でしかない。呪物の中でも低級にあたる。きっと、影響としては物音や耳鳴りが起きる程度で収まるだろう。彼はそう分析した。

「やっぱり呪物だよね、それ」有香が前のめりになって訊いた。

「ええ…呪物ですよ。たぶん、低級ですけど…」英都は日本人形に近づいてそう言った。「どうして檻の中に?」

「檻の中に入れるように言われたんだ」有香は嬉々として答えた。「そう。持ち主が、私の家に直接来てくれたんだ。この檻と一緒に」

「え…。直接?」彼は振り返る。

「そう。黒い帽子に黒いマントのオカルトチックな少女だったぜ。私よりも年下だった」

「それは、愉快じゃないですね。何者なのかな、その少女…」英都は声が少し堕ちる。真剣に考えようと思ったが、残念ながら英都にオカルトにまつわるの知識はない。と言うか、今まで避けてきた節がある。思考しても、アイディアは浮かばなかった。

「ふふふ。こういう不思議がオカルトの世界だよ」有香が嬉しそうに笑った。

 英都はゆっくりと日本人形から離れ、クッションに腰を降ろす。日本人形は動かない。ただ、動きそうな気配がした。

「将棋でもする?英都君?」有香がベッドから降り、英都の対面に座った。丁度、低いテーブルを挟んだ形となる。

 英都はまだ呪いの日本人形を眺めている。別称、市松人形と、彼は無為に考える。

「ああ」ほとんど生返事の声だった。「そうしよう」英都は有香の方を向く。

「じゃあ、ちょっと待って」有香はベッドの下を覗き、そこから足の無い将棋盤を取り出した。それを、低いテーブルの上に置く。

 英都が有香の家に行く理由の一つに、彼女が将棋相手をしてくれる、と言う理由があった。最初は有香の方からオカルトグッズを見てほしい、と言う要望からであったが、三度の訪問でそのほとんどのグッズに霊気が無いただの置物グッズであると分かると、今度は暇つぶしで行っていた将棋を目的に訪問が始まった。だが、これまで英都が自ら有香の家に行こうとしたことは一度もない。全て、有香からの声かけで英都は彼女の家に行き、その理由に将棋をつけたのである。

 将棋盤を前に、二人は仲良く駒を並べ始める。英都は将棋も強かった。有香も真剣にやれば将棋は強いのだが、彼女は将棋中ほとんどを雑談に費やして、その能力の六割ほどしか出さない。英都はそれが少し残念だったが、有香が喋りを辞めることはそうそう無いことだった。

「私ね、T市にある心霊スポットについて、少し調べたんだ」駒を並べ始めてすぐ、有香が言った。「英都君は、愛知連続バラバラ殺人事件って知ってる?」

「知りません。テレビみませんから…」英都は淡々と答える。「それが、どうしたんですか?」

 有香は少し顔を上げる。「うん。話しておいた方がいいと思ってね、行く前に…英都君は、本当に知らないの?結構有名だけど?」

「知りませんよ」英都は顔を上げて答えた。少し、肌寒かった。

「じゃあ、説明するね。その殺人事件は、今から九年前の夏――六月から九月後半にかけて行われた連続バラバラ殺人事件。被害者は六歳から十二歳の四人の少女達で、犯人は中年の男一人。だけど、犯人は複数いたとか、もっと殺しているとか、そう言った噂話は絶えずある。犯人は今死刑判決を食らって、留置所で死刑待ち。つまり、まだ生きてるんだ」

「そうなんですか」英都はずっと駒を見ている。ただ、少し、鼓動が激しい。どうしたのだろう?彼は理解が出来ない。「ちょうど、オカルト部の部員が殺害された時期ですね」

「そう。それも発見したときはびっくりしたよ。殺害場所も一致している。学校ではそこまで言わなかったけどね。でも、もう主犯は捕まってるし、それ以来殺人現場になったって噂もない」それから有香はじっと目を細める。「…本当に知らないんだね?」

「知りませんよ」英都は急いで顔を上げて言った。

 英都は自分が動揺していることに気づいた。

「じゃあさ」有香は姿勢を正す。彼女はまっすぐに英都を見つめていた。「その被害者の一人が、船月由奈って名前なんだけど、英都君には関係ないのかな?」

「え…」英都はぼんやりと有香を見つめる。船月由奈は、英都の妹の名前である。「…なんで、妹が出てくる?」彼は低い声を出した。

「妹さん、やっぱり居るんだ」有香は真剣な表情で、真剣な口調で言った。「生きてるの?」

「いや…」英都は少し口よどむ。「死んでます」

 そう。彼が八歳の時、六歳の妹は交通事故に会い死亡した――はずである。英都はそう聴いている。

 なのに、何だろうこの違和感は。

 そう――何かがおかしい。

 前からあった。まるで、何か思い違いをしていたような感覚。何かを避けてるような感覚。

 英都が見た、由奈の最後の記憶は、車の中。

 場所は――場所は、山道。右側に大きな山があって――。

 助手席で、妹がはしゃいでいる。英都は後部座席にいる。父が、運転していた。

 彼は、そこから記憶がない。 

 いや、一つだけある。

 英都は何故か、一人で、森の中を歩いている。

 理由は知らない。ただ、何かに怯えるように、歩いていた。まるで印象的な夢のようにイメージだけがハッキリとしている。

 そこからの記憶は全て、由奈の遺影に繋がった。

 だから、彼は殺人事件など知らない。

 そのはずである。

「きつい話しだよね」有香が優しい声を出した。

 英都はハッとなる。

「え…」彼は、何も考えられない。

「大丈夫なら、続きを聴いてほしいんだけど…」

 今、英都の心は真空になっている。

 肌に当たる空気が冷たくも熱くもある。

 息がしにくい。鼻息が良く聞こえた。

 ここは、何処だろう?

 本当に現世だろうか?

 頭が痛い。

 何だろう。何だろう。

 風邪。

 違う。

 目頭が熱くなる。

 口が、パクパクと動いていた。

 なぜ?

 声を出さねば。

 何かを言わなくては――。

 この沈黙に堪えれそうにない。

「大丈夫…」出した声は、意外にもハッキリとしていた。「説明してほしい」そう言って、彼は少しふらついた。

「うん。落ち着いて聞いて」有香は言う。「妹さんはたぶん、殺人事件に巻き込まれて死んでいる。私は報道しか見てないからあんまり詳しくは知らないんだけど――山の中に埋められていたってニュースではやってた」

「……」英都は黙る。

 何かを言おうとすら思えない。パニックだった。もしそうだとしたら、自分はどうすればいいのだろう。大人になった頭脳が、感情に流されることを許さない。

「でも、なぜか片腕と片足だけが、あの廃墟――詳しくは、一軒の廃屋に置いてあったんだ。英都君は、どうしたい?私は行こうと思う。あそこには、たぶん、君の妹さんが居る」彼女は真剣に言う。

「…どうして?」英都は気が付いたらそう言っていた。

「さあね」有香は微笑む。

 有香は将棋の『玉』を自陣に配置しはじめる。見れば、英都の盤面の半分がまだ完成してはいない。英都は駒を配置しなければならないと思うと、気が遠くなる思いだった。有香が駒を並べながら、英都を心配そうに気にしていた。彼は、それを意識しながら、有香と言う人間との接し方を考えていた。

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