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プロローグ
その少女はいつの間にか暗い闇の中にいた。空気が冷たく、それと同時にまるで身体と世界の温度が同調しているかのような生暖かさを感じる。
少女は目を開ける。
そこは真っ暗な視界。もちろん、見覚えなど無い世界。
あれ?
少女は首を傾げる。
ここは何処?
少女は記憶を辿ろうとして、失敗した。何も思い出せない。まるで空の箱の中を確認した時のような感覚。思考が自然と視界に戻った。
ここは暗い。
全てが漆黒に染まっている。
壁も地面も何も見えない。
右も左も分からない。
怖い、と少女は思った。
お兄ちゃん。
少女は魔法の呪文のようにそれだけ呟き、涙を流す。
兄――。彼女は兄のことを思い出した。
優しかった兄。
まだ、約束を果たせてないのに。
彼女はそれから、兄のことばかりを思い出す。
凛々しく、賢く、優しい兄。
少女の記憶の中に両親や友人は、何故か一度も出てくることは無かった。
ただただ少女は兄に固執する。
まだ、約束を果たせていないから。
週一投稿。日曜日。――連載多くて正直キツイです、はい。