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3話 深い傷2(6話後)

 痛みを堪えて立ち上がろうとすると、笑っている彼は立ち上がる際中の僕の胸のあたりに蹴りを入れた。蹴られた瞬間、息が止まるかと思った。そして、衝撃で床に倒れ込んだ僕の姿を見ると、彼は楽しそうに話し出した。


「お前今俺に謝ったよな? じゃあ、お前が全部悪いってことだよな? 本当に悪いって思ってんなら、服脱げよ」

「っ嫌だよ。何で脱がないといけないんだ?」


 そう言い返すと、彼は再び激高した。


「じゃあ、謝る気はないってことだな!? 俺らが脱がせてやるよ!」


 そう言うと、彼と一緒にいる取り巻き的存在の数人が僕を取り囲み、無理やり上の服をすべて脱がせた。そして、僕の身体を見て彼らは言った。


「うわ、ほんとお前気持ちわりいな! おい! みんな見ろよ! 服の下もこんなになってるぜ! ったく、きたねーもん見せてんじゃねえよ!」


――はあ? 脱がしたのは君たちだろう!?

 僕は脱ぎたくなんて無かった。

 こんな身体誰にも見られたくなかった……!


 そう思ったものの、喋ることが出来なかった。なぜなら、その場にいた数人から叩かれ蹴られ始めたからだ。


「お前ずっと前から気に食わなかったんだよ! 調子に乗ってたけど、やっとお似合いの姿になったな」

「今まで人助けたり優しくしたり優等生みたいに振舞ってたのも、全部大人と女子に好かれるためだろ! 化けの皮が剥がれて良かったな!」

「気持ち悪いんだからどっか行けよ! お前見てたら、虫唾が走るわ!」

「こんな奴が女子から人気とか意味分かんねー! キモイだけだろ!」


 彼らは色々な罵詈雑言を浴びせながら暴力をしてきたが、その周りで見ているだけの人々の囁く声も聞こえてきた。


「なにあれ……気持ち悪い!」

「あんな奴のこと好きだったとか、本当に嫌なんだけど。見た目戻らないの? 有り得ないんだけど」

「あたしもなんだけど! ほんと最悪すぎる~」

「無理過ぎる、好きだったとか忘れたいわ」

「あんな奴に近寄られたら、嫌すぎるんだけど!」

「皮膚が変になってる! うわぁ、見てらんない……!」


 この声に、思わず涙が零れてくる。身体も痛いがそれと同じくらい言葉で言われるのも痛かった。それでもなお、主犯の彼は口撃を止めない。


「おい! みんなお前のこと気持ち悪いって言ってるぞ! 気分が悪くなるからそんな変な顔見せんな! お前何て生きてる価値が無いんだから、家族と一緒に死ねば良かったんだ! 燃え殻が!」


 その言葉を聞き、頭に電流が流れたような気分になった。今まで生きてきた中で、最大の怒りを感じた瞬間だった。そして、僕はずっと耐えていたが、叩いたり蹴ったりする彼の取り巻きを振り払い、主犯の彼の前へと歩いて行った。


 一瞬本気で彼に手が出そうになった。しかし、その気持ちをグッと堪え手を出すことはなかった。暴力に暴力で返しても何にもならないからだ。それに、こちらが不利ならなおさらだ。


 しかし、彼はそんな僕が仕返しをしてくると思ったのだろう。さっきとは打って変わり、恐怖や戸惑いの表情を見せ後退りをした。


 そんなタイミングで、騒ぎを聞きつけた先生がやって来た。そして、先生は僕の姿を見た瞬間、僕の方へ駆け寄ってくると自身の上着を僕に被せ、僕を治療室へと連れて行った。


 その後の話は早く、傍観者だった彼らは自分たちは何も悪いことをしていないということを証明するかのように、直接手を出して来た彼らの所業を詳らかに先生に説明した。


 そのこともあってか、すぐに事実の照合がとれたためその話はあっという間に保護者へと伝わり、僕は彼らとその親から謝罪を受けた。しかし、謝罪をされたところで、頭の中ではずっと彼らの罵詈雑言がリフレインしている。


――とにかく僕は隠さなきゃ。

 徹底的に隠さないと……。

 じゃないと、皆にまで嫌な思いをさせるし、もうこれ以上何か言われるのも嫌だ!

 僕、生まれて来なきゃ良かったのかな……。


 思いつめられた僕は、育ての親になってくれたメアリーさんに頼んだ。


「メアリーさん、僕この顔を隠したいんだ。顔を全部隠せる仮面を買ってくれないかな?」


 そう言うと、メアリーさんは険しい顔をして、僕を椅子に座らせ自分も隣の椅子に座り、覗き込むように目を合わせて質問をしてきた。


「火傷の傷跡のことを気にしてるの? あなたは綺麗な顔をしてるし、火傷の跡も気にならないわ。他の人も見慣れたら何も言わなくなると思うわよ?」


 そう言うと、怪訝かつ心配そうな顔で話を続けた。


「それに、あなたのその傷跡は残るけど、次第に薄くなると、隣町の先生も言っていたでしょう? 実際火傷したころと比べると、少しずつだけど着実に落ちついているように見えるわよ?」

「そうかもしれない。でもっ! ……もう誰にも顔を見せたくないんだ。結局マシにはなっても傷跡は残るんだ。僕が顔を出したら、結局みんなが嫌な思いをすることになる。僕……っ辛いよっ、メアリーさん……」


 僕の思いが伝わったのだろう。メアリーさんは無念そうな顔をしたが、意を決したように口を開いた。


「……分かったわ。明日買ってきてあげる。でも、家ではのけてね? あなたの可愛い顔が見たいから」


 そう言うと、メアリーさんは母さんのように僕のことを抱き締めてくれた。


「ほ、ほんとに……。いいの?」

「ええ、約束を守るならね!」

「うん、分かったよ。ありがとう、メアリーさん……!」


 こうして、メアリーさんは約束通り次の日仮面を買ってきてくれた。その仮面は、かわいらしい猫の仮面だった。


「ありがとう、メアリーさん! 明日からこれを付けて学校に行くね!」


 こうして、次の日学校に行くと、奇妙なものを見るような目で見られたが、いつものように蔑んだ視線を向けてくる人はいなかった。そして、罵詈雑言を浴びせてくるような人もいなかった。


 久しぶりに学校に行って誰からも何も言われなかったことが嬉しく、僕はこの仮面をとても気に入っていた。そんなある日、学校の帰り道にあまり見たことの無い3人組の男の人が話しかけてきた。


「どうして仮面なんて付けてるんだ?」

「何だ、何だ?」

「かわいい仮面だなー」


――怖い……。

 それに理由なんて言いたくないよ。

 はあ……学校の外でこんなに言われるのは何回目だろう。

 いつもみたいに、聞こえないふりして帰ろう。


 そう思い、その男の人の声が聞こえていないふりをしてそのまま過ぎ去ろうとしたが、男の人が手を掴み、顔を近付けてきた。


――ううっ、酒臭い……。


 酒の匂いがしたため突発的に突き飛ばしたが、男の人はビクともせずなおも話しかけてくる。


「何でそんなもん付けてるんだよ」

「おい、ちょっとどんな顔か見せて見ろよ!」

「や、やめてください!」


 辞めて欲しいと言ったその願いが彼らの耳に届くはずもなく、子どもだった僕はあっけなくその仮面を外された。


「うわっ! 何だこの傷は。ひっでーな!」

「グロすぎて吐きそうになったぜ! かわいい仮面も台無しだ」

「酷い顔だな! 隠してて正解だぜ! すまんすまん!」


 そう言うと、仮面を僕の胸に押し付けて彼らは呑気に笑いながら去って行った。僕は余りにも悔しくて、悲しくて辛くて、胸が張り裂けそうだった。そして、顔を隠しながら全力疾走で家まで帰り、駆け込むように家の中に入った。


「あら、アダムおかえり! ちょうど今、晩御飯考えてたの! アダムは今日何が食べたい? 喫茶店のポテトもあるわよ!」


 そう言いながら出迎えてくれたメアリーさんに、僕は泣きながら飛び付くように抱き付いた。


「ううっ、メアリーさん、グスッ、うう……」


 珍しく泣きじゃくる僕を見て、メアリーさんは驚いた様子で話しかけてきた。


「どうしたの!? 何かあったの!?」


 心配そうに僕を抱き留めてくれるメアリーさんに、僕は必死の思いで告げた。


「メアリーさんがせっかく買ってきてくれたけど、こんなかわいい仮面じゃダメだ! もっと怖い、誰も僕に近寄りたいと思わないような仮面にしないと!」


 帰って来ていきなり僕が変なことを言うから驚いただろう。メアリーさんは怪訝な表情になりながらも、僕の話を聞いてくれた。


「どういうことか説明してくれる? アダム」


 そこで、僕は今日会った出来事を話した。すると、メアリーさんは難しい顔をし少し考えこんだ後、僕に話しかけてきた。


「嫌な人たちはスルーしたら良いとは思うけど、それだけじゃ無理なこともあるわよね……。分かった! あなたの心を守ることになるのなら新しい仮面にしましょう」


 一か八かで言ったものの、仮面を付けることを本当は嫌そうにしていたメアリーさんが、まさかそう言ってくれるとは思わなかった。


「いいの……?」

「ええ。でもね、仮面をして社会と関りを絶つというのはやめて欲しいわ。それに、仮面が怖い人もいるから、仮面のデザインについてはちゃんと他の人のことも考えて決めないとね」


 そう言って、僕の意見を受け入れてくれた。そして、ある質問をしてきた。


「仮面なんて無くても、あなたが私以外の人の前とかこの家の中以外でも、素顔で接することができる日が来たら良いんだけど……。あなたも本当は、仮面を付けていたら苦しいでしょう?」


 確かにメアリーさんの指摘通りだった。仮面は顔を隠すことができる利点もあるが、顔全体に覆いかぶさっているからこそ、それなりのしんどさがある。


「うん……、確かに苦しいよ。でも、僕は顔を隠したいんだ……」


 素直に思ったままを答えると、メアリーさんはうんうんと頷き話し出した。


「あなたの気持ちは分かったわ。……じゃあ、1つだけ約束してほしいことがあるの!」

「なに?」

「あなたが仮面を付けないといけない、ということが当たり前のことだと思って欲しくないの。家の中とか、ここなら絶対に大丈夫と思えるところがあったら、仮面はのけてみて? それだけでも、誰にも何も隠さなくていい素の自分になれると思うから」


 そう言って、メアリーさんはにっこりと微笑んできた。


「うん……約束する。ありがとう」


 メアリーさんと話し合った結果、仮面を変更することになった。新しい仮面は、以前の可愛らしいと思えるものではない。だが、のけづらいデザインにした分、無理やりのけようとする人はいなくなった。


 こうして、僕は人に遭遇する場面では仮面を付けることで、心の平穏が保てるようになった。今では、メアリーさんの家を出て、こうして1人暮らしをすることも出来ている。その確立し築き上げた平穏を、今更壊すようなことはしたくない。必要以上に傷付きたくないからだ。


 今日の朝、彼女が家の前を通るのは予想外だった。


――また同じ時間に通るかもしれないから、今日はいつもより少し早い時間に花に水をあげよう。


 そう決めて、僕は次の日から花に水をあげる時間を変えた。そうしたところ、次の日もその次の日も、1度会ったきりのあの女の人と遭遇することは無かった。

アダムの仮面を無理やりはぎ取った人物たちは、ジェイスが始末しました。

アダムは知りません。

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