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23話 守りたいその笑顔

「えー! 付き合うことになったの!? おめでとう!」


 そう言って喜ぶのは、喫茶店のオーナーでありアダムの育ての親でもあるメアリーさんだ。私とアダムは2人で付き合うことになったと、メアリーさんとジェイスさんに報告した。


 私たちが付き合うことになったと知り、メアリーさんはとても喜んでくれている。そして、メアリーさんの隣に立つジェイスさんも、私たちの報告に笑顔を見せてくれた。


「アダム、男みせたな」


 そうアダムに話しかけていた。


 私たちは付き合い始めてから、丘の上だけでなく町中にも一緒に行くようになった。町中に行くときは、もちろんアダムは仮面を付けた状態だ。


 そのため、私が仮面を付けたアダムと一緒にいるところを見かけることが多く感じたのだろう。お客さんたちは、あの手この手で私たちの関係を詮索してきた。


 最初は業務外のことだと思って誤魔化していた。しかしあまりにもしつこいので、はっきりと面と向かって聞かれた場合は、アダムと付き合っていること公言することにした。


 初めて公言した時は、あんな仮面男のどこが良いんだよ、なんて言ってきた人がいた。だけど、その人はアダムの魅力を何1つ分かっていない。だから、私はアダムがどれだけ魅力的な性格の人物なのかを、アダムのことをしつこく批判する人にはあえて詳しく説明をした。


 また、何人かのお客さんからは、息子や孫に紹介しようと思っていたのにと言われた。お年寄りの中には、今からでも孫に乗り換えないかなんて言ってくる人もいた。私はそのような人には、永遠に惚気続けた。すると、皆仕方ないと言って諦めてくれた。恐らく冗談の要素が強かったのだろう。


 こうして、メアリーさんの喫茶店のシェリーはどうやら仮面の男と付き合っているらしいぞと噂になる程度には、町の一部の人たちに認知させることに成功した。だが、ある日1人飛びぬけた人物に出会ってしまった。


 今日はアダムが遅番だったため、私は彼を待たず家に帰ることにして店を出た。そして、店を出てすぐに、最近通い詰めている男性客に出くわした。すると、その男は私のことを待っていたとばかりに話しかけてきた。


「やっと出てきた。お疲れシェリーちゃん」


 馴れ馴れしく話しかけてくる男に、嫌な感じがするが一応店に来ているお客さんだ。そう考え、適当な言葉を返した。


「お疲れ様です。もう店は終業しましたよ?」


 そう言うと、男はニコッと笑いながら口を動かした。


「そんなの知ってるよ。それより確かめたいことがあって来たんだ」


――確かめたいこと……?


「なあ、正直俺狙ってたんだぜ? シェリーちゃんの彼氏って誰なんだ? まさか噂の仮面男じゃないだろ? あれ嘘だよな? ったく悪いじょーだんだぜ。……で、本当は誰なんだよ?」


――何? この人失礼すぎない?

 仮面男って言うからにはアダムのこと知らなそうだし、名前は言わない方が良いかな?


 いきなりアダムのことをこんな風に悪く言われたため、とても気分が悪い。そのため、私は苛立ちを込めてつい強い口調で言った。


「その噂は間違っていませんよ。私の恋人は、あなたの言うその仮面男で間違いないです。それに、さっきから色々と失礼ですよ」


 苛立ちと鬱陶しいと思った感情をあまり隠すことなく、男に言葉を返した。すると、男は驚いた様子で口を動かした。


「はあ? シェリーちゃんの相手って本当にアダムだったのか!? まあまあ、落ち着けよ。そんな怒んなって! それにしても、何であんな気持ち悪い野郎と付き合ってんだよ」


――何を言ってるの、この男は?


 アダムのことを好き勝手に気持ち悪いという男に、本当に腹が立つ。いつか天罰が下れとすら思う。


 こんな男とまともに取り合ってもろくなことにならないだろう。だけど、これだけは譲れなかった。


「アダムは気持ち悪くないです。それに誠実で素敵な人です。アダムのことを悪く言わないでください」


 そう言ったが、相手の男には何にも響くことは無かった。響くどころか、まだしつこく口を動かし続けている。


「でも、流石にあんな年がら年中あんな変な仮面被ってキモイ奴より俺のほうがいいに決まってるだろう? なあ……俺に乗り換えとけよ。俺ならぜってーあいつといるよりも楽しくさせる自信があるしよ。こう見えても、俺って結構モテるんだぜ? 俺が彼氏なら、町のヤツらにも自慢できるぞ?」


 確かに客観的に見ると、かなり女性に好かれそうな顔立ちではある。だが、私からするとアダムもそれには負けていない。


 というよりも、私の主観ではアダムの圧勝だ。それに、顔はどうであれ、名前も知らぬこの男のような壊滅的な性格をしていないという点だけでも勝っていると思う。


「確かにあなたはおモテになるかもしれませんね。でも、私が好きな人はアダムですから」


 素直に目の前の男に私の考えを告げた。すると、男はその言葉にイラっとした様子で口を動かした。


「あいつなんかのどこがいいんだよ。子どもの頃はあいつが町で一番モテてたけどよ、あいつのことを好きとか言ってた女も皆あんな見た目になってから、気持ち悪いとか嫌いって言って離れてったんだぞ? そんくらい気持ち悪い奴が好き? 頭大丈夫か? もしかして、シェリーちゃんさあ、あいつの素顔見たことない? まさか顔じゃなくて気持ちだけって言う純愛系?」

「見たことありますけど、だから何なんですか。私とその人たちは別人です。彼女らとは同じ考えじゃないこともあります。それと、もう話しかけてこないでください。気分が悪くなります。不愉快です」

「はあ!? ちょっとまっ――」


 もう我慢の限界だったため、私は目の前の男にはっきりと不愉快だということを告げた。そんな私の反応を見て焦ったのか、男は何かを言おうと口を動かしていた。


 しかし、私はその男の言いかけた言葉を最後まで確認することなく、その場から逃げるように走り出した。そして、そのまま店の裏手に回った。


 店の裏手には、斧等の作業道具や消耗品などを保管するために、簡易的な小屋のような倉庫が建てられている。そこに行くと、案の定その倉庫の前で作業しているアダムの姿を見つけた。


 アダムは私を見つけると、最初は首を傾げていたが手を振ってくれた。私はそのまま手を振ってくれているアダムの方へと走って行った。そして、有無も言わさずアダムの手を引っ張り、アダムをその倉庫に押し込み2人で倉庫の中に入った。


 こんなに走る機会は滅多になくて、息切れが止まらない。はあはあと息を切らしながら、ボロボロと涙を零す私を見て、アダムはバッと仮面を外すと、背中をさすりながら話しかけてきた。


「どうしたの!? 何があった!?」


 心の底から私のことを心配するアダムを見て、胸が苦しくなる。


「アダムはこんなに素敵なのにっ……なんで……! うぅっ……」


 名前も知らない男に散々なことを一方的に聞かされたアダムの悪口を思い出してしまう。そのせいで、色々な気持ちが込み上げてきて、私は咄嗟にギュッとアダムに抱き着いた。


 恐らくアダムは私の今の行動の意味は分かっていないだろう。しかし、無理やり引き剥がすことは無く、背中をさすりながら抱き締めてくれた。


 どれだけ時間が経ったのだろうか。アダムからそっと身体を離すと、アダムは安心させるためか、優しい顔でどうしたの? と私に見えるように口を動かした。


 アダムに言うか迷った。しかし、変に隠すのも難しいと思い、今あったことをざっくりと説明した。すると、アダムは納得した様子ではあったが心配そうな表情で口を動かした。


「何もされなかった? 大丈夫?」


――そこは私の心配じゃなくて、アダムの心配でしょう?

 あなたのことを悪く言われて、私が大丈夫なわけないでしょう!?


「……された」

「え!? 何されたんだっ……!? あいつ……!」


 そう言って、今にも倉庫から飛び出て行きそうなアダムを必死で止めた。こんな風に怒った表情のアダムは初めて見た。


 アダムもアダムで飛び出て行こうとする自分を止める私に対し、なぜ止めるんだと興奮しながらも不思議そうな顔をしている。


「何かされたんだろう!?」

「馬鹿にされた。アダムのことを馬鹿にされたの……! 私の目の前で!」


 するとアダムは、は? というような驚いた顔をしたかと思えば、怒りの表情を潜め安心した様子で、私の頭を撫でながら話しかけてきた。


「っ! はぁ~良かった。シェリーが直接何かされたのかと思ったよ」

「されたって言ってるでしょ? 何も良くない。アダムのことをあんなにも悪く言われたのよ!?」

「うん……そっか。でもね、僕は本当に何とも思っていないし、気にしていないから大丈夫だよ。むしろ、僕のせいで嫌な思いをさせてごめんね? シェリーに何もなくて良かったよ。って、ほらほら、そんなに目も擦らないで。シェリーの綺麗な目が赤くなっちゃう。ね?」


 そう言いながら、アダムは私がこれ以上目を擦らないようにするために、私の手を包み込むようにそっと握ってくれた。


「あなたが謝ることないわ……! 私あんなにアダムのことを貶されて悔しいっ……」

「僕のためにそこまで怒ってくれるなんて、シェリーは優しいね。ありがとう」


 そう言うと、アダムは安心するような優しい顔をして目を合わせてきた。言葉に対してなら色々言えるけれど、やはりアダムのこの顔にはかなわない。何も言えなくなってしまう。


――優しすぎなのよ! アダムは!

 アダム自身が怒らないから、あの男も好き勝手言ってるのよ!


 ついそう言いたくなるが、これは彼の素の性格で今更変えようというのは土台無理な話だ。この出かかった言葉はグッと堪え、その代わり込み上げる別の感情を私はアダムにぶつけた。


「俺って結構モテるんだぜってだから何? 私が好きなのはアダムだけよ! あんな男誰が好きなるのよ! ちょっと顔がいいからって調子乗って、アダムの方がかっこいいんだから!」


 何度も見てもそう思う。確かに火傷の傷跡はあるけれど、元々が色気のある綺麗な顔立ちなのだ。主観だと言われようと、私のこの意見が揺らぐことはない。


「俺が彼氏だったら自慢できるって、あんたみたいなやつと付き合ったら自慢どころか、評判下がるっての! アダムはどこにでも自慢できるけど、あんな男を誰が自慢するのよ。俺と居たら楽しいってのもおかしな話よ! あんな性格最低なクズ男よりも、大好きなアダムと一緒の方が楽しいに決まって――」


 もっとたくさん言いたいことはあったが、そんな私の言いかけた言葉を遮ったのは、他でもないアダムだった。


「も、もういいよ。分かったから。これ以上言われたら、僕恥ずかしくて死んじゃいそうだ」


 いくら腹が立っていたとはいえ、本気で照れた様子のアダムを見て冷静になり恥ずかしくなる。口が悪かったことや、アダムへの愛が溢れ過ぎたことで恥ずかしくなり、顔を手で覆っていると、アダムがそっと顔から手を外させ口を動かした。


「ありがとう」


 そう言って、軽くキスをしてきた。そして、えへへと笑うその顔を見て何とも言えない多幸感が押し寄せてくる。


 その瞬間私は思った。


――やっぱりアダムが優勝ね……。


 アダムが受けていた差別に直面しショックを受けていたが、絶対にこの笑顔を守るんだと心に誓った。




 ◇   ◇   ◇


 一方、それなりに目立つところで私に話しかけていた内容をメアリーさんたちに伝えた常連客のせいで、その男がとんでもない目に遭ったという話を、私たちが知ることは無かった。

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