授業についていけない
なろうの仕様が変わったのか、2話目以降の投稿がよくわからない感じになってますね。
次話投稿で本文が書けなくなってます。
ぐっすり眠れて、自分でも目が覚めたらビックリ。
それもそのはず。朝起きたら、見知らぬ天井と、少し狭い部屋、着心地のいい服、ふかふかのベッドと枕。
でも自分の部屋だ。今まで異世界の家で暮らしてたんだから、見慣れないのも当たり前。異世界でも全然寝心地悪くなかったし、なんならもっと広いベッドだったけど。ただし、布の触り心地はこっちの勝利。
「おはよう、母さん」
「どうしたの起こす前に起きるなんて、珍しいわね」
エプロン姿で目玉焼きを焼いてた。異世界では日の出とともに目が覚めていたので、いつもの日課だ。
「いやいや、これくらい当たり前だって。うん、いい匂い。だけど少なくない?」
異世界ではもっと量があったな。宿屋と食堂が一緒になった所でお世話になっていたのを思い出して、つい比べてしまう。
「いつも1枚じゃない。昨日から変な子」
「食べ盛りだから、食べないとさぁ」
「・・・それもそうね。パンじゃなくて、ご飯にする?」
「ありがとう。ご飯にする」
「お礼だって普段言わないのに。本当に人が変わったみたい」
「人として当たり前だよ、母さん」
「まぁいいわ。早く食べて支度しなさい。学校あるんだから」
「そうだね、行ってくる」
家から出ると、バス停まで歩く。朧気ながら記憶を頼りに歩くが、やはり自信が無い。意識して口調を崩してるけど、変な感じになってないか気になってしまう。
昨日の異世界から帰還した時も学ランだった。異世界で着替えたのだ。異世界では学ランは目立つので、俺を召喚した神子様は、すぐに服を手配してくれた。その学ランは売ることもなく、ずっと保管してもらっていた。
ちなみに、神子様は聖女様の母君だ。日本の基準で言ったら美魔女だ。実年齢は40歳らしいけど、20代くらいで聖女様と姉妹と言われても違和感がない。そんなこと言ったら俺は50代後半だったのに、中学生の見た目なので人のことは言えない。
俺がこの日本に帰る少し前に神子様が寿命で亡くなったが、聖女様が子を成した後、神子様となり、その子供が聖女様となった。世襲制の聖神子一族だ。
あの家系は不思議な家系だ。男の子が産まれたら白騎士として育てられるし、女の子が産まれたら漏れなく聖女として育てられる。
しかも顔面偏差値の高い異世界でも尚のこと、美男美女の家系だ。やはり神に祝福されているのだろう。
そんな思いに耽っていると、バス停に着いて、声を掛けられた。
「レオン、おはよう。新作ゲーム出たんだけど、やりに来ねぇ?」
やばい、友達か、知り合いか? 全然思い出せないが、話を合わせておこう。
「用事あって遊べないんだよね。また誘ってよ」
「珍しいな。なんの用事だよ?」
「家の手伝いだよ。父さんが出張で今いないからさ」
父さんが出張でいないのは本当。家の手伝いは、いい機会だししようかな。異世界で磨いた家事のテクニックを母さんに披露してやるか。それは置いといて、知り合いとはあまり関わることはしない方がいいかもしれない。ボロが出るし。
この少年の名前はなんだったか。後で探っておこう。
その後もバスの中でも話しかけられ続けた。
ゲームの話や授業の話など。
昨日宿題をやったか聞かれた時は、やってないと素直に答えて、俺もだわと返された。ちなみに別のクラスで、伊原という友人だった。前学年で同じクラスだったという。40年前の遠い記憶だ。全然覚えてない。
(・・・学校に着いたら宿題に取り掛かるとするか)
***
意外と俺は友達付き合いは悪くなかったようで、結構話しかけられた。もう誰も彼も覚えていないので、それとなく返していた。
「赤坂君、なんか変わった? よそよそしくなったよね?」とは、隣の席の女子からの言だ。
「そうそう、雰囲気とかも変わったというか、喋り方も今までと少し違うような」
便乗するその子の友達。
これは不味い。なにか言い訳せねば。ふと、バス停で言われたことを思い出す。
「実は今やってるゲームのキャラに影響されちゃって、ごめんごめん」などと誤魔化してみる。
「厨二病じゃん」
などと笑われた。とりあえずは凌げたのではなかろうか。
宿題は社会のプリントだったが、全然分からなかった。そうして、一日の学校が始まるのだった。
***
(これは不味いな。授業についていけない)
放課後、一人悩んでいた。
「あれ、赤坂君、どうしたの?」
「恥ずかしながら、勉強不足で授業がまるで入ってこないんだ」
「そんなに勉強できなかったっけ?」
隣の席の女子から、疑問の声がかけられる。異世界での40余年というブランクはかなりの致命傷。ほぼほぼ授業内容についていけない。これは非常に不味い状況。中学なので卒業はできるが、成績が悪いと高校に進学するときに、厳しくなるだろう。
「もしよかったら教えてあげようか?」
「本当? 助かるけど、迷惑ではないか?」
「別にいいけど・・・その喋り方やっぱりおかしいよ?」
まだ喋り方にぎこちなさがある。今日一日を通して、クラスメイトからは不審がられている。
ここはもっと吹っ切れておこう。
「お言葉に甘えて、教えていただきとうございます!」
「それ、ふざけてるよね?」
笑いに持って行けるかと思ったが失敗したみたいだ。呆れられた。
「はいすみません」
「もういいけど、で、どこが分からないの?」
「とりあえず、数学から」
「え? 前回のテストそんなに点数悪くなかったよね?」
「・・・復習も兼ねて」
「そう、分かった」
一連のやり取りは教室での出来事。周りも茶化すネタになった。
「なに、二人付き合ってんの?」
「ラブラブじゃん」
「俺が勉強できなさすぎて、彼女に教えて貰っているだけだ」
「彼女だってよ! やっぱり付き合ってんのかよ!まじかよ」
思春期男子はこういうノリなのか。少し煩わしいな。
「仮に付き合ってたとしてなにかあるか?」
からかってニヤニヤしている。中学男子は子供っぽいと聞くが、その通りだろう。
「もうヤッたのかよ?赤坂くぅん」
ストレートな物言いに呆れが先行する。
「付き合ってないし、その言葉は彼女に失礼ではないか?」
「なにその喋り方、キモイんだけど。カッコつけてんの?」
「はぁ、品性の欠けらも無いな」
「あ? こんな簡単な問題も分からない奴が何言ってんの? つか、マジで変わりすぎだろ。もっとノリが良かったじゃん、オマエ」
思春期の子供のノリというのもついていけないものだ。
「そうだ。だから頭を下げて勉強を見てもらっている。それを茶化して邪魔をしないで貰えないか?」
「さっきからなんだよその口調、なに? やんの? 来いよ」
少し気に触るので口調も異世界での喋り方に戻っていた。彼は挑発してくるが、隙が多すぎてワザとスキを晒しているのかと感じるのは、異世界では戦いの駆け引きをして癖になっているからだろうか。
まだ村人の方が上だな。
「先生呼んでくる!」
見かねた周りの生徒の1人が先生を呼びに行ったようだ。
「喧嘩するメリットがないな」
「腰抜けかよ」
安い挑発に乗ることもない。
「ごめんね、周りがうるさいから、図書室で教えて貰える?」
彼女に向き直り、意識して砕けた口調で、改めて場所を変えて教えてもらうようにお願いしてみた。
「あ、えと、ごめん帰るね」
顔を伏せてそそくさと帰ってしまった。残念だ。
「だっせぇ、逃げられてやんの」
「振られたんじゃね?」
少々、痛い目を見させるか。
「威勢がいいのはいいことだが、彼女は傷ついたようだ」
「フラれた奴がなんか言ってるぞ」
この状況でそういうこと言っちゃう?
「言葉も通じず、状況判断もできないとは。少し反省するといい」
「は? うるせぇよ、調子にのるな」
つかみかかって来たので、簡単に捻りあげる。関節技が決まると、騒ぎ出した。
「はっ? いでてててててててて、離せ! 痛え!」
俺がいとも簡単に取り押さえると周りがザワついた。
「嘘だろ、ボクシング習ってる西岡が!?」
ボクシング、懐かしい響だ。40年振りに聞いた。
「彼女に謝ると誓えば離してやろう」
抵抗しようとすると逆に締まるようにしてある。
「いでてててて!」
「おい赤坂、何やってる! 離せ!」
先生が来たようだ。
「この人は女性をからかって傷つけた。それにつかみかかってきたので正当防衛です」
「女性ってお前、いや、いいから離せ、赤坂!」
「はぁ、先生に免じて離します」
パッと離したら、今しがた取り押さえてた彼から蹴りが飛んできた。
「おっと」
それを躱すと、すぐに教室から出ていった。
ボクシングって蹴りありだっけ?
「あ、待ちなさい西岡! 蹴るんじゃない!」
ため息を吐くと先生はこちらに向き直り
「赤坂、職員室にきなさい」
***
そのまま職員室に連行されると、先生は椅子に座る。職員室には放課後の部活で、各顧問の先生などは出払っているものの、チラホラ他の先生がいる。こちらの顔をじっと見て話が始まった。
「赤坂、お前どうしたんだ? 格闘技でもやってたのか?」
「いえ。少しお調子者にお灸を据えたまでです」
「そうか。この事は校長先生と、お前のご両親に連絡する」
「えぇ、その方が良いでしょう」
「なに? さっきからその口調はなんだ?」
「なにか?」
おっと、また口調が戻ってきてしまったようだ。そんな様子にため息をひとつつくと、先生は困った顔で聞いてきた。
「・・・はぁ、なにがあったんだ?」
事の顛末を話しすと、呆れていた。
「おそらく、彼はまたからかって来るでしょう。その時も同じ対応をします」
「それはやめろ。先生に報告してくれ。なぁ、赤坂、先生の名前言えるか?」
「・・・はい、言えますよ。源先生」
情報収集はバッチリだ。
「お前が教えて貰ってた子は?」
「彼女の名前は柿谷さん。手を出してきた彼は西岡君です」
「・・・お前、本当に赤坂なのか?」
なにか間違えただろうか。今日一日で生徒の名前は少し覚えたんだけど
「言ってる意味がわかりませんけど?」
「今までとまるで別人だ。授業もついていけない筈はない。この前の中間テストの成績も悪くなかっただろう。お前になにがあったんだ?」
「何もないですよ」
引っ越した方が良いのだろうか。異世界で過ごした40余年は伊達ではない。人生経験は先生より上だ。人格など変わるだろう。
授業内容も勿論忘れているに決まっている。
「嫌いですか?」
その一言に、先生は何言ってんの?みたいな顔をする。
「好き嫌いの話では無く、お前に何があったのか聞いてるんだわ。昨日と変わりすぎだ。お前はもっと子供っぽかったろ。西岡よりは大人しいが、お調子者だった」
「先生、子供の成長は早いものです」
「それ、お前が言うのか? はぁ、もういい。なにかあれば先生に相談しろ」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は職員室を去ると、家に帰った。
***
「赤坂君、なんか変わりましたね、源先生。ご家庭も特に問題はないのですよね?」
赤坂が去った後、近くで聞いていた原西先生が話しかけてきた。まだ27歳という若い先生だが、授業は丁寧で担当するクラスは成績が良い。そして見た目も可愛らしく、それでいて落ち着いた雰囲気で、男性教職員はもちろん、生徒からも人気の先生だ。
「原西先生。えぇ、特に問題無かったと思います。校長先生に報告したあと、後ほど赤坂の家に電話してみます」
「源先生、赤坂君もですが、柿谷さんもおそらくからかわれて傷ついているでしょうから、気にしてあげてください。女子生徒の相談には乗れると思います」
女子生徒は女の先生の方が相談に乗りやすいだろうから、ぜひとも彼女に任せたい。しかし、自分の受け持つクラスの問題なので、できれば自分で解決するべきだろう。
「お気遣いありがとうございます、原西先生。なにかあれば頼ります」
「ええ、任せてください」
にこやかに微笑む。妻子持ちでなければコロッと行ってしまいそうだな。
***
家に帰るとすぐに母さんから話を切り出された。
ありのまま話すと、満足したのか、ご飯の時にその女子生徒に関して茶化してきたので、友達として好感が持てるということを伝えた。
終始母さんはニヤニヤしていた。絶対、誤解している。
テレビを付けると、ニュースが流れていた。なんでも、UMAの目撃情報があったらしい。
「あらやだ、近くの山付近じゃないの」
目撃情報によると、変な生き物が道路に飛び出してきて車の運転手は事故を起こしたそうだ。その生き物が轢かれた瞬間までの数秒間が放送された。
これは、少し気になるぞ。どこからどう見てもゴブリンだった。