第2話 なんで知ってるの?
朝、まだ誰も居ない教室にやって来た。自分の机にカバンを掛けて、誰か来るまで本を読んで待とうと思ったので、ロッカーに入れっぱなしにしていた新品の小説を取ってきた。
自分の席に座って読み始めようとした時、後ろの方から声を掛けられた。
「おはよう、優希!」
足音がしていなかったので、急に声を掛けられてびっくりしたが、後ろを振り返って返事を返した。
「おはよう、紗衣。今日は珍しく早いな」
「うん。今日は誰かさんに聞かないといけないことがあるからねぇ」
と、紗衣は黒いツヤツヤの髪の毛を揺らしながら、ニヤニヤして言ってきた。
「だから、絶対に言わないって」
「フッフッフ。大丈夫。広まった時に何をすれば許してもらえるか必死に考えてきたから。とりあえず聞いて」
「……あのさ、その前になんで広がる前提で話しされるの? 俺は広がってほしくないんだよ」
俺がそう言うと、紗衣は驚いたような表情になった。
「広まっても良いんじゃないの?」
「いつそんな事言ったんだよ」
「え⁉ えぇーっと。……言ってませんね」
「だろ?」
「じゃあどうすれば教えてくれるのよぉ!」
紗衣はカバンを机の横に引っ掛けて、椅子を俺の方に近づけて座った。
「教えないって! 何回言えば良いんだよ!」
「じゃあさ……、私も好きな人言うから……」
「え?」
「先に優希が言ってね!」
「いや、なんでだよ! 俺は言う気無いからな!」
そう言うと紗衣は昨日のように、ほっぺを少し膨らませて怒ったような顔をした。
「それに、俺は紗衣の好きな人知ってるし……」
俺は紗衣から目を逸らすように、黒板の方を見ながら言った。
「……え? 嘘……。本当?」
「……うん。まぁ、多分……」
チラッと紗衣の方を見ると、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、両手で顔を隠していた。
「……なんで……なんで知ってるのよ……」
小声だったので、クラスメイトが居れば話し声などでかき消されて聞こえなかっただろうが、今は誰も居ないのでハッキリと聞こえた。
「え……」
まさか、盗み聞きしました。なんて言える訳がない。
俺は黙り込んでしまった。
しばらくすると、教室の後ろのドアが空いて元気な挨拶が聞こえてきた。
「おはよぉ〜!」
紗衣の大親友の雫が来たのだ。
気まずい空気が一瞬で無くなった。
「おはよう」
「おはよ……」
「あれ? 二人っきりだったのかぁ……。じゃあ我は隣のクラスにでも行って参る!」
「は?」
雫は机の上にカバンを叩きつけると、すぐにスキップで教室を出ていった。
また気まずい空気になってしまった。