五十八膳目 「舞茸のホイル蒸し」
「和樹、食卓はキレイになった?」
「あぁ、ちゃんとやったよ」
陽平が調理の手を止め、濡れ布巾を手に食卓へと向かう。
「あー、ここまだ散らかってるじゃん」
陽平がイスの上に置いてあった和樹の服をつまみ上げた。
「あっ、」
「はい、洗濯機に入れといで。あと、テレビ前の雑誌とか、自分の部屋に持ってってくださーい」
「わかったよ…」
「ほら、散らかしたの自分なんんだから、ダルそうにしない!」
和樹を急き立て、陽平は食卓を布巾で拭いていく。乾拭きをした後に一人用の半月盆を三つ置き、晩餐会の支度を調えていく。そこに和樹が戻ってきた。
「もうこれでいいでしょ? 全部キレイにしたよ」
「食卓拭いたの、俺なんですけど…」
「ありがとうございます」
「まぁいいや。ねぇ和樹、少し外にお使い行ってきてくれない?」
「えー、何か買い忘れ?」
「まぁ、ちょっとお使いを頼みたくて…」
陽平が和樹に向かって、お願い!、といった感じに拝むポーズをする。それを見て、和樹が小さなため息をつく。
「しょうがないなぁ…、今回は高くつくよ」
「後で何かご褒美考えておくから」
「じゃぁ酒で」
間髪入れずに和樹が答える。それを聞いて、今度は陽平が小さなため息をついた。
「可愛くないなぁ…、もっとこう、彼氏に甘やかしてもらいたい!、みたいなさ」
「それも悪くないけど、やっぱ酒だな」
「まぁ、今日は晩餐会ということで、大目に見てあげようじゃないか」
「やったね」
「よし、じゃぁ駅前まで一っ走り行ってきてくれ」
「駅前行くの?」
「うん。お花屋さんに行ってきてもらいたいんだよ」
「まぁいいよ」
和樹が手早く上着を羽織り、居間を出ていく。玄関まで見送ると、陽平は台所に取って返し、再び料理に取りかかった。晩餐会までに、あと三品支度しなければならない。だが、陽平はそこまで焦ってはいなかった。
先附の和え物や酢の物はもう既に出来上がっている。
残すは、蒸し物、揚げ物と、主食のおこわのみ。
おこわの具は汁物を作った時に下準備を終えてある。千切りにした人参と油揚げを醬油や味醂でひと煮立ちさせ、そこに舞茸を加えたものだ。これをもち米に混ぜこんで蒸し器で蒸せば、三十分とかからずに蒸し上がるはずだ。揚げ物もその場で揚げたてを出すつもりだから、揚げ衣だけ作っておけば問題ない。
そして今陽平が支度している蒸し物も、下準備を終えてしまえば後はフライパン一つで蒸し上げられる料理だ。初めはしっかりと食べ応えのある蒸し物も考えたのだが、陽平は他との食べ合わせを考慮し、シンプルなホイル蒸しにしたのだった。
使う具材は、薄切りの玉ねぎと舞茸のみ。
味つけも、ほんの少量の酒と有塩バターだけ。
この料理もまた、天然舞茸が持つ本来の味と香りを存分に活かした料理だ。
陽平はアルミホイルを適当な大きさに切り、玉ねぎを敷いた上に舞茸を載せていく。酒とバターを入れ終えると、食材をアルミホイルで包みこみ、飴の包み紙のように両端をくるっとねじった。同じ包みを三つ作り終えると、陽平はそれらを深めのフライパンに並べていく。
蒸し物の下ごしらえを終え、陽平はいよいよ蒸し器に水を入れて火にかけた。
趣向を凝らした舞茸料理も、残すところあと二品だ。




