五十五膳目 「舞茸と菊の煮浸し」
「陽平さん、次は?」
「お浸し作るよ」
「何か今日、ホントに酒の肴みたいなのが多いね」
「今日はドカンと主菜が一品あって、他は細々と副菜を…、みたいな献立組んだからね。舞茸の量が多いから、保存がきく料理多めにしたい、ってのもある」
「陽平さん、俺はもう今日は手伝わないからね!」
胡桃むきをやらされたのが相当嫌だったらしい。
「今日はもう面倒な作業ないし、頼むこともないと思うけど…。あ、お客人を呼ぶんだから、少しは食卓周りの掃除でもしといてもらおうかな?」
「えー、結局働かされるの?」
「自分で散らかした分は、ちゃんと自分で片づけてくださーい」
陽平は胡桃和えの時に煮てあった舞茸の残りを使って、お浸しを作り始めた。
鍋に湯を沸かし、洗っておいた水菜を湯がいていく。
根の方から湯に沈め、二十秒ほどで茎の色が鮮やかな色になったら葉の先まで入れる。水菜は葉物の中でも特に火の通りが早いので、茹でる時は気が抜けない。茹で過ぎてしまうと、食感が悪くなって水っぽくなってしまう。
一本つまんで茹で具合を確認すると、陽平はすぐに水菜をザルにあけ、手早く冷水にさらした。これも胡桃和えの時と同様に、ざく切りにして水気を絞ってから出汁洗いにする。
「和樹、食用菊も買ってきてくれたよね?」
「あー、冷蔵庫に入ってる」
陽平の意を汲んで、何も言わずとも和樹が冷蔵庫から食用菊のパックを出してくる。
「お、ありがと」
「菊なんか何に使うの?」
「サッと茹でて、お浸しの中に入れる」
「花食べんの?」
「『食用菊』って言うぐらいなんだから、そりゃそーでしょ」
陽平は、何を当たり前のことを…、といった表情で和樹を見る。
「だって、お刺身の添え物ぐらいしか見たことないから…」
「お浸しとか酢の物とか、案外色々調理法あるんだよ」
「へぇー」
陽平は菊の花弁をむしり取り、それをザルにためていく。ある程度の量になったところで、花弁を鍋でサッと十五秒ほど茹でていく。花弁の色を損なわないよう、鍋の湯には少量の酢を入れてある。酢を入れることで、湯にくぐらせても菊の色を保つことができるのだ。茹で上がった菊を冷水に取り、水気をギュッと固く絞る。
ボールに出し汁を入れ、味醂と醬油で加減をし、その中に用意してあった舞茸を加えた。舞茸に続いて、水菜、菊の順に加えていく。菊の花を入れると、ボールの中がパッと華やいだ。味を調えてしまえば、後は混ぜ合わせるだけだ。
陽平は出来上がったお浸しの味を見た。茸と水菜の組み合わせは定番ゆえ、美味ではあるが味は至って普通のお浸しの味だ。ゆっくりと咀嚼すると、菊のほろ苦い香りが鼻に抜けていく。菊は具材というより、季節感と彩り重視で入れたあしらい物の様な感覚だ。菊自体にはそこまで特徴的な持ち味はない。
「ほら、和樹も味見してみな。菊食べるの初めてだろ?」
皿に盛るのも面倒になって、陽平は自分の箸で和樹の口に一口分を放りこんだ。
「…シャキシャキしてて美味い! 菊は…、ちょっと苦いぐらいであんまり味しないかな」
「まぁ、そういうもんよ」
「でも、菊入れると彩りがキレイになるよね」
「そうね。菊は秋の花だから、季節感出すには丁度いいと思って。残った菊はまた別の料理に使うよ」
乾燥を防ぐために、陽平は残った食用菊のパックを丁寧にラップで包み直した。




