五十四膳目 「舞茸の胡桃和え」
「和樹、胡桃の具合はどう?」
「言われた通りに焼いたけど…」
既に胡桃の載った天板はオーブンから出され、粗熱を取っているところだった。陽平は天板の上の胡桃を一つ摘まみ、爪を立てて表面の渋皮を少しむいた。
「お、上出来上出来」
「で、これは何に使うの?」
「次の料理に使うから、和樹、この胡桃の渋皮全部むいて」
「どうやってむくの?」
「ほら…、こうやって爪立てて、カリカリやれば簡単にむけるから…」
「そんな地味なことずっとやれと?」
「そう。量そこまでないし、そんな時間かからないはずだから」
「この皮、絶対むかなきゃいけないの? 別に食べれないわけじゃないじゃん」
和樹の頬を膨らませ、見るからに不機嫌になっている。
「おつまみで食べるとかなら平気なんだけど、そのまま料理に使うとえぐみが出ちゃうのよ」
「えー、めんどくさ」
「俺も一緒にやるからさ」
「わかったよ…」
陽平が胡桃の実を手に取り、爪を使ってカリカリと渋皮をむいていく。その脇に和樹も立ち、二人並んで胡桃の皮をむいていく。爪を立てると渋皮はボロボロとむけていき、乳白色の実が姿を見せた。
「やってみると、意外と簡単だね」
「だろ?」
「でも、進んでやりたいほどでもないけどね」
「この後すり潰すから、形とか気にしなくていーから。渋皮も完全に取り切れなくても大丈夫」
「それならいっそやらなくても…」
「そういう無粋なこと言わないでよ。和樹ってホントそういうトコあるよね」
「だって無駄じゃない?」
「ホントお前ってヤツは…」
陽平が肘で和樹の脇腹をつつく。
こうして並んで台所に立ち、他愛のない話をする時間が陽平は結構好きなのだ。
そのまましばらく作業を続け、終わりが見えた頃合いで和樹に声をかけた。
「和樹、もう終わるから、後は俺がやる」
「えっ、じゃぁ、俺の仕事ももう終わり?」
「その代わり、鍋にお湯沸かしといて」
「はーい」
「あと、お米を水に漬けといて」
「えー」
胡桃の下処理を終えると、陽平は用意してもらった湯でほうれん草をサッと湯がいた。それを冷水に取り、ざく切りにしてから水気を絞って下味をつけていく。「出汁洗い」という技法で、ボールの出し汁に少しだけ漬けておくのだ。この一手間を加えることで、和え物が水っぽくなるのを防ぐことができるのだ。
これとは別に、人参も極細の千切りにしていく。
野菜と一緒に加える舞茸も、ぬたの時と同じ様に出し汁でサッと煮て冷ましてある。この後の料理に使う用に、舞茸は少し多めに煮てある。
具材の下準備を終え、陽平はいよいよ和え衣の支度を始めた。
渋皮を取り去った胡桃を、丁寧にすり鉢ですっていく。ゴロゴロという音と共に、胡桃の香ばしい匂いがすり鉢の中から立ち上ってくる。すり胡麻のような綺麗なペースト状になるまで根気よくすり続け、砂糖や味醂、醤油で味を調えてからそれをボールに移す。
「胡桃って、すると白色になるんだね」
「和樹が渋皮取ってくれたからだよ。この方が、見た目もキレイでしょ?」
「そーね」
「まぁ、醬油の加減間違えたら元も子もないんだけどね」
陽平は和え衣に予め煮ておいた舞茸、汁を絞ったほうれん草と人参を加えて混ぜ合わせていく。白い和え衣に、食材の緑やオレンジ色がよく映える。仕上げに陽平は、すり鉢に入れずにおいた胡桃を手でちぎって混ぜこんだ。
「よし! これで完成だね。味見するでしょ?」
「するするー」
何も言わなくとも、和樹が自ら陽平の手元に味見用の小皿を差し出してくる。その皿に胡桃和えを盛ってやると、和樹は嬉々としてそれを頬張った。
「あっ、これも美味い! 色んな味と食感がするね」
「でも、どれもケンカしてないでしょ?」
「うん」
陽平も一口味見をする。和え衣はクセがないながらもコクのある味で、舞茸の香りを引き立てていた。舞茸の歯応え、野菜のシャキシャキとした食感、粒のまま入れた胡桃のカリッとした食感───。色々な食感が混ざり合っていて、確かに食べていて楽しい料理だと思った。
陽平は箸を置き、また次なる料理の支度を始めた。




