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四十九膳目 「鯵のちらし寿司」

 「陽平さん、米ザルに上げてあるよー」

 「じゃぁ、もう浸水させちゃおっか」

 「今日は白ご飯?」

 「いや、酢飯にする」

 「ということは…、鯵寿司!」

 もう既に和樹の目が輝いてる。

 「そう。握りは俺ムリだから、押し寿司にしようかと」

 「駅弁であったよね? 鯵の押し寿司って」

 「あー、鎌倉の方にね。今日作るのは、あれとは別物」

 「どうやって作るの?」

 「フツーに酢飯を型に入れて、上に鯵乗っけて押すだけだよ。あっ、さんが焼きに大葉使わなかったから、余った分押し寿司に使おっか。後は茗荷の残りを…」

 陽平は和樹と話ながらも、台所の中を忙しなく動き回っている。

 「陽平さん、よくそんな行き当たりばったりで料理作れるよね」

 「まぁ、俺テキトーだからね。酢飯用意してる間に決めればいっか、って感じだよ」

 「大丈夫かなぁ…」

 陽平が米を浸水させ、昆布を一欠片入れた。そのまま押し寿司に使う用の鯵を、酢の中に浸しておく。鮮度がいいので、軽く酢が回る程度に〆るつもりなのだ。

 「さ、寿司作りながら他の料理の仕上げもやっちゃうよ」

 陽平はこれまで作った料理を食卓に出せるように皿に盛りつけ始める。

 手始めに冷蔵庫から利久和えの入ったボールを取り出し、菜箸で全体を混ぜ合わせていく。

 「和樹、利久和えの味見する?」

 「するするー」

 「お前に食べさせた時よりも濃厚な味になってると思うよ。塩もみした胡瓜も一緒に和えてある」

 律儀に味見皿にちょこんと盛られた利久和えを、和樹はパクりと一口で平らげた。

 「うん! 胡麻のせいか濃厚な味だね。すごく鯵がねっとりしてる」

 「鯛茶に似てるだろ?」

 「うんうん。俺あの味好きだったんだよね」

 「またいつでも作ってやるよ」

 和樹の素直な言葉に、おもわず陽平は和樹の頭をポンポンする。にやけ顔で、和樹もまんざらでもない様子だ。こういうところも、陽平は犬っぽいと思う。

「さ、次はアジフライ揚げるぞー」

 陽平はもうアジフライに必要なバット類などを一式用意している。

 ボールに小麦粉と卵を溶いて天衣に似た「バッター液」を作り、さばいておいた鯵の水気をキッチンペーパーで拭き取っていく。鯵をバッター液、パン粉の順にくぐらせて、しっかりと衣をまとわせる。バッター液を使うことで、小麦粉と卵を順番にまぶすよりキレイに仕上がり、後始末も楽なのだ。

 「和樹、もうご飯火つけていいよー」

 「はいよ」

 和樹が文化鍋のコンロに火をつけた横で、陽平も揚げ油の鍋に火をつける。

 温度が上がったのを確認して、衣をまとわせた鯵を順々に油の中に滑らせていく。パチパチ何かが弾け飛ぶような、食欲をそそる音だ。



 それから二十分後───。

 陽平は炊き上がった白米を酢飯にしているところだった。木の飯台に入れた米に味を調えた酢を回しかけ、団扇でパタパタとあおぎながら懸命に冷ましていく。和樹も団扇を渡され、酢飯作りに駆り出されている。

 「陽平さん、俺揚げたてのアジフライ食いたいんだけど…」

 「それは後で。とりあえず酢飯作っちゃわないと」

 額に汗をかきながら、陽平は両手に団扇としゃもじを持ち、それぞれ器用に扱っている。酢飯が仕上がると、陽平は酢飯を大き目の鉢に盛りつけた。その上に香味野菜と酢〆の鯵を見栄えよく盛りつけていく。

 「あれ? 陽平さん、押し寿司にするんでしょ?」

 「すぐ食べるから、もう皿に直盛りしてちらし寿司みたくしちゃっていいかなぁ、って…」

 「相変わらず、いい加減だなぁ…」

 「その間にアジフライ、一個食べていいよ」

 「やったー」

 和樹が油切り中のアジフライを一つ素手でつまんだ。

 「あっ、おい、さすがに箸使えっての」

 「いやー、揚げたてってサクサクしててやっぱ美味いね。中の鯵の身もフワフワ」

 「だろ? あえてそんな火を入れてないの。てっきりお前ならソース使うかと思ったけど…」

 「あっ、美味そうでついそのままガブりと…」

 「じゃぁ、そのまま寿司も味見してみな」

 陽平が小さめに握った寿司を和樹の口に放りこむ。

 「…うん! やっぱ美味い! この茗荷がシャキシャキしてるのもいいね」

 「さ、満足したなら最後の一品も作るぞー」

 「えー、今から?」

 「大丈夫。すぐ終わるから」

 ───だ・か・ら、陽平さんのその言葉は信用ならないんだってば。

 喉まで出かかったその言葉を、和樹はグッとこらえた。

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