四十八膳目 「鯵の骨せんべい」
「陽平さん、それも料理に使うの?」
「もちろん」
「骨なんかどうすんのよ?」
陽平は大名下ろしにした中骨をまだ持ったままでいる。
「どうするって、素揚げにするの。骨せんべい」
「骨せんべい?」
「どうしても骨の近くに少し身が残っちゃうし、鯵は骨も美味しく食べれるしね」
「まぁ…、三枚下ろしの時も骨捨ててなかったし、何かするんだろうな、とは思ってたけど」
「さっすが、よくわかってるじゃん」
「まぁ、陽平さんの行動パターンはだいたい想像つくよ」
「そりゃこんだけ一緒にいるんだから、そうだろうね」
「ま、俺、何といっても彼氏ですからね」
『彼氏』という言われ慣れない言葉に、陽平は何とも面映ゆい思いがした。陽平がわざとらしく、和樹の耳元で囁くように喋る。
「こういうセリフを言うと、すーぐドキッとするところとかね」
「おっ、お前…、俺をからかうなよ!」
陽平が顔を赤らめる。和樹はその反応を楽しむように、陽平の耳にフッと息を吹きかける。
「いい加減にしろって」
「やっぱり、酔わせないとダメか」
「何がだよ?」
「酔った陽平さんにこういうことすると、めっちゃ面白いんだもん」
「頼むから、料理させてくれ」
陽平が力づくで和樹を押しやった。和樹より背は低くとも、本気を出せば家事慣れした陽平の方が力は強い。
「陽平さん、今から酒飲んでよ」
「い・や・だ!」
「えー、ケチ」
もう陽平は和樹の言葉に何の反応も示さない。陽平はまな板の上に取っておいたの中骨を全て並べ、キッチンばさみでヒレの先を切っていく。必ずしも必要な工程ではないのだが、陽平はこうすることで食感がよくなる気がして、ヒレの先を全て丁寧に切っているのである。
ヒレの下処理が終わると、陽平は先ほどのアジフライと同じように中骨をバットの上に並べた。臭みを取るために両面に軽く塩を当て、そのまま数分置いておく。
「陽平さん、」
「下らない話なら聞かないぞ」
「いや、真面目な話」
その言葉で、陽平は一旦作業の手を止めた。
「で?」
「今日、お米どーすんの? 俺、研がなくていいの?」
「あー、完全に忘れてた!」
突然の大声に和樹がビクッとする。
「和樹、今からお米三合、研いでくれる?」
「俺が確認しなかったら忘れたままだったでしょ」
「マジで助かったわ」
「んじゃ、ぼちぼちやりますかね」
和樹が腕まくりをして、米を計量カップで計っていく。
陽平は中骨から出た水気をキッチンペーパーでキレイに拭き取り、揚げる前に食べやすい大きさに切り分けてから油の中に入れた。
素揚げにしているので、陽平は焦がさないようにギリギリを見極めながら低めの温度で揚げていく。火を通すというよりかは、水分を飛ばすという感覚に近い。
上下を返しながら、箸の先に伝わる感触が軽いものになり、カサカサと軽い音がするようになったところで一度油から上げる。この状態まで揚げてから、最後に高温でサッと二度揚げするのだ。陽平は二度揚げ済ませ、きつね色に仕上がった骨せんべいに塩を振りかけた。それを一枚、米を研ぐ和樹の口に入れてやる。
「はい、味見」
和樹がボリボリと大きな音を立てて骨せんべいを味わっている。
「うん、これ美味いわ。これなら、ポン酒よりビールだね」
「バカ言ってないで、残り二品作りきっちゃうよ」
「はーい」
昼前から始めた鯵料理も、いよいよ終盤に近い。




