四十七膳目 「アジフライ」
「ねぇねぇ、陽平さん」
「何?」
「このまま料理するの?」
「そのつもりだけど」
「陽平さんって、ホント何時間でも台所立ちっぱなしで平気だよね」
「まぁ、ね」
いつもの踏み台に座りながら、和樹は少し退屈そうな顔をしている。
「それに、ここ暑くない?」
「それは…、そうだね」
確かに、エアコンのない台所は少し空気がよどんでいるようだった。うだるような暑さではないが、少し動けば汗ばむような暑さだ。その中で陽平は文句を言うこともなく、揚げ物や焼き物をしていたのである。
「和樹、扇風機持ってきて」
「はいよー」
和樹が居間で使っていた扇風機を引っ張ってくる。扇風機を台所に立つ陽平の方に向けてやる。
「どう、これで涼しくなった?」
「うん、ありがと。コンロ使ってるから、俺の足元の方に向けてくれると嬉しい」
「ハイハイ」
和樹は言われた通りに扇風機の向きを変える。
「ねぇ、俺、アイス食っていい?」
「えー、これから夕飯だよ?」
「いいじゃん、一個だけ」
陽平は大きなため息をついた。
和樹がいそいそと冷凍庫からアイスを取り出してくる。
「陽平さん、スプーン取って」
「それぐらい自分でやれ!」
「わかったってば…」
和樹が陽平をなだめる。
「陽平さんも食べる?」
「味見できなくなるからいい」
陽平の言葉は素っ気ない。和樹は扇風機を陽平の方に向けたまま、踏み台に座ってアイスを食べている。
「陽平さん、次は何作るの?」
「アジフライ」
「おぉ!」
「けど、夕飯の直前に揚げるから今は下ごしらえだけ」
「なーんだ、すぐ味見できると思ったのに」
和樹が肩を落とす。
「お前アイス食ってるからいーだろ」
陽平は和樹に構わず鯵をさばいていく。最後まで丸のまま残しておいた数匹の鯵だ。残りは全て三枚に下ろされ、血合い骨や皮までキレイに処理されている。
アジフライにする用の鯵は、三枚下ろしとは少し違うさばき方に包丁を入れる。アジフライ特有のあの開きのような形に仕上げるために、腹側をつなげた形にさばくのだ。
三枚下ろしと同じようにセイゴと鱗の処理するまでは同じなのだが、そこからが少し違ってくる。陽平は頭を落とすと、その切り口から内臓をこそげ出し、キレイに水洗いした。そのまま中骨の上に背側から包丁を入れていき、背骨を越えて腹側まで包丁を入れていく。
何回かに分けて包丁を入れていき、頭から尾の方まで切り終えると、今度はもう一方の身についた中骨を外すのだ。腹側はつながったままなので、陽平は鯵の表裏を返し、再び背側から中骨と身の間に包丁を滑らせていく。尾の先まで引き終えると、包丁に力をこめて尻尾の根本で背骨を落とした。
「陽平さん、さっきとさばき方違うね」
いつの間にかアイスを食べ終えた和樹が陽平のすぐ近くに立っている。
「あぁ、これは『大名下ろし』っていうさばき方」
「アジフライって、こうやってさばいてたんだね」
「そう、ちょっとこっちの方が手間かかるんだよね」
陽平は開いた鯵の真ん中の腹骨をすき、最後に表面に残ったヒレを根本から引き抜いていく。そのまま一連の作業を、数匹分繰り返していった。
陽平はさばき終えると、鯵を重ならないようにバットの上に並べ、両面に軽く塩を当ていく。それが済むとラップをし、冷蔵庫にしまった。
「さ、残りは食べる直前にやろ。次の料理作るよ」
そう言うと、陽平は今切り落としたばかりの中骨を手に取った。




