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四十三膳目 「鯵のさんが焼き」

 和樹が酒のコップを片手に、スプーンでまな板からなめろうをすくった。

 「おい、和樹、なめろう全部食うなよ」

 「だって美味いんだもん」

 「お前もう三杯ぐらい飲んでるだろ?」

 和樹が少し酒の入っていたグラスを空にする。

 「違うよ。今ので四杯目」

 「はい、もうおしまい」

 陽平が和樹の持っていたグラスを取り上げた。

 「そんなぁー」

 「だいたい昼前からコップ酒で四杯も飲むバカどこにいるんだよ」

 「ここにいまーす」

 「バカ」

 陽平が和樹の頭をポカリとやる。

 「ところで陽平さん、お昼どーするの?」

 「十品作る途中で丼もの作ってやるから、それ食べな」

 「陽平さんは?」

 「俺はいいや」

 「ダメだよ。ちゃんと食べなきゃ」

 「今日は朝飯食べたから大丈夫だって」

 「またそんなこと言ってー」

 「俺は平気だって」

 食事を抜くのはいつものことなのに、陽平には和樹がそこまで心配してくる理由がわからなかった。和樹も自分の言うことに陽平が耳を貸さないことはよく理解しているので、それ以上はしつこく言ってこなかった。

 「……んで、次は何作んの?」

 「さんが焼き作るよ」

 「さんが焼き?」

 「なめろうを使って作る、房総の郷土料理」

 「なめろうを使うの?」

 「だからバカみたい食うなって言ったんだろ? これ丸めて焼くんだよ」

 「あっ、ゴメン…」

 「ったく…」

 陽平は残ったなめろうを包丁を二本使って十分に粘り気が出るまで叩いていく。なめろう全体が一まとまりになったら、スプーンを使って団子型に成形する。半分はそのまま油をしいたフライパンに落とし、もう半分は大葉で包んでからフライパンに入れた。そのまま中火で、ほんのり焦げ目がつくまで焼いていく。

 「なめとうほどじゃないけど、『さんが』ってのも変な名前だよね」

 「こっちは色々語源があるらしいよ。なめろうを貝殻につめて保存して、焼いたり蒸したりして食べるようになったのが発祥みたい」

 「へぇー」

 「お前、こういうの好きだろ?」

 「うん、好き!」

 「そうかと思って」

 「ねぇねぇ、俺の昼飯はいつ作ってくれるの?」

 「うるさいなぁ」

 陽平がさんが焼きの裏表を返す。

 「だってお腹空いたんだもん」

 「次の料理作る時に、一緒に作ってやるから」

 「はぁーい」

 酒を飲めて満足したのか、和樹は素直だ。

 陽平はさんが焼きを箸で持ち上げて火の通り具合を確認する。刺身で食べれるほどの鮮度だから、そこまで火を通す必要もない。焼けたものから順に、皿に取っていく。

 「さ、お味見どーぞ」

 「やったー!」

 陽平がわざわざ声をかけるまでもなく、和樹は自分の箸を持って待機していた。息を吹きかけて冷ましながら、できたてのさんが焼きを一口食べた。

 「…鯵ってこんなにふわふわした食感になるんだね」

 「それは、必要以上に火を通さなかったから」

 「それで茗荷とかシャキシャキしてるのか」

 「そうそう。焼きすぎると固くなって美味しくないからね」

 和樹は続けざまにシソを巻いた方も味見する。

 「このシソで巻いたのも美味しいね」

 「シソ巻いてあること多いから、こっちも作ってみたんだ」

 「俺はシソ巻いてない方が好きかな」

 和樹の意見を聞きながら、陽平も二種類のさんが焼きを味見した。和樹の言う通りふわふわの仕上がりで、青魚の臭みも消えている。火を通した青魚特有のしっかりとした旨味と、味噌や香味野菜が上手く調和している。ただ、シソ巻きの方がやや香味野菜の味が強すぎる気がした。

 「オッケー。夕飯の時は大葉なしにするわ」

 陽平は思案顔で箸を置いた。

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