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夕飯前のひと時

 通知音が鳴り、台所に立つ陽平は傍らに置いてあったスマホを手に取った。和樹からのメッセージの受信を知らせるものだった。

 〈仕事終わった。今から帰る〉

 和樹からのメッセージは至って簡素なものだった。画面を見ながら、陽平はくすりと笑った。

 「アイツも相変わらずだなぁ…」

 陽平は和樹にスタンプを送る。

 お互い年を重ねるごとに、どんどんとやり取りが簡素なものになってきている。最近では返信などはスタンプ一個で済ますことも多い。だがそれでも、昔以上に相手の考えていることを読み取れるようにもなった。

 〈さっき電車乗った。また連絡する〉

 陽平のスタンプに、和樹がまた電報の如く味気ない返信を送ってくる。

 和樹は都内まで片道一時間半かけて遠距離通勤をしているのだ。前は都内で一人暮らしをしていたのに、同居を提案したら二つ返事で越してきてくれたのだ。小言を言いながらも、今も平日は往復三時間の道のりを通勤している。

 「さ、やりますか」

 陽平は腕まくりをして、ザルに入れた米を研ぎ始めた。今日はギリギリまで原稿の作業していたせいで、買い物にいけていない。こういう時、陽平は大抵焼き魚を主菜にする。魚好きの和樹は喜ぶし、焼くだけだからそう手間もかからない。そして今宵も、焼き魚を主菜に据えようと考えていた。

 米を研ぎ終え、陽平は味噌汁と副菜を作っていく。材料は全部冷蔵庫のありものだ。手早く支度をしていき、一段落したところに和樹からのメッセージが届いた。

 〈今駅着いた〉

 「さて、ボチボチかな」

 陽平は再びコンロの前に陣取る。既に夕飯の支度は半分以上終わらせてあり、コンロに置かれた二つの鍋の中には味噌汁と煮物ができあがっている。白飯は和樹に炊き立てを出したいと考え、まだ文化鍋を火にかけていない。主菜の焼き魚もまだ冷蔵庫の中だ。

 夕飯の仕上げを始めようとした時、スマホの着信音が鳴った。和樹からだった。

 「お疲れさま」

 「今日のご飯何?」

 「それで電話してきたの?」

 さしづめメッセージを打つのが億劫で、電話をかけてきたのだろう。

 「今日は焼き魚。今日は手抜き」

 「えー、腹ペコなんだけど?」

 「味噌汁と野菜のごった煮もあるよ」

 「どーせ冷蔵庫の整理したかったんでしょ?」

 「そうだけど」

 「他は?」

 「うーん、冷蔵庫に何か常備菜が入ってると思う。とりあえず、早く帰ってきな」

 「はーい」

 和樹の活き活きとした声で電話を切る。陽平は穏やかな気持ちで夕飯の仕上げを始めた。

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