つき合いたての頃…
陽平はとあるアパートの一室の前に立っていた。部屋番号と表札の名前を確認してから、恐る恐るインターホンのボタンを押す。「はーい」という少し間延びした聞き覚えの声が返ってきて、思わずホッと胸をなでおろした。間髪入れずに、部屋のドアがガチャリと開いた。
「陽平さん、いらっしゃいー」
「お、お邪魔します…」
「散らかってますけど、勘弁してくださいね」
そう言って和樹が人懐っこい笑顔を向ける。
和樹の後に続いて陽平は部屋の中に入った。間取りは至って普通のワンルームで、和樹の言う通り部屋は至る所に物が散乱していた。陽平はこの部屋に上がるのは今日が三回目である。自分のものとは明らかに違う和樹の匂いが部屋に漂っていることに、陽平は未だ慣れずにいた。
「ソファーはキレイにしてあるんで、そこ座ってください」
「ありがとう」
テレビの前に二人用のソファーがあり、陽平は言われた通りそこに大人しく腰かけた。
「あ、何か飲みます? っても、大したモンないですけど……」
「和樹《《君》》、俺にそんな気を遣わなくていいよ。てか敬語じゃなくていいし」
「陽平さんこそ、何か俺に対して遠慮がちじゃないですか」
「とりあえず、前から言ってるけど敬語禁止!」
「わかりまし…、わかった。その代わり、陽平さんも俺に遠慮しちゃダメだよ」
「じゃぁ早速、一個いい?」
「もちろん!」
和樹が子犬のように目を輝かせる。
「俺の隣、座って」
「そんなことでいいの?」
「テレビ見てていーから、肩貸してほしい」
「いいけど…」
少し戸惑いながら、和樹が陽平の隣に座る。その肩に、陽平がそっと頭を預けた。
「陽平さん、眠いの?」
「……朝まで仕事してた」
「作家さんって大変なんだね。ゴメンねムリに呼んじゃって」
「いや、大丈夫」
「今日はこのまま寝ちゃっていいよ。あと、今度から俺の前ではそういうの遠慮しなくていーから」
「じゃぁ、遠慮なく」
それから数分も経たない内に、和樹の首元から陽平の寝息が聞こえてきた。和樹は映画を見ながら、陽平の寝顔を何度も何度も見ていた。
だが和樹は後にこの時の言葉を、心の底から後悔することになるのであった。




