陽平、老いへの抵抗
「あー! また出てきてる!」
陽平の絶叫が家全体に響き渡る。その声で、ソファーで昼寝をしていた和樹が飛んできた。
「陽平さん、どしたの?」
「ま、また白髪が…」
陽平は洗面所にある鏡の前に立ち、頭頂部に生えた白髪を指差した。
「あー白髪? いいじゃんそんなのほっとけば」
「よくない!」
陽平の剣幕に和樹がビクッとする。
「こういうのは一本見つけたら十本あるって言うんだから!」
「いやいや、ゴキブリじゃないんだからさ…」
「いーや、見つけたからには全部根絶やしにしてやる!」
「そんなに抜いたら禿げるよ」
「和樹、全部抜いて!」
「わかったよ…、じゃぁソファー来て」
言われるがままに、陽平はソファーに向かう。和樹がソファーに座り、陽平は和樹に膝枕をしてもらう格好で、ソファーにうつ伏せになる。
「じゃぁ抜くから、じっとしててね」
「何か毛繕いみたいだね」
「まぁ、わからなくもないな。膝枕して頭撫でてると、ペット触ってるみたいな気分になる」
「俺が和樹に飼われてるってこと?」
「ま、実際は逆ですけどね」
和樹は毛抜きを手に、陽平の髪をかき分けて白髪を探していく。焦げ茶に染められた陽平の髪は色艶もよく、余計に白髪が目立つ。
「あっ、また見っけ」
一本抜くと、和樹は律儀に抜いた白髪を陽平に渡した。それを受け取り、陽平は白髪相手にブツブツと恨み言を言っている。
「陽平さん、髪染めるのやめたら? 髪いじめるから白髪が増えるんだよ」
「やだ! 俺黒髪だとダサいから絶対やめない!」
「いっそのこと白髪染めにしたら…」
「あ? 白髪染め?」
とたんに陽平が不機嫌になる。
「俺そんな老けてないでしょ」
「陽平さん、気持ちはわかるけど現実見よ」
「お前、年下のクセに生意気だぞ」
「俺は客観的な意見を言ってるだけです」
和樹がまた白髪を一本抜いた。
「君さー、ホントに頑固だよね…」
「それ俺に言ってる?」
「いや、白髪に言ってる」
「何? お前白髪と喋ってんの?」
「だって抜こうと思ったらどっか行っちゃうし、毛抜きの間すり抜けてくんだもん」
「ハハハ、しぶといところは俺に似たのかな」
「あっ、陽平さん動いちゃダメ。白髪が逃げる」
和樹が陽平の頭を軽く押さえ、少し前かがみになる。相変わらずブツブツと珍妙な小言を言いながら陽平の髪をかき分けている。
髪を触られる感触に快さを覚えながら、陽平はまた和樹に白髪を抜いてもうおうと考えていた。




