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三十八膳目 「とうもろこしの味噌汁」

 「さ、次は郷土料理シリーズ」

 「いつからそんなシリーズ始まったの?」

 「いや、何となく気分で。じゃがいもの時も郷土料理作ったし」

 「そういえばそうだったね」

 「厳密に決めてる訳じゃないけど、海外の料理とかより、なるべく日本の料理を取り入れるようにしてるよ。今回は山形の庄内地方の料理」

 「ふーん」

 「ねぇ和樹、実験につき合ってくれない?」

 「なに? また何かさせられるの?」

 疲れ果てた和樹が嫌そうな顔をする。

 「大丈夫。ただソファーで寝ててくればいーだけだから」

 「は? それが実験?」

 「今から俺が一品作るから、その間台所に入ってこないでってこと」 

 「また俺変なもの食わされんの?」

 「大丈夫。そんなことないから」

 「陽平さんの大丈夫は信用ならないからなぁ…」

 和樹が胡散臭さそうな目で陽平を見る。

 「さ、二十分もかからないだろうから、その間テレビでも見ててよ」

 そう言って陽平は半ば強引に和樹を台所から追い出した。



 「和樹、もういいよー」

 それから二十分ほど経って、陽平は和樹を呼んだ。ソファーで寝転がっていた和樹がむっくりと起き上がり、少し不機嫌そうな顔で台所にやってくる。和樹とは対照的に、陽平はニコニコしている。

 「もー何なのさ」

 「このお椀にある汁、味見してみて」

 調理台の上には椀が一つ置かれており、中には茶褐色の具なしの汁が少量入っていた。和樹が鼻をひくつかせて匂いを嗅ぐ。

 「これは…、味噌汁?」

 「とりあえず味見してみて」

 促されるままに、和樹が椀に口をつける。

 「何の味がする?」

 「え、とうもろこしじゃないの?」

 「俺がとうもろこしで料理作ってるからそう言ってるんでしょ。他にも味しない?」

 「うーん、何だろう…」

 「じゃぁこの汁、何で出しを取ったか分かる?」

 本当に見当がつかないのだろう、和樹は腕組みをして唸っている。少し思案した後、和樹はもう一度汁を口に含んだ。

 「……わかった?」

 「強いて言うなら…、エビ? カニかもしれないけど…」

 「ほぉ…」

 「陽平さん、答えは?」

 陽平は無言のまま脇にあった鍋のフタを取る。

 「あっ、やっぱとうもろこし入ってたんじゃん!」

 鍋の中にはとうもろこしの輪切りが浮いた味噌汁が入っていたのだ。

 「でも、出しを取った食材までは見抜けなかったね」

 「結局何だったの?」

 「とうもろこし」

 「え? 具じゃなくてだしの話だよ」

 「だから、とうもろこしで出しを取ったの」

 「言ってる意味がよくわからないんだけど」

 「水の状態から生のとうもろこしを煮て、出てきた旨味を出しの代わりにしたの」

 さっきの椀に、陽平が汁ととうもろこしを入れる。

 「さ、今度はとうもろこしも一緒に食べてみなよ」

 「うん」

 輪切りのとうもろこしを、和樹は箸を使って食べにくそうにかじっている。

 「甲殻類は一切使ってないけど、実際この料理はそういう味がするって言われてるんだよね」

 「へぇー」

 「だからそれを実験したくて、和樹に協力してもらったの」

 「見事にだまされたわ」

 「味は?」

 「甘みがあって美味いよ。とうもろこしからこんなに味が出るんだ、ってびっくりした」

 「じゃぁ、実験成功ってことかな」

 「そうかもね」

 和樹らしいぶっきらぼうな物言いだ。だがそれすらも、陽平には愛おしく感じられる。

 「長く煮こんだ方が美味しいらしいから、ヒゲとか他の野菜足して一緒に入れちゃおっか」 

 「いいんじゃない。美味そうで」



 陽平は和樹を追い出すと、最後まで残しておいた生のとうもろこしを取り出した。

 それを輪切りにし、鍋で水からじっくりと炊いていく。とうもろこしが煮えてきた頃合いで、味噌をやや控えめに溶き入れる。

 できあがった味噌汁を一口味見して、陽平は目を見開いた。噂通りエビの頭で取った出しと感じなくもない、野菜とは思えないような豊かな香味を持った味だった。何とも面白い味だと思った。きっとこれなら、和樹はまんまと引っかかるに違いない。

 「和樹、もういいよー」

 陽平は鍋にフタをして、和樹がやってくるのを待ち構えていた。

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