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三十五膳目 「とうもろこしのヒゲのお浸し」

 陽平は一人、ヒゲのサラダを味見していた。

 少し酸味のある甘辛い味が、ヒゲのプチプチとした歯触りとよく合う。そのまま陽平がゆっくりと咀嚼していると、じんわりと滋味あふれるほのかな甘みが染み出してきた。その甘みを舌全体で味わいながら、陽平はゆっくりと飲み下した。

 「陽平さん、それそんな気に入ったの?」

 和樹が手を動かしながら陽平の顔を見る。

 「え? だって美味しくない?」

 「まぁ、不味くはないけど…」

 「やっぱり和樹には薄味なんだ?」

 「ま、まぁ…」

 ズバリ言い当てられて、和樹が苦笑する。

 「次、これでお浸し作ろうと思ってるだけど…」

 「お浸し?」

 「うん。サッと湯がいて、出し汁で食べたら美味しそうだなぁ、と」

 「確かに」

 「じゃぁ、お浸しで決まりね。俺支度するから、和樹は頼んだ作業終わらせちゃって」

 「うん、わかった」

 「もう今やってる分で皮むき終わりでしょ?」

 「まぁ、そうだけど」

 つべこべ言いながらも、和樹はもうあらかたのとうもろこしをむき終わっていた。その内の半分ほどは、既に蒸し上がって状態で皿の上に積まれている。

 「よし、じゃぁそれむいちゃって、そのまま蒸して。あ、四本だけ蒸さずに残しといてね」

 「ホント、人使いが荒いんだから……」

 「だって、こうやって俺と話しながら台所いるの楽しいだろ?」

 「うーん、楽しいけど、疲れる」

 「今日は今頼んでる作業以外は頼まないから」

 「ホント?」

 和樹の顔がパッと明るくなる。

 「ホント。だから全部終わらせちゃって」

 「はぁーい」

 和樹の間延びした返事が、昼下がりの台所に反響した。



 和樹が皮むきを全て終えたところで、陽平はヒゲの下処理を始めた。こんもりと山のようになったヒゲを、順繰りに包丁で茶色い部分だけ切り落としていく。

 全てを切り終えると、陽平はヒゲを二掴みほど取り、鍋に沸かしていた湯の中パッと放った。その刹那、ヒゲの色が淡いライムグリーンに変わる。ものの数十秒で湯から上げ、冷水に取って充分に粗熱を取ると、固絞りにして一口大のざく切りにしていく。それを今度は、予め用意しておいた出し汁の入ったボールに入れる。和樹の意見を尊重して、出し汁は薄味ながら塩気を少し濃くしてある。昆布の出しに味醂と塩を入れ、醤油を少し垂らしたものだ。ヒゲ自体にほのかな甘みがあるので、少し塩気のある出し汁とも問題なく合うだろうと計算した上でのことである。

 ヒゲにまんべんなく出し汁を絡ませたところで、陽平は一口味見をした。予想した通り、塩気は少し強めだが、ヒゲの甘みを損なわない味に仕上がっていた。このまま冷蔵庫で冷やせば、より塩気を強く感じるようになるはずである。さすがにこれなら和樹の口にも合うだろうと、陽平は心の中でほくそ笑んだ。

 「陽平さん、できあがったの?」

 和樹がとうもろこしをむしる手を止める。

 「味見するでしょ?」

 和樹が無邪気に頷く。それを見て、陽平はいつものように和樹の口に箸で一口分放りこむ。

 「……どうよ? 味は」

 「うん、これ美味い!」

 「味、濃くなってるでしょ?」

 「うん。これなら大丈夫!」

 「ちゃんと計算したからね」

 「この甘じょっぱい味の組み合わせ……、焼きとうもろこしに近いかも…」

 「あー、確かに!」

 予想だにしなかった的確な感想に、陽平は目を見開いた。昔に比べて、確実に和樹の舌が肥えてきている。

 「さ、俺も手伝うから、蒸し上がったとうもろこしの実全部むしっちゃおう!」

 「オッケー」

 陽平が蒸し上がったとうもろこしを手に取る。それを見て和樹もやりかけだった

とうもろこしを手に取り、二人並んで作業をしていく。

 陽平に教えられて、とうもろこしをむしる和樹の手つきも慣れたものになりつつある。

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