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一膳目 「生空豆とクリームチーズ」

 「まったく……、出かけたと思ったらこんなに一杯買ってきて……」

 和樹かずきは台所に積まれた緑色のサヤの山を見てため息をつく。

 「えー、いいじゃん別に。美味しそうだし」

 和樹の隣に立つ爆買いの犯人、陽平ようへいは、そんなことを気にも留めずあっけらかんとしている。

 「千葉行ってきたんだっけ? 陽平さんは一体何しに行ってきたの」

 「次の小説の取材で館山まで。で、たまたま街で空豆見つけたからつい。いやー、この量持って電車で帰ってくるの大変だったよ」

 「あ、これ空豆だったんだ」

 「和樹、空豆見たことないの?」

 「サヤつきのは見たことなかった」

 和樹は興味津々に目の前の空豆の山を見ている。

 「『房州ぼうしゅうの空豆』って、昔から有名よ」

 「ぼーしゅー?」

 「昔の国の名前。安房あわの国って意味。ほら、甲州とか信州みたいな」

 「あー」

 「それで、たまたま通りかかった八百屋さんで空豆見つけたの。少しだけ生でかじってみな」

 「え、空豆って生で食べれるの?」

 和樹がぎょっとした顔になる。

 「まぁ、日本ではあまりメジャーな食べ方ではないよね。品種によるけど、新鮮なものなら大丈夫。これは今朝採れたやつらしいから大丈夫だと思うよ」

 陽平がサヤを一つ手に取り、手早く中の豆を取り出していく。

 「あ、見たことある空豆だ」

 「和樹、何か小さいお皿出して」

 「わかった」

 和樹が出した小皿に、陽平が薄皮をむいた空豆を数粒のせる。

 「さ、食べてごらん」

 「えー、ホントに美味いの?」

 「いーから」

 半信半疑の和樹が、恐る恐る生の空豆を口に運ぶ。少しだけかじり、ゆっくりとかみ砕いている。

 「どう?」

 陽平が和樹の顔を見る。

 「シャキシャキしてる。少しほろ苦いような、甘いような…」

 その横で陽平も空豆に手を伸ばす。空豆を舌先にのせ、ゆっくりと咀嚼しながら相性のよい食材を頭の中で思い描いていく。 

 「…オリーブオイルと塩が相性いいはず。あとは…、クリームチーズかなぁ」

 「もう酒のツマミじゃん」

 「たぶん辛口の白ワインが合うと思うよ。イタリアだと生の空豆にペコリーノチーズを合わせるって聞いたことがある」

 「ねぇねぇ、ブルーチーズは?」

 ブルーチーズは和樹の大好物なのだ。

 「クセ強すぎて空豆の風味がぶっ飛ぶ」

 「えー、残念」

 「それぐらい想像すれば分かるでしょ」

 「それは陽平さんの特殊能力だって」

 「訓練すれば誰でもできるようになるよ」

 「ねぇ陽平さん、酒吞んでいい?」

 酒豪の和樹の目がキラキラしている。陽平が呆れ顔で和樹を見る。

 「まだこの後九品作るからもう少し待っとけ」

 「え、そんなに作るの? てか、そんなに空豆ってレシピあるの?」

 「今考えてるとこだけど、多分大丈夫そう」

 「スゲー」

 「和樹は後でお使いよろしくな」

 「はぁーい」

 和樹が少し不満気に口を曲げた。

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