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七十八膳目 「貝焼き味噌」

 帆立の黄金焼きを全て作り終わった陽平は、できたてを味見していた。表面の卵黄の層はフワッとしているが、それを噛むと中の貝柱のしっかりとした歯応えがあった。繊維状の貝柱を嚙みしめると、味醂醤油と貝柱の旨味が混ざりあった汁が染み出してくる。一口一口まるで検分するかのようにゆっくりと咀嚼していた陽平は、満足気な表情で箸を置いた。

 「……よし、残り三つだね」

 「陽平さん、俺にも味見させてよ」

 「分かったから、勝手に一個味見しな。一個だけだからな」

 「信用ないなぁ……」

 和樹ができたての黄金焼きを頬張る。

 「うん! 美味しい!」

 「お前は何食べても、ほとんどそれしか言わないよな」

 「えーひどいなー。陽平さん、俺の味覚が少しずつ成長してるって褒めてくれたじゃん」

 「そうだけど、お前根が単純だからなぁ」

 「陽平さん、今日俺への当たり強くない?」

 何も答えずに陽平は自分が使った箸と味見皿を流しに置き、また次なる料理の支度を始める。

 「さ、次は『貝焼(かや)き味噌』だよ」

 「ちょっと! 俺の話聞いてる?」

 陽平は笑顔で無視する。その言葉を、少し前の和樹にそっくりそのまま返してやりたいと思った。

 「次に使うのは、この貝殻」

 陽平が手に取ったのは、浜焼きの時に使った帆立の貝殻だった。貝殻は陽平の拳ほどの大きさである。

 「まさか……、貝殻食べるの?」

 「そんな訳ないでしょうが。この貝殻をお皿にして、中で具材を煮こむの」

 「あー」

 「そもそも、『かやき』ってのは貝焼きが訛った物らしいしね」

 「またどこかの地方の料理?」

 「そう、貝焼き味噌は青森県の郷土料理」

 「郷土料理好きだねぇー」

 「いいじゃん。郷土料理には、その土地で取れる物を美味しく食べようとする知恵が一杯詰まってるんだから」

 浜焼きの時に使った網を再びコンロの上に据え、空の貝殻を乗せる。

 「そもそも浜焼きに使った貝殻は、元々このために用意してた物だったんだよ」

 「あー、そうだったんだね」

 大して興味のなさそうな声だ。陽平が話題を変える。

 「んで、もうぼちぼち全部仕上げをして、夕飯にしたいんですよ」

 「やったー! 一杯食べるぞー!」

 「お前の胃袋は底なしか」

 「こんだけ労働したんだから、当然酒も飲んでいいんだよね?」

 和樹は陽平の話など聞いてはいない様子だ。

 「……俺が止めても、何としても飲むだろ」

 「それは俺の生き甲斐だからね。止めたら暴れるよ」

 「アル中みたいなこと言ってんじゃない」

 「えへへー」

 「褒めてない!」 

 陽平の大声に和樹がビクッとなる。

 「そ・れ・で、メシの支度をしてほしいの」

 「何すればいいの?」

 「大根おろし作ってくれて、野菜も切ってくれたんだよね?」

 「ちゃんと言われたからやりましたよ」

 「ハイハイご苦労様でした」

 やさぐれる和樹の頭を、陽平が撫でてやる。

 「とりあえず、食卓拭いてもらって、カルパッチョの盛りつけ頼もうかな」

 「ねぇねぇ、カルパッチョ味見していいよね?」

 「あー、一枚だけね」 

 「よっしゃ!」

 「まったく……」

 陽平は溜息をつきながら、貝焼きの下準備をしていく。といっても、和樹に野菜を切ってもらっていたので、やることはそう多くない。貝殻の中に細切りの人参と細かく裂かれたしめじを入れ、その上に貝柱を一口大に切って入れた。湯通ししたヒモが少し残っていたので、それも一口大に切って加える。

 「陽平さん、食卓拭いてきたよー」

 「お、ありがと」

 「もうできる?」

 「いや、アツアツを食卓に出したいから、仕上げはまた食べる直前にね」

 「ま、もうすぐ夕飯なら我慢するよ」

 カルパッチョを一切れ頬張りながら、和樹が少し不服そうに言う。

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