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七十五膳目 「帆立の浜焼き」

 買い出しから戻ってきた二人は、手分けして買ってきた食材を冷蔵庫にしまっていく。和樹は陽平におやつを買ってもらって上機嫌だ。

 「陽平さーん、買ってきたおやつ食べてもいい?」

 「あぁ食べといで。それと、今から帆立焼くよ」

 「焼くって、居酒屋みたいに貝で焼くの?」

 「あぁ、そっちの方がいいならそーしよっか」

 陽平は調理台の下の収納から何かをごそごそを取り出してくる。

 「よし、これで焼くよ」

 陽平が出したのは魚焼き用の網だった。持ち手がついた四角い形状の物で、コンロでもグリルで焼くように美味しく焼き魚が焼けるという優れ物の調理器具である。陽平はそれをコンロの上に置いた。

 「陽平さん、俺焼いていい?」

 「おやつ食べるんじゃなかったの?」

 「だって、自分で焼いたの食べたいんだもん」

 「はいはい」

 陽平は網の上に空の貝殻を置き、その中に帆立のむき身を入れた。むき身は焼き物用に肝やヒモをつけたままにしておいた物だ。殻も元々別の料理で使う予定があったので、綺麗に水洗いして取っておいてあったのだ。

 「このままぐつぐつしてくるまで見張ってな。後は和樹に任せた」

 コンロの火を点け、陽平は横の調理台で次の料理に使う野菜を刻んでいく。

 和樹は言われた通り律儀に網の前に張りつき、穴の開きそうなぐらいジーっと貝を見ている。大の男が網の上に二個しか乗っていない貝と対峙しているさまは、傍から見るとかなり珍妙だ。和樹のことだから、その内貝を相手に会話を始めそうな気もする。陽平は笑いそうになるのをどうにかこらえていた。

 「……和樹、別にそこまで見てなくても大丈夫だって」

 「だって、陽平さんが見張ってろって」

 こういう杓子定規な受け答えは、いかにも理系な和樹らしい。それに腹が立つことも多いが、今こうして貝を眺めている姿は少しいじらしく感じられる。

 「そんなすぐには火通らないから」

 「どれぐらいまで焼けばいい?」

 「ぐつぐつしてきたら、後は好きな焼き加減まで焼きな。ただ、あんまり火を通し過ぎると美味しくないよ」

 「はーい」

 それから数分経って、和樹が声をかけてきた。

 「陽平さん、これぐらいでどう?」

 「お、いいんじゃない?」

 陽平がコンロの火を弱め、殻の中に醤油を少し垂らしてやる。殻の縁に当たった醤油が焦げる音と共に、食欲をそそる醤油の焦げるいい香りが立ち上る。

 「うわー美味そうー」

 和樹は涎を垂らしそうな勢いで、食い入るように帆立を見つめている。

 「ほら、一個味見しな」

 「俺、手前側の大きいのね」

 「はいはい分かったから」

 呆れながら、陽平は和樹が帆立の浜焼きを食べる姿を見る。

 「どーよ?」

 「美味い! やっぱ帆立はこうやって食べるのが美味いよね!」

 陽平も残った方の貝を味見をした。ふっくらとした貝柱を噛むと、ジュワーっと旨味が染み出してくる。旨味のある汁が、プリプリとした食感のヒモと肝にまとわりつく。帆立といえばコレ、といった定番の味だ。特別な味ではないが、美味しいのはやはり帆立そのものが上物だからだろう。

 陽平は網を脇にどけ、また次なる料理の支度を始めるのだった。

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