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七十四膳目 「帆立の肝の揚げ出し」

 「先に言っとくけど、次の料理もすぐできないから味見はないよ」

 「えー、またー?」

 「別に今お前に味見をさせるために料理してんじゃないのよ」

 「それは分ってるんだけどさぁ…」

 「とりあえず、当分味見はないから」

 「えー、お腹空いたー!」

 和樹が年甲斐もなく駄々をこねる。陽平は内心呆れつつも、これも自分に心を許していることの裏返しと思えば悪い気はしない。

 「昼ちゃんと食っただろ?」

 「だってもう三時間以上前の話じゃん」

 「お前さ、仕事中とかどーしてんのよ」

 陽平の中で、目の前の幼い和樹と、スーツをパリッと着こなした和樹の姿がだぶる。

 「あー、忙しいとそんな気にならないんだよね。でも、時々ちょっとお菓子つまんでるかなぁ」

 「大酒飲んでメシ食って、お前、また太るぞ」

 「うぅ…、陽平さんひどい」

 「後で買い物いってもらうから、その時に何か買ってくる?」

 「俺、またお使いいかされるの?」

 「嫌なら俺一人でいってくるけど」

 「せっかくだから一緒にいこうよ」

 「えー、何でまた…」

 「どーしても」

 和樹がジッと目で訴えてくる。大きなため息をついて、陽平が折れた。

 「……しょうがないなぁ」

 「献立決めて、さっさと買い物いこ」

 「あー、もうだいたい組んだよ」

 「じゃぁ早く買い物いこうよ」

 「とりあえず、この料理準備してからね」

 陽平はまた鍋に湯を沸かし、それとは別の小鍋に出し汁を張った。

 「出し汁使うの?」

 「そう。これで肝を煮て、揚げ出しを作る」

 「揚げ出しって、あの豆腐の天ぷらみたいなの?」

 「そう、あれと同じ。肝を先に煮て下味つけて、それから衣つけて揚げるの」

 「それって結構時間かかるんじゃない?」

 「そうだね。煮てから少し置くからね」

 陽平は調理台の真ん中に肝の入ったボールを置く。中の肝は赤い物と白い物が混じって入っている。肝という名前だが、実際は生殖巣であり雄と雌で全くの別物なのだ。赤い方は雌の物で中に卵を蓄えており、白い方は雄の物で白子だ。

 陽平は沸かしていた湯でサッと臭みを抜き、肝をザルの上にあげた。湯通しした肝を、そのまま用意していた出し汁でゆっくりと煮含めていく。あくまで下味をつけるのが目的なので、出し汁には少量の醤油と酒が入っているだけである。

 十分程煮て中まで火を通すと、陽平はコンロの火を消した。後はゆっくりと冷ましながら、味を染みこませていくのだ。

 「さ、後は置いとくだけだから、一旦買い物いこうか」

 陽平が前かけを外し、エコバックを和樹に手渡す。

 「もう待ちくたびれたよー。はい、陽平さんのコート。財布は俺が持ってる」

 せっかちな和樹はもう既にジャンパーを羽織って準備万端だ。陽平は受け取ったコートを手に、和樹の後を追って台所を出ていく。

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