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七十二膳目 「帆立のヒモと胡瓜の辛味噌和え」

 帆立の貝柱を三種類の造りにした陽平は、自分の引いた造りを食べ比べていた。

 繊維を活かして切った縦の方が歯応えがあるが、旨味が強いのは繊維を断ち切った横の方だ。だが、縦の方は歯応えがありながら嚙むほどに旨味がしみ出してきて、やはり縦の方が美味しい気がする。焼き造りは、そこに香ばしさが加わってまた格別の味だ。

 箸を置き、陽平は腕組みをする。

 まだ残りの九品を何にするのか決めていないのである。手元に届くまでどんな状態の帆立がくるか分からなかったので、造りの味を見てから何を作るのか決めるつもりでいたのだ。造りの味見を終えてもなお、陽平は献立を決めかねていた。

 とりあえず結論を先延ばしにして、陽平は献立を考えている間に残りの帆立を全て殻からむいていくことにした。殻むきは考えごとをするには丁度よい単純作業だった。

 「陽平さーん、俺何か手伝うことあるー?」

 「いや、今は大丈夫…」

 「次何作るのー?」

 「…和え物作る、つもりでいる」

 考えごとをしている陽平は生返事をする。

 陽平は全ての貝をむき終わると、そのまま使う何個かを除いて、残り全ての帆立を貝柱とそれ以外の部分に分けた。貝柱は綺麗にバットに並べ、残った部分も肝とヒモを分けてそれぞれ別のボールに入れる。陽平はその中からヒモだけを集めたボールを手に取った。

 「次はそのヒモ使うの?」

 「そう。これと胡瓜使おうと思って」

 次の料理は、このヒモで和え物を作ることに決めたのだ。

 ヒモを入れたボールの中に塩を入れ、よく揉みこんでぬめりを取っていく。終わったら流水でよく洗い、そのまま沸かした湯でサッと火を通した。それを流水で再びよく洗い、一口大のサイズに切り分ける。

 「ねぇ和樹、お願いごとしてもいい?」

 「いいよー」

 「流しに入れた貝殻捨ててもらって…、貝柱と肝は一旦冷蔵庫に入れといてもらえる?」

 「分かった」

 和樹が腕まくりをして、流し周りを片づけていく。

 綺麗にしてもらった調理台で、陽平は胡瓜を薄く輪切りにした。こちらもボールに入れ、塩をして水分を抜いていく。

 陽平はまた別の少し大きめのボールを用意し、その中で調味料を合わせた。酢をベースに、砂糖、醤油、おろし生姜、胡麻油と加えていき、最後にコチュジャンを入れる。調味料をよく混ぜ合わせ、その中にヒモを入れて手でよく揉みこんでいく。胡瓜も水気をギュッと絞り、その中に加える。

 「俺、これは味見しなくても分かる。絶対に美味いヤツだ…」

 「まぁ、ピリ辛でお前の好きな味だと思うよ」

 陽平は菜箸を使って全体をよく混ぜ、仕上げに白胡麻を振った。

 でき上がった和え物を、一口味見してみる。

 ピリ辛ながら少し甘めの味で、ヒモの弾力のある食感によく合う味だった。まだ少し味が馴染んでいないが、夕飯まで置いておけばいい塩梅になるはずだ。思いつきで胡瓜を合わせたのも、味がまろやかになっていて我ながらによい判断をしたと思った。

 こんな料理を和樹に与えたら、また酒をしこたま飲むのだろう。

 そうと分かっているはずなのに、懲りもせずにこうしてまた酒に合う料理を作ってしまう自分がいる。

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