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七十一膳目 「帆立の焼き目造り」 ※12/18改稿しました。

 ある師走の週末の昼下がり――。

 陽平が昼食の食器を洗っていると、インターホンが鳴った。その音に、居間のソファーで寝転んでいた和樹むくっと身を起こす。

 「何だろ?」

 「あ、俺の荷物だろうから俺出るよ」

 陽平は手を拭い、足早に玄関に向かう。朝からずっと荷物が届くのを待っていたのだ。しばらくして、陽平は発泡スチロールの箱を抱えて居間に戻ってきた。

 「よーやく届いたよ。週末に届いてくれて助かったわ」

 「陽平さん、それは?」

 「よいしょっと」

 居間を通り抜け、陽平は抱えていた発泡スチロールの箱をドンと台所の調理台に置く。早速中身が食べ物だと嗅ぎつけたのか、居間にいた和樹も台所にやってきた。

 「陽平さん、それって、中身全部帆立?」

 和樹が表面に貼られたシールを見て言う。

 「そうだよ。返礼品で貰った北海道の帆立。お前、帆立好きだろ?」

 「うん!」

 「今日はこれで十品作ってやるから」

 「え、ホント? やったー!」

 「最近お互い繁忙期で、色々頑張ったしな。これは俺からのご褒美」

 陽平は目の前で見えない尻尾を振る大型犬の頭を撫でてやる。

 「マジでここ最近シャレにならないレベルで忙しかったから嬉しいわ…」

 「早速捌くか」

 「もちろん最初は生で食べるんでしょ?」

 「造りにするつもりだよ」

 「だと思った」

 「最初はなるべく食材本来の味を楽しめる単純な料理にしたいからね」

 陽平は両手に軍手をはめ、帆立貝を一つ手に持った。

 貝殻を横から見た時に厚みのある方の面を下にして、ナイフを二つの貝殻の間に差し入れる。そこから貝殻に沿ってナイフを小刻みに動かして、下にした貝殻から身を外していく。身は両方の貝殻にくっついているため、順番に外していくのだ。

 陽平は片方の貝殻から身を外し、貝をこじ開けた。こじ開けた上の面に、身がぴったりとくっついている。貝の上下を返し、もう一方の面からも身をはがしていく。陽平の手の動きは迷いがない。

 まず初めに陽平は「ウロ」と呼ばれる根本にある黒い塊を外し、その次にヒモをはがしていく。ウロは中腸線とも呼ばれ、毒を蓄えていることがあるので食べることができないのだ。ヒモは後で料理に使うので、端に置いたボールによけておく。

 貝柱の縁についた肝を外し、これもヒモと同じように端のボールによけた。そのまま陽平は貝柱の下に手を入れ、その下にあるエラを取り除く。エラも食用にすることはできない。

 最後に貝柱を殻から外し、同じように貝柱をもう二個用意し、陽平は貝柱を流水でサッと洗う。

 「……よし、じゃぁ引いていくか」

 軍手を外し、陽平は貝むき用のナイフから包丁に持ち替えて貝柱を造りに引いていく。貝柱を縦に平造りに何枚か引き、もう一つ別の貝柱には横向きに削ぐように包丁を入れた。

 「帆立の貝柱はね、切り方で味が変わるんだよ。縦に切るか横に割るかで」 

 「たったそれだけで?」

 「うん。貝柱には縦に向かって繊維が走っているから、それに沿って切るか、断ち切るかで味の感じ方が変わるの」

 「そういう理屈なんだ」

 「そして、今ここに縦に切った貝柱と横に切った貝柱があります」

 それぞれ別の貝柱を使ったが、貝柱の数に限りがあるので味見する分だけしか切っていない。

 「なんか、料理番組の先生みたい……」

 「さ、お味見をどーぞ。あっ、醤油あんまりつけるなよ」

 「分かってるって」

 言われるがままに、和樹は順に口に運んでいく。

 「違い分かるか? どっちが美味いとか」

 「言われてみれば……、って感じかな? 俺は……、縦に切った方が好きかな。ちゃんと食べてる感じがして。すごく甘みの強い帆立だね」

 「『分からない!』って即答しなくなっただけかなり成長したな」

 「陽平さんは俺を料理人にしたいの?」

 「いやー、お前じゃまずムリだよ。味覚のセンスは悪くないけどね」

 「ひどいなぁー」

 陽平は最後の一個の貝柱を手に取ると、串焼きのように金串を二本刺した。金串を手に、そのままコンロの前まで進んでいく。

 コンロの火を全開にし、その火の上で表面全体に少し焦げ目がつく程度まで貝柱を炙ると、すぐに氷水の入ったボールに入れた。

 しっかりと冷まし、水気を拭った貝柱を陽平が平造りに引いていく。和樹は僅か数分ばかりの一連の動作を、手品を見る子どものように無心で眺めていた。

 「……どう? これが『焼き目造り』ってヤツ」

 「炙りとは違うの?」

 「まぁ同じようなモンよ。また生とは違った味だよ。食ってみるか……、って、お前なら間違いなくそう言うよな……」

 「うん!」

 「よし、そこで待ってろ」

 和樹は言われた通り、その場で大人しくしている。やっぱりコイツ、ゴールデンレトリバーか何かだろ、と陽平は脳内で一人でツッコミを入れていた。

 「さ、できたからこっちも味見してみな」

 陽平が切ったばかりの焼き造りを、和樹は醤油を少し垂らして一切れ口に入れる。

 「どーよ?」

 「何かさ、上手く言えないけど、味がギュッと詰まってる感じがする」

 「料理人みたいな生意気なこと言って……」

 陽平が和樹の脇腹を冗談めかして小突く。

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