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七十膳目   「蓮根と海老の水餃子」

 「海老使うって言ってたけど、最後は何作るの?」

 「最後はねぇ、蓮根と海老の水餃子」 

 「陽平さんの得意料理じゃん」

 「別に餃子は得意料理じゃないよ。ただ作り慣れてるだけ」

 「それを得意料理って言うんじゃないの?」

 「どーなんだろ…」

 陽平は最後に残った蓮根を手に取った。新芽の方から順に使っていったので、大ぶりな少し古い方の節だ。陽平は皮つきのままそれを半分に切り分け、半分は細かく刻み、もう半分はすりおろした。これもまた蓮蒸しの時と同じである。

 おろし蓮根の汁を切ってから、その二つをボールで合わせると、陽平はまな板の上で小海老を叩き始めた。小海老の背ワタを取り除き、粘りが出てミンチ状になるまで叩いていく。

 海老のミンチを蓮根のボールの中に加えると、立て続けに今度は椎茸を細かく刻んでいく。これも刻み終わったらボールに入れ、全体を豪快に混ぜ合わせる。

 塩や胡麻油、酒、生姜、醤油を順々に入れて味をつけ、もう一度全体を混ぜ合わせた。これが餃子の具になるのである。

 「和樹、もうそろそろ夕飯の準備始めてくれる? 冷蔵庫に入れてる料理出して、少しずつ盛りつけ始めてて」

 「分かったー」

 調理台に立つ陽平の後ろで、和樹がガサゴソと動き始める。陽平は具を作り終え、餃子の皮で具を包み始める。使うのは、水餃子用の少し厚めの皮だ。

 陽平の餃子の包み方は少し特徴がある。皮の真ん中に具を置き、手前側半周の縁に水をぬり、ひだを三つ寄せながら反対側の皮と貼り合わせるのだ。こう包むと、ひだは餃子の皮に片方にしかつかない。ひだのつけた方の側面はふっくらと丸みを帯び、反対側は垂直に立ち上がる。横から切ると円を四等分したような断面になるこの包み方だと、餃子が直立して倒れにくいのだ。これは餃子を多く作る中で陽平が自然と習得した包み方だった。

 「陽平さん、一応俺が触れる物は全部盛りつけたけど…。あっ、酢蓮食べたけど、シャキシャキで丁度いい酸味だったよ」 

 「何ちゃっかり味見してるんだよ」

 「えへへー」

 「で、残りは?」

 「後は…、さっき作った煮物と蒸し物とお雑煮かなぁ」

 陽平は手を動かしながら指示を出す。

 「挟み焼きはどーした?」

 「陽平さんがさっきお皿に盛ってたから、そのままにしてあるよ」

 「わかった。そのままでいいよ。和樹、俺の代わりに餃子包んで」

 「えー」

 「お前いつも横で見てるからできるだろ? 時々やらせてるし」

 「できるけどさぁ…、俺さっきもう手伝わないって言ったじゃん」

 「ゴメン。他にやりたいことあるからよろしく」

 「どうせ俺が何言っても聞かないんでしょ?」

 「まぁ…、それはそうだね」

 和樹に餃子包みを託し、陽平は炊き合わせから仕上げを始めた。和樹から味つけにケチをつけられたので少し旨味を感じられる味に直し、浅めの鉢に盛りつける。

 雑煮は作っておいた白味噌の汁の味を見て、後は蓮根餅と一緒に椀によそうだけの状態にまで持っていく。汁の実は、短冊に切った人参と椎茸である。仕上げにここに湯がいた青菜を足すつもりで、それも既に用意してある。

 手早く二品の仕上げを終え、陽平は大鍋に湯を沸かした。この中で水餃子を茹でるのである。湯を沸かしている間も、陽平は手を休めない。

 今度は蓮蒸しにとろろ昆布をまぶし、おろし山葵を天盛りにする。後は食卓に運ぶ直前に汁をかけるだけだ。

 休むことなく、陽平は揚げてからそのままにしていた辛子蓮根を手に取った。調理台の上を空け、和樹が餃子を作っている傍で辛子蓮根を切っていく。衣がはがれやすいので、ゆっくりと包丁を入れていく。

 二本とも切り終えると、陽平は一番尻尾の部分をそれぞれ味見した。辛子味噌の方は冷ましたことで少し辛みが落ち着き、味噌や蓮根といい感じに馴染んでいた。辛子明太子を詰めた方も、明太子入りのすり身の食感と蓮根の食感の対比が面白い。陽平はもう一方に尻尾を和樹の口に入れてやる。

 「ほら、味見してみな。今食べてるのは辛子味噌のヤツ」

 「ピリ辛って感じなんだね」

 「で、こっちが辛子明太子の方」

 もう一方の辛子蓮根も口に入れてやる。

 「うーん、こっちはさっき食べた煮物に近い食感だね」

 「餃子は包み終わった?」 

 「うん。あんま綺麗にできなかったけど、許してよ」

 バットの上には、明らかにいびつな形をした餃子が何個か並んでいた。

 「うーん…、まぁいいよ。ありがとね」

 陽平は苦笑しながら、沸いてきた大鍋の湯の中に餃子を豪快に入れた。このまま餃子が浮いてくるまで茹でるのだ。陽平はその時間を使って和樹に洗い物を頼み、冷蔵庫から蓮根羹の入った流し缶を出してきた。

 包丁を水で濡らし、陽平は流し缶から出した蓮根羹を食べよい大きさに切り分けていく。蓮根羹を全て切り分けると、陽平は和樹に声をかけた。

 「蓮根羹食べれるけど…」

 「えっ、それどんな味か気になってたんだよね」

 「甘い物だけど、今食べる?」

 「えー、味見なら関係ないでしょ」

 「じゃぁ一切れだけ食べてみな。俺も味見する」

 陽平は小皿を二つ並べ、それぞれに一切れずつ蓮根羹を取ると、その上に黒蜜を垂らした。洗い物の手を止め、和樹が陽平の元へやってくる。

 「はい、どーぞ」

 「ありがと」

 和樹は箸で蓮根羹を小さく切って口に入れた。真剣な顔をして口を動かしている。

 「……何て言うかさ、シャリシャリとモッチリの中間みたいな感じだね。蓮根の味も…、ちょっとだけする気がする」

 「蓮根のデンプンのせいなんだけど、面白い食感だよね。味は…、和樹の言う通りあんましないね。微かに蓮根の香りがするぐらいかな」

 「でも、蓮根が和菓子になるって面白いよね。俺、初めて知ったわ」

 「京都にも蓮根のお菓子あるんだけど、和樹知らない?」

 「そうなの? 知らないなぁ…」

 「調べてごらん」

 言われた通りに、和樹が自分のスマホで検索をかける。

 「あー、何か見たことあるかも」

 「水羊羹みたいな見た目で、麩饅頭みたいに笹に包まれてて…、トロっとしてて美味しいお菓子だよ。昔頂き物で一度だけ食べたことある」

 「へぇー」

 二人が味見をしている間に、鍋に入れた餃子が浮き始めていた。

 「さ、もう水餃子茹であがるよ!」

 陽平は浮かんできた水餃子をすくい上げ、皿に取っていく。その脇からひょいっと、和樹が水餃子をつまみ食いする。

 「あっ、お前、夕飯まで待てよ…」

 熱々の餃子を、和樹が火傷しそうになりながら頬張っている。

 「いやー陽平さんの餃子って、醤油なしでも結構美味いよね」

 「おだてたって許さないからな」

 陽平が和樹の頭をこつんと叩いた。

 「さ、そろそろ夕飯にしよ。和樹は残りの洗い物終わったら、出せる物から食卓に並べていって」

 「はーい」

 陽平は残りの餃子を順番に茹でていき、それと平行して他の料理を全て仕上げていく。でき上がった物から順に、和樹と手分けして食卓に運んでいく。食卓の上を、あっという間に色とりどりの十皿の蓮根料理が埋め尽くした。

 「さ、食べよっか」

 「うん!」

 料理を全て運び終え、陽平と和樹は食卓についた。和樹の左手には、ビールのロング缶が大事そうに握られている。

 「では、いただきます」

 「いただきまーす!」

 和樹は手始めに缶ビールをプシュッとやり、真っ先に水餃子に手を伸ばした。

 「いやー、やっぱビールには餃子だよね! この餃子、シャキシャキだったりプリプリだったり、色んな食感がして楽しいね。あっさりしてるけど、味がちゃんとしてるから、醤油無しで食べても美味しい」

 「それはそれは…」

 陽平も自分の取り皿に水餃子を取り、酢をかけて食べた。海老や椎茸の旨味が利いていて、薄味ながら美味だ。おろした蓮根はフワフワとしていて、刻んだ蓮根も食感が残っている。和樹の言う通り、確かに食べていて楽しい水餃子だった。

 「陽平さん、水餃子に食べるラー油かけていい?」

 「あぁ、あんまかけ過ぎるなよ」

 和樹が立ち上がり、冷蔵庫からラー油の小瓶をルンルンで持ってくる。陽平も一さじもらい、酢と一緒に水餃子にかけて食べてみる。ピリッとした辛味で味が引き締まり、おまけにザクザクとした食感が加わったことも手伝って、中々にイケる味だった。

 「これ、案外美味いな」

 「でしょー? 水餃子食べて、合うんじゃないかなぁー、って思ったんだよね」

 和樹はそのままどんどん他の料理にも箸をつけていく。いくつかの料理を食べ、和樹は雑煮の椀に手を伸ばした。蓮根餅を食べ、白味噌の汁をすする。

 「うーん、やっぱこの味だわー。お雑煮は白味噌に限るね」

 「美味いか?」

 「うん。でも、何かお雑煮食べたら、もう年明けの気分になっちゃった…」

 「やめてくれよ、まだ十二月にもなってないのに…」

 陽平の脳裏に、慌ただしい年末の光景が浮かんでくる。

 今年も、残すところあと一月ばかりだ。

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