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六十九膳目 「蓮根雑煮」 ※11/27修正

 「時々ほぐしながら、焦げないようにしてね。段々乾燥してくると、ポロポロ崩れてくるから」

 「わかったって。じゃがいも料理作った時もやったし」

 和樹は陽平に宛がわれたフライパンをゆすっていた。フライパンの中にはとろろ昆布が入っている。とろろ昆布を乾煎りにして、粉状にしているところなのだ。

 「今日は俺、これ以上手伝わないからね」

 「あと二品だし、別にいーよ」

 「これさ、この後どーするの?」

 「粉になったら、蓮蒸しにまぶすの。で、最後にあそこの汁かけるの」

 陽平が指差した真ん中のコンロでは小鍋が火にかけられていた。小鍋の出し汁に醬油と酒、味醂を入れて煮立たせているのだ。

 「何だっけ、蓮のなんとか蒸し…」

 「おきな蒸しね」

 「金沢ではそーやって食べるの?」

 「いや、翁にしたのは俺のアイデア。向こうだと具材は魚介類使って、蒸し上がったものに醤油あんをかけるはず」

 「俺は鶏じゃなくて魚介類がよかったなぁ」

 和樹が口を尖らせる。

 「最後の料理は海老使うよ。あと、今日はすり身料理ばっかじゃないか」

 「それで鶏にしたの?」

 「それもある。あと単純に、挟み焼きの残り使い切りたかった」

 「とろろ昆布使った意図は?」

 「それは俺の気分!」

 陽平はスパッと言い切った。

 「とろろ使えば汁に少しとろみつくから、あんかけにしなくても大丈夫だろうなぁ、と思ったのもある。とろろ好きだろ?」

 「確かにとろろ昆布好きだけどさ…」

 「まぁいいじゃないか。俺が作る翁蒸しなんだから絶対美味いぞ」

 「ずっと気になってたんだけどさ、」

 「ん?」

 「さっきから言ってる『翁』って何なの?」

 「それはねぇ、」

 陽平がコホンと咳払いをする。

 「…今は昔、竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり」

 陽平は昔覚えた一節を朗々と諳じてみせた。

 「古典? 何か高校の時に聞いた気も…」

 「『竹取物語』の書き出しね。『かぐや姫』って言った方が分かりやすいかな?」

 「あー」

 「翁ってのは、要はおじいさんのことなのよ。とろろの細かい粉が、翁の白ヒゲに見えるからそう呼ぶの。同じ理屈で、大根の千切り使った料理も翁って呼ぶことがある」

 「へぇー」

 「ほら、とろろ焦げるよ!」

 和樹は慌てて菜箸でとろろをほぐしていく。

 調理台に立つ陽平はまたも蓮根をすりおろし始め、おろした蓮根にこれまた同じく片栗粉を入れた。だが今度は蓮蒸しの時より片栗粉を量を増やし、少し固めにしている。

 固さを加減し、陽平は蓮根を平べったい丸形に丸めた。丁度手のひらにすっぽり収まるぐらいの小ぶりな大きさだ。

 「陽平さん、とろろ昆布こんな感じでいい?」

 和樹が陽平の方にフライパンを傾ける。

 「あぁ、上出来上出来。とろろ何かお皿に取っておいて」

 「はーい」

 陽平はとろろを取り出して空いたフライパンをサッとキッチンペーパーで拭き、そこに薄く胡麻油を敷いた。フライパンが温まり、油が馴染んできたら蓮根の団子を入れ、両面とも焼いていく。

 「それは何作ってるの?」

 「これは蓮根餅。後で雑煮にするけど、とりあえず餅だけ味見するよね?」

 「もちろん!」

 「ダジャレのつもり?」

 「いや、そんなつもりないけど…」

 「じゃぁ、菜箸渡すからそのまま焼いといて」

 陽平は和樹に持っていた菜箸を押しつけ、自分は調理台で別の作業を始めた。今まで使っていたのとは別の小振りなおろし金を取り出し、ほんの少量大根をおろす。出来上がった大根おろしの汁を絞り、そこに山葵を混ぜ合わせておろし山葵を作っていく。手を動かす陽平に、和樹が再びフライパンを傾けて声をかける。

 「陽平さーん、両面ともいい感じに焼けてきたよー」

 「どれどれ…、よし、醤油持っといで」

 「やったー!」

 陽平は焼き上がったばかりの餅を小皿に取る。その餅に醤油をかけ、和樹はふうふうしながら餅を一口かじった。

 「味はどうよ?」

 「そこまで蓮根の味する訳じゃないんだね。モチモチしてて美味い!」

 「これから汁作るけど、雑煮の味は…」

 「白味噌がいい!」

 和樹が食い気味に答える。何とも分かりやすいヤツだ。

 「そんじゃぁ、白味噌仕立てで作りますかね」 

 蓮根餅の味見を終えると、丁度蓮蒸しが蒸し上がる頃合いだった。陽平は蒸し器をコンロから下ろし、蒸し上がった蓮蒸しを中から取り出した。

 三個ある内の一個だけ取り、陽平は表面にとろろ昆布をまぶして皿に盛る。ついさっき作ったおろし山葵をその上に天盛りにし、蓮蒸しにかからないように回りにそっと出し汁を注ぎ入れた。

 「さ、召し上がれ。上に乗ったおろし山葵をつけて、出し汁に浸しながらどーぞ」

 和樹が箸で蓮蒸しを割る。表面のとろろ昆布が、出し汁に浸かってパッと色が変わった。和樹はおろし山葵を少量つけ、ゆっくりと口に運んだ。

 「どう?」

 「陽平さんも食べなよ」

 和樹が自分の箸で陽平の口にも一口放りこむ。陽平は真剣な顔をして咀嚼している。

 「意外といい感じに収まったな。山葵単体じゃなくて、おろし山葵にしてさっぱりさせたのは正解だったみたいだね」

 「蓮根はもちっとしてるけど、時々シャキシャキした粒も入ってて…、昆布と鶏肉とも相性抜群だね」

 「確かに。これはかなりの成功だな」

 陽平と和樹はお互いに顔を見合わせて笑った。

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