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六十八膳目 「蓮の翁蒸し」

 洗い物を済ませ、陽平は流しで蓮根を洗っていた。泥を落とし、ピーラーで皮をむいた蓮根を和樹に手渡す。

 「はい、和樹」

 「これをどーしろと?」

 「すりおろして。で、その次はとろろ昆布煎ってもらうから」

 陽平がおろし金を出してくる。家庭向けのプラスチック製の物ではなく、銅製のより鋭利な物だ。

 「えー。次は何作るの?」

 「次は蓮蒸し」

 「蓮根の蒸し物ってこと?」

 「そうそう。蓮根をすりおろして、それを丸めて蒸すの。とろろ昆布使うから、『蓮のおきな蒸し』って感じかな。とろろ昆布使った料理は『翁』って言うから」

 「えー、めんどくさ」

 「俺は辛子蓮根作っちゃうから、その間によろしく」

 有無を言わさず和樹に作業を任せると、陽平は踵を返し、ボールに衣の材料を入れていった。辛子蓮根の揚げ衣といっても、要は天衣を作ればいいのだ。蓮根の表面はつるりとしているので、ぽってりと、かなり重ために作ること以外はほとんど大差ない。

 陽平はボールに入れた小麦粉を水で練り、卵を加えて衣を作っていく。混ぜ終わったものを、二つのボールに分ける。辛子味噌を詰めた方はこの中にウコンの粉を加えて黄色くした衣で、辛子明太子の方は赤の色粉で色をつけた衣で揚げるのである。

 陽平は揚げ油の用意をし、冷蔵庫から辛子を詰めた蓮根を出してくる。穴から少しはみ出た分をこそげ落とし、両方とも全体に小麦粉をまぶしていく。

 火にかけていた油が十分に温まったのを確認すると、陽平は色つきの衣をまとわせた蓮根を油の中に入れた。そのまま鍋底に沈めると底についた部分だけ凹んでしまうので、衣の表面が固まるまで蓮根に菜箸を刺して油の中を泳がせていく。

 形が決まると、陽平は蓮根から箸をゆっくりと抜いた。あまり大きな鍋ではないので、揚げるのは一本ずつだ。蓮根も詰め物もほとんど火が通った状態から揚げ始めたので、見た目の大きさの割に早く揚げ上がった。そのまま立て続けに、もう一方の蓮根も揚げていく。

 「陽平さーん、とりあえず言われた通り蓮根はすったよ」

 「はい、お疲れ。蓮根はどれぐらい残った?」

 「手ケガしそうで怖かったから、だいぶ残しちゃったけど…」

 陽平は和樹がすりおろせずに残した蓮根を細かく刻んでいく。ボールに入れられたおろし蓮根の汁を少し切り、その中に刻んだ蓮根を混ぜこむ。思っていたより粘りが少なかったので、片栗粉も少し足す。

 「陽平さん、これを蒸すの?」

 「うん。おにぎりみたいにラップで一まとめにして、蒸し器でゆっくり蒸せば完成。これも金沢の料理なんだよ」

 「へぇー」

 その言葉通り陽平はラップを広げ、その上にスプーンでおろし蓮根を置く。おにぎりに具を包むようにその蓮根を薄く伸ばすと、その中に鶏ひき肉を少量入れた。挟み焼きを作った時に残った肉ダネを再利用したのだ。

 蓮根でひき肉を綺麗に包みこむと、茶巾絞りのようにギュッとてっぺんを絞っていく。陽平は同じようなラップの包みを三つ拵えると、射込み蓮根の時のようにクッキングシートを敷いたバットを用意した。その上に形を崩さないよう、ラップから外した蓮根の塊を等間隔に並べていく。三つとも並べ終えると、バットを慎重に蒸し器の中に置いた。

 「さ、これで二十分ぐらいかな?」 

 「えーそんなかかるのー?」

 「強火で蒸すと形崩れちゃうから、ここは我慢」

 「じゃぁ、辛子蓮根の味見させてよ」

 「少し冷ましてからじゃないと上手く切れないからだーめ」

 「えー、ケチ」

 「さ、頼んだとろろ昆布お願いね。蒸し上がったら使うから」

 そう言って陽平は和樹を急き立てた。


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