六十五膳目 「蓮根羹」
陽平は流しに立ち、今しがた自分が放りこんだ洗い物を片づけているところだった。フードプロセッサーの刃や包丁がそのまま転がっていたので、和樹には洗い物を触らせずにいたのである。普段から調理の合間を見て洗い物をするクセがついているので、陽平の手つきは素早い。
「はい、危ない物は洗い終わったから、残りはお願いしていい?」
「陽平さんも過保護だなぁ。俺だって包丁ぐらい洗えるのに」
「包丁はまだしも、フードプロセッサーの刃は危ないでしょ? あと、お前に包丁洗わせると錆びさせそう…」
「ひどいなぁ。ただ洗うだけじゃん」
「ちゃんと手入れしないと、錆びるし切れ味も悪くなるの。じゃ、後は頼んだよ」
和樹に後を託すと、陽平は調理台で棒寒天を小さくちぎり始めた。すぐに使えるよう、棒寒天は金平を作っている時から水で戻していたのだ。
細かくした寒天を小鍋に入れると、陽平はその中に水を計量カップで計ってから注ぎ入れた。
「あっ、陽平さんが量計ってる」
「そんな珍しいことみたく言うなよ…」
「だっていつも目分量じゃん」
「寒天煮る時は、水の量に気をつけないといけないからね」
陽平は小鍋を火にかける。
「んで、その寒天で何作るのさ?」
「蓮根羹」
「はすねかん? どういう字書くの?」
「『はすね』はそのまま蓮根を訓読みしただけで、『かん』ってのは羊羹の羹」
「蓮根の羊羹みたいなの?」
「ま、蓮根の寒天寄せって感じかな」
「へぇー。蓮根のお菓子ってこと?」
「そうなるかな。和樹、ちょっと水道使わせて」
陽平が洗い物をしていた和樹を押しのけ、これから使う分の蓮根を流水できれいに洗っていく。
「蓮根って結構デンプンが多い食材だから、そのデンプンを使って固めたお菓子なんかもあるんだよ。で、今作ってる蓮根羹も、金沢の伝統的なお菓子からヒントを得たもの」
「金沢かぁ」
「正式な作り方通りじゃないんだけど、せっかくだから作ってみようかなぁ、と。皮をむいた蓮根をすりおろして、それを寒天と混ぜて冷やし固めるの」
「それだけ?」
「うん、それだけ。簡単でしょ?」
陽平は微笑みながら洗った蓮根の皮をピーラーでむき取り、乳白色の蓮根を少し粗めにおろしていった。
「ちなみに、使う調味料も砂糖だけだよ」
「へぇー」
ぐつぐつし始めた小鍋に、陽平は砂糖を少し入れた。寒天や砂糖の溶け残りがないよう、菜箸で鍋の中をかき混ぜていく。沸騰してから数分置いて火から下ろすと、陽平はすぐにすりおろした蓮根を加えた。寒天の中に蓮根を入れるというより、蓮根を寒天で固めるといった具合である。
寒天液が熱いうちに手早く混ぜ合わせ、それを用意しておいた流し缶に注ぎ入れる。くっつかないように、流し缶は前もってサッと水にくぐらせてある。陽平は四隅までしっかりと敷き詰めると、流し缶を次の作業の邪魔にならない場所に水平にして置いた。
「これも、できあがるのは夕飯の直前かね」
「えー、二連続で味見お預けなの?」
「お前、絶対に味見の目的勘違いしてるだろ…」
陽平が和樹の頬をぷにーっと引っ張った。




