六十四膳目 「二種の辛子蓮根」
「次はねぇ、半分は俺のオリジナルレシピ」
「へぇー」
「辛子蓮根って分かる?」
「あー、熊本だっけ?」
「そうそう」
「熊本といえば馬刺しと辛子蓮根だよね」
「それで日本酒をキューっと、って訳か」
いかにも和樹の考えそうなことである。
「あたり! 久しぶりに馬刺し食いたいなぁ」
「お前、馬刺し好きだもんな」
「また熊本も行きたいね」
「お前、熊本行ったことあるんだ…」
「あぁ、まだ学生の頃だけど」
「誰と行ったの?」
「フツーに友達とだよ」
「えー、恋人とお泊りじゃなくて?」
陽平が冗談めかして和樹の頬をつつく。
「俺がそういうキャラじゃないってこと、陽平さんが一番知っているクセに」
「ま、だとは思ったけどね」
洗い物をしていた和樹がむくれる。自然和樹の言葉も、少しトゲトゲしくなる。
「で、その辛子蓮根作るの?」
「そーそー。でも、定番の黄色いのと、辛子明太子入れた赤いのも作るよ」
「明太子?」
「和『辛子』と『辛子』明太子で、二種の辛子蓮根、なんてね」
「そんなダジャレみたいなこと言ってないでさぁ…」
「でも、酒にはよく合うと思わない? きっと冷えた日本酒と相性抜群だと思うんだけどなぁ…」
「それは…」
和樹がゴクリと喉を鳴らす。和樹には何だかんだこの言葉がよく効くのである。
和樹を大人しくさせると、陽平は蓮根の一節を切り離して、両端を少し落としてピーラーで皮をむいた。後で衣をまとわせるので、衣のつきをよくするために蓮根の側面にフォークを使って荒らしていく。
その蓮根を真ん中で半分に切り、それを沸騰した酢水の中に入れる。火が通るまで、中火で五分ほど煮ていくのだ。和樹が金平を作っていた間に準備をしていたので、陽平はテキパキと作業を進めていく。
「和樹、白味噌取ってー。あと和辛子も」
「はいはい」
辛子蓮根は本来麦味噌で作る料理だが、陽平は家に常備してある白味噌で代用するつもりでいるのだ。ボールに入れた白味噌に和辛子を混ぜ、味醂や砂糖で少し甘みを足しながら混ぜ合わせていく。
陽平は蓮根に串を刺して茹で具合を確認すると、茹で上がった蓮根をザルに上げた。
蓮根の粗熱を取っている時間を使って、陽平はもう一方の明太子の詰め物も作っていく。こちらは味噌ではなく、魚のすり身をベースにしたものである。
陽平はフードプロセッサーを用意すると、中に細かくちぎったはんぺんを入れてスイッチを押した。途中でつなぎの卵白を足し、きめ細かなペースト状にしていく。でき上がったものをボールに取り、そこにたっぷりと辛子明太子を混ぜこんだ。辛子明太子は先に陽平が皮を取り除き、中の卵だけの状態にしてあったものだ。そのままだと詰めるには柔らか過ぎるので、片栗粉を加えて固さを調整し、仕上げに味醂と砂糖、少量の酢と醤油で味を調えた。
「陽平さん、これ、蓮根の穴にどうやって詰めていくの?」
「まぁ見てなって」
そう言って陽平は茹でた蓮根を手に持つと、蓮根の断面をボールに入った辛子味噌の上に押しつけた。そのままぐりぐりと、蓮根をボールの肌にこすりつけていく。その動作を何回か繰り返していると、反対側の断面の穴から辛子味噌がにゅっと飛び出してきた。
「へぇー、そうやって味噌詰めるんだー」
「で、これを反対側の断面からもやると、中にぎっしりと味噌が詰まった辛子蓮根になるのよ」
「スゲー! 生クリームみたいに絞って詰めてんのかと思ってた」
「んな訳ないでしょ」
陽平は辛子味噌を詰め終わると、はみ出た余分な味噌をゴムベラでこそげ取った。
残りのもう一方の蓮根を手に取ると、今度は穴の中に片栗粉をまぶしていく。
「そっちは明太子詰めるんでしょ?」
「そー、こっちの方がはがれやすいから、のり代わりに片栗つけてから詰めるの」
「穴の中って、粉つけるの難しくない?」
「まぁ、自分で食べるんだから大体でいーんだよ」
片栗粉を打つと、陽平は明太子のすり身も同じように蓮根の穴に詰めていった。穴から飛び出したすり身を落とし、陽平は蓮根の断面を下にしてバットに立てるように置いた。辛子味噌を詰めた方も、隣に同じように置かれている。
「このまま詰め物をなじませるるよ」
「どれぐらい置くの?」
「うーん、自分で食べる分だからそんなに神経質にならなくていいけど、二時間とかかな?」
陽平が蓮根のバットにふわりとラップをかける。
「適当だなぁ」
「ま、他の料理しながら、様子見て仕上げすれば大丈夫よ」
調理台を拭き、陽平は使い終わった調理器具を流しに放りこんだ。




