良い人いないかなぁ、モテたいなぁ(チラチラ)と言ってきた女子高通いの幼馴染に、同級生のイケメンを集めて合コンを開いてやった。勿論俺は不参加だ。
俺には幼馴染がいる。
生まれた時から家も隣同士で育ってきた仲だ。
「はぁ~」
「どうしたんだ?」
「い~や。刺激のない青春だと思ってさ」
彼女――愛梨は俺の部屋で寝転がりながら嘆く。
ポテトチップスを貪りながら少年漫画を読むその姿は怠惰そのもの。
愛梨は女子高に通う二年生だ。
「出会いがないって言いたいのか?」
「う~ん。共学は可愛い子いっぱいいる?」
「まぁまぁそれなりに」
とは言いつつ、俺は彼女を見る。
愛梨は結構可愛い。
十七年、それこそ幼稚園に入るか入らないかくらいからこいつを見てきたが、贔屓目無しにクラスに居たら一番可愛いレベルのクオリティだ。
これで彼氏がいないって言うから不思議なもんだよな。
「好きな人とかいるのか?」
「ふん。いないし?」
「なんで疑問形なんだ」
やはり女子しかいない高校に通うと、大変なのかもしれない。
「大樹は彼女とか、良い感じの女子とかいないの?」
「いたらお前と放課後に会ってないだろ」
「それもそうだね~」
嬉しそうに笑う愛梨。
何が面白いのか、馬鹿にしやがって。
「はぁ……良い人いないかなぁ、モテたいなぁ?」
意味ありげに俺の顔をチラチラ見ながら言ってくる。
仕方ないな。
「わかったよ。そこまで言うなら協力してやる」
「えっ? どういう意味?」
「合コンを開いてやるよ。お前のために」
「……え?」
「喜べよ。出血大サービスなんだから」
友達という名の身を削った俺なりのサービスだ。
幸い何故か俺の周りにはイケメンの男友達が多くいる。
「イケメン揃えてやるから、そっちもお前くらい可愛い子用意しとけよ?」
「ちょっと待って、合コンって……いやその前に、今私の事可愛いって言った?」
くそ、口が滑った。
最悪だ。
こういうことを言うとすぐに調子に乗られるんだ。
ほら、今もニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべている。
「素直じゃないなぁ」
「うるせぇ。帰って女の子集めてこい」
「あ、ちょっ押さないで」
部屋から押し出そうとすると、彼女は出る間際聞いてくる。
「その、当たり前だけど来るんだよね?」
「は? 当たり前だろ」
男を用意しない合コンってなんだよ。
「確かに合コンなら違和感なく良い感じになれそう……」
「ん?」
「なんでもない!」
よくわからないことを言う愛梨を追い出しながら、俺は溜息を吐く。
全く、世話の焼ける奴だ。
‐‐‐
合コン会場で。
「よっし、そんじゃ始めますかー」
一際イケメンの爽やか系Aが店内に入ろうと呼びかける。
ぞろぞろとみんなが動き出す中、愛梨は必死に頭数を計算していた。
「女子が私とあと三人。そしてイケメンが四人……」
「どしたの? 愛梨ちゃんだよね? 大樹から聞いてるよ」
「う、うん」
「今日はよろしくね~」
ナチュラルな笑顔、そして慣れたエスコート。
本当に同じ高校二年生かと愛梨はびくつきながら、彼に気になっていたことを聞く。
「あの、今日大樹っていないんですか?」
「え? 大樹? あいつは今日家でVtuberの配信見るって意気込んでたけど」
「ぶ、ぶいちゅーばー?」
「どしたの、そんなショック受けて」
愛梨はそのまま崩れ落ちた。
自分の勘違いに気付いたのと、Vtuberに負けたという敗北感から。
「え、もしかして大樹狙いだったの?」
「……ぐすっ」
「あー。なるほどねぇ。あいつならやりそうだ」
今愛梨と話しているイケメンBは知っていた。
大樹が女子の好意に鈍感であることや、そもそも馬鹿であることを。
「よし、行こうか」
「え、どこに?」
「勿論大樹の家だよ。今日の合コンに参加しても無駄でしょ?」
「それは……そうだけど」
「いいよ。あいつの家まで送るから」
イケメンBはそう言うと、さっきのイケメンAに声をかける。
「ごめん。俺と愛梨ちゃん今日はやめとくわー」
「もうお持ち帰りかよ」
「そういうのじゃないって」
そしてイケメンBと愛梨は店を引き返した。
◇
【その時の大樹君】
「くっそ、今日配信ねーのかよ。ラーメン伸びちまった」
俺は突如中止になった推しのライブに少し残念に思いながら、配信開始に合わせて準備していたラーメンをすする。
今日は親がいない。
なので珍しく自炊した。
カップ麺にお湯を注ぐだけであっても俺にとっては料理だ。
「今頃愛梨は合コンか」
最強の布陣を集めてやった。
サッカー部のイケメン二人に、将棋部の部長、そしてバスケ部のやれやれ系イケメン。
しかしなんだろう、ちょっともやもやする。
「あいつに彼氏ができたら、もう一緒に遊べないのか」
なんだかんだ彼女が遊びに来てくれると楽しかった。
でも彼氏持ちになると、こんな生活もできなくなるだろう。
ちょっと寂しいな……
「くっそ、何であいつの事なんか考えてんだよ俺」
全く面倒な幼馴染だ。
ここまでくると本当に腐れ縁だぜ。
「御馳走様」
食べ終わったラーメンのカップを捨てに行くと、ピンポンが鳴る。
面倒に思いながら玄関に出ると、そこには噂の幼馴染がいた。
「え、なんで?」
「こっちが聞きたいんだけどっ」
謎に怒っている幼馴染と対面しながら、俺は首を捻る。
「なんで合コンにいないの?」
「え……別に俺はいらないだろ」
「いるよ! 何のために行ったと思ってるの?」
「彼氏作るためだろ?」
「そうだけど、イケメンと付き合いたかったわけじゃない!」
「ブス専って奴?」
「違うわ!」
激怒する愛梨。
意味が分からない。
「もう本当に鈍感! こういうこと」
「んっ!? んっぉぉお!!」
と、急に唇を奪われた。
さらにわけが分からない。
少しして離れると、暗い中でもバッチリわかるほど顔が赤い愛梨がいる。
「だから、好きなの」
「何が?」
「大樹の事が好きなの! 気付け馬鹿やろーっ!」
「ええぇぇぇぇぇ!?」
人生で一番の衝撃だったかもしれない。
だって、おかしいだろ。
十七年も一緒に居た、最早家族同然の奴の事好きって。
「もう隠さない。今まで誤魔化してたけど、私は大樹が好き。付き合って」
「……」
衝撃だった。
でも嫌な気はしない。
「実は俺もさっき思ったんだ。お前に彼氏ができるのは嫌だって」
「え、それって……」
「多分、俺も愛梨の事好きなんだと思う」
無自覚だったが、他の男の影が見えた時に気づいた。
俺は愛梨といたかったのだと。
なんだかんだ、こいつとの時間が好きだったことを。
「じゃあ……」
「うん、付き合おう」
こうして俺達は付き合うことになりました。
でも……
「おぇぇぇ」
「どうしたどうした!?」
「なんかニンニク臭い……」
「あ」
そう言えばニンニクマシマシラーメンを食べた直後だった。
愛理は結構俺の唇を堪能されていたし、夕飯を共有したも同然だ。
「さいあく……」
「……なんかごめんな」
ファーストキスはニンニク風味。
まぁ、現実はそう上手くいかないってことだね。
主人公の行動に『違う、そうじゃない』と感じた方は下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしてください(二回目だけど言いたかった)
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両片想いで、こちらも主人公とヒロインの恋心がかみ合わないラブコメとなっていますので、本作で楽しんで頂けた方のお立ち寄り待ってます~