この度、訓練を始めました―2―
「待ちなさい!」
そう、俺たちを静止させる声が聞こえる。
声が聞こえた方を見てみると。
黒髪黒目の、長髪をポニーテールで結んだ、目尻がキリッと上に向いた大和撫子を体現したかのような女性が立っていた。
「あら? シオンちゃん...だっけ? どうした――」
「あなたは関係ないわ。そっちのあなたよ」
「え...俺ですか?」
トキが応答するが一蹴され、あらあら。と口に手を当てて驚いていた。
(俺なんかしたっけ...?)
思い返すが、シオンに何かした覚えはない。
というかそもそも女性と絡んですらない。
「あなた、前衛職のくせに走り込みは手を抜くし、素振りに関しては一〇〇回しか振ってないじゃない! 前衛職なのに『STR』が五〇しかないっていうの!?」
(あー、そういうことか...。)
俺のステータスは男性陣しか知らないし、勘違いするのも仕方ないか。
「素振りに関しては、兵士さん方が何も言ってないし...あなたがどうこう言う問題じゃないんじゃないかしら?」
「そ、それはそうかもしれないけど...!」
トキは俺のステータスを知っているからか、庇ってくれるようだ。
でも確かに、シオンが言わんとしてることもわかる。
俺のステータスではギリギリのところを攻めたつもりでも、そもそもそれを知らない人が見たら不快にも思うだろう。
「いや、大丈夫だよトキさん」
「で、でも...いや、そうね。私が介入する問題でもないわね」
そう言葉で制し、シオンに向き直る。
「手を抜いてるように見えたらごめん。次からはちゃんと頑張るよ」
「ふんっ! わかったらいいのよ」
そう言い、シオンは早足で食堂へと歩いていく。
「...災難だったわね」
「まぁ、しょうがないよ」
その後、トキと適当に駄弁りながらも昼休憩を過ごした。途中からマサヤやダイキも参加して、会話に花を咲かせた。
「みんな戻ってきたな! これより訓練を再開する! 午後の部は組手だ!」
ゼラードはそう言うと、パンッと手を鳴らした。
「はっ!」
すると、兵士が一人こちらへやってきた。
声的に少し幼いような気がする。
「ここにいる者は七人だから、こちらで助っ人を用意した! こいつはナツメと組ませる! 他の者はローテーションで組み手をせよ!」
開始!
と合図があり、各々が組み手を始める前に、得意の得物を手に取る。
ちらりとシオンを一瞥すると、腑に落ちない顔をしていた。
(また変に絡んでこないといいけど...。)
「えっと、初めまして勇者様! 僕はユージって言います!」
「は、初めまして...」
(元気いいな...。)
ユージの元気の良さに若干の苦笑が溢れるが、気を取り直して剣を手に取る。
「なるべく剣筋を意識しながら打ち込んでください! 僕からは攻撃しないのでご安心を!」
「は、はぁ...」
言われた通りに剣筋というのを意識しながら打ち込んでいく。
(くっ!?)
なぜか打ち合っているわけでもないのに、打ち込んだ反動が割増で返ってくる。
「ナツメ! 腕だけで剣を振るのではなく、身体全体を使うんだ!」
「は、はい!」
(身体全体...身体全体...。)
今度は身体全体を意識して打ち込む。
「くっ...!」
反動は無かったが、今度は手に衝撃が来て木剣を落としてしまった。
「今度は剣筋が疎かになっているぞ! 両方を意識しろ!」
落とした木剣を手に取り、落ち着いて深呼吸をする。
「はっ!」
そしてまた打ち込み、反動で仰反る。
「違うっ!」
「はっ!」
「違うっ!」
「はぁっ!」
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「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」
組み手を続けること三時間。
俺は幾度と剣を落としては仰反ってを繰り返していたが、二時間経つ頃あたりには剣筋と身体の使い方が段々とわかってきて、最終的には三撃連続で打ち込むことができるようになっていた。
「よくやったナツメ。今日はもう身体を休めろ」
「はぁ...はぁ...あ、ありがとうございます」
「他の者は残り一時間みっちり組み手をやれ!」
『はい!』
疲れ切った俺は段差のあるところに座って、みんなの組み手を眺めることにした。
「お疲れ様ですナツメさん。これ甘い飲み物ですよ」
「あ、あぁ...ありがとうございます」
ユージはそう言いながら隣に座り、飲み物を手渡してきた。
(んっ、これはオレンジジュースか。)
「どうです? 美味しいでしょ?」
「美味しいですね」
飲み物を飲みながらユージと談笑に耽る。
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