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2 目覚めて

「沁みる?」

薬湯をたっぷり染み込ませた布で怪我したところを拭ってくれている、マナさんの大きな手を、私はぼんやりと眺めていた。

「はい、けっこう沁みます」

「そうかい。でも、かすり傷はもうしっかり瘡蓋ができてるし縫った傷もきれいだし、何よりおまえさんは若いから、思ってたより早く治りそうだよ」

喋っている間にも、マナさんの手は休まない。縫った傷に薬草らしきものを添えて、新しい包帯を巻いてくれた。


鏡を覗いたまま呆然としていた私は、包帯やら何やらを持って来たマナさんに、布団へと戻された。

起きてすぐのときは混乱していて忘れていたけれど、今この世界は冬の真っ只中らしい。布団に入っていた、湯たんぼっぽいものに加えて、マナさんが持ってきてくれた火鉢の暖かさが有難い。

「やっぱり、何も覚えてないかい」

上着を着るのを手伝ってくれながら、マナさんは妙に真面目な顔で訊いてきた。

覚えてないというか知らないのだけれど、この状況になった以上、覚えてないと答える以外の選択肢はないだろう。

「はい。・・・ここがなんという国なのかも自分のことも家族のことも分からないし、日常の細々したことも、たぶん全く覚えていないです。たとえばこの服も、初めて見るものだと感じています」


私は、やっと着終わった服を見下ろした。ふわりとしたズボンを履いて腰のところを紐で縛り、裾も紐で引き絞る。トップスは、太腿を覆うくらいの丈の着物みたいなものだ。ただし、袖は和服みたいに大きくなくて、筒型をしている。それの襟を胸元で重ねて細い帯を締める。要するに甚平と作務衣の中間のような服。

でも、和服とは違う。襟や袖口、裾に幾何学模様の刺繍がある。しゃらしゃらした布で、中には綿みたいなものが入っているようだ。


「ふぅん・・・」

マナさんはどこか遠くを見つめて思案した後、もう一つ私に尋ねた。

「山で目が覚めてからの記憶はあるんだね?」

私は1,2度ほど瞬きをした。

そういえば、マナさんの背中で眠った後も、何かを口いっぱい噛まされたような気がするし、その直後、肩や腕を貫く激痛に喚いたような気もする。

「あります」

「そうか」


ぱちりと火鉢の火が爆ぜた。うっかり葉っぱでも入っていたのだろう。

ふぅっと大きく息をついて、マナさんは私の目を見つめた。

「知りたいかい?私がおまえさんとどういう関係で、なんでおまえさんは怪我を負ったのか」

「・・・・・はい」

「じゃあ、話すとするかね」




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