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『適材適所』

 卜部(うらべ)の住居は、十歳年上の兄が、電話一本で用意してくれた賃貸マンションだ。



(ここまで豪華な家を、どんな伝手で見つけてきたのやら)



 駅徒歩五分で築浅の3LDK。そんな部屋を、家賃三万で見つける方法を持つ兄。心霊現象が『視えない』代わりに、兄には現実の何かが見えているのかもしれない。



「適材適所ってのが、この世にはあるんだ」



 兄はそう言って笑っていたが、どんな手を使ったのだろうか。見当もつかない。



(今頃兄貴は、どうしているのだろうか……)



 無情にも絶縁を告げてきた兄を思い出して、卜部(うらべ)はため息を吐いた。



 『402号室』卜部は自宅に入ると、洗面台に向かう。

 ごぼごぼ、と濁った水と髪の毛が出てきた。



「また詰まっているな。しばらく出せば収まるのだが……」



 特に気にせず、カバンをリビングの床に置いた。家財道具はまだ何もない。

 あるのは、キャリーケース一つ分の衣類だけだ。



「冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機……。あー、まずはスマホが必要だな」



 スマホがあれば、家電は通販でも購入できる。しかし、卜部は未成年だ。

 新しくスマホを買おうにも、大人のサインが必要だが当てはない。



「風呂でも入るか……ん?」



 リビングの照明がちかちか明滅する。風が強いのだろうか。窓を叩く音がする。

 卜部は首をかしげてきょとんとした。



「メンテナンスが行き届いてないのかもしれないな。家賃三万だし、構わないが」



 風呂では、視線や変なにおいを感じたが、卜部は気にしなかった。

 『心霊現象』そんなものは卜部にとって、日常茶飯事なのだ。



◇◆◇


 風呂から上がると、今度は家中の電気が消えていた。

 面倒くさいが節電になるな、と卜部は髪を拭く。


 夜も更けたので、卜部はダンボールに寝転んだ。あとは寝るだけだ。

 転入初日の学校のこと、それから、柚貝(ゆずかい)のことを考えた。



(家族の話に触れた時の柚貝(ゆずかい)、やはり不自然だったな……)



 『心霊現象』は、ある家や土地に立ち入ったときに起こるものも多い。

 これらは場所に憑く霊。『自縛霊』などによる害だ。


 一方で、恨みや妬みなど、生きた人間が引き起こす『心霊現象』もある。

 柚貝が負った『霊障』の原因は『生霊』や『呪い』。

 そのどちらかだろうと、卜部は経験から察していた。


 ただ、四月十一日と言えば、まだ新しい学年が始まったばかりだ。

 色沙汰のもつれで、柚貝は誰かから執着されているのかもしれない。



(顔立ち自体は整っていたようにも見えるが……わからんな)



 卜部は柚貝を、逆立ちの生首姿でしか見たことがないのだ。

 柚貝の性格は、なかなか図太そうだった。だが、その性格が疎まれているのか、好かれているのかまでは知らない。


 柚貝は体がばらばらになり、左右反転している。

 本人や霊が視える人間以外には、普通の女子高生として見えているが。

 実態と幽体の乖離は、やがて大きな影響を及ぼしてしまう。


 卜部はそれを危惧していた。

 写真で白く影が映った部位を怪我するくらいならまだいい。

 柚貝の場合は、そのうち身体を動かすのも困難になるだろう。



(やはり、鏡に呪いか生霊が付いていて、祟られたと考えるのが自然だな)



 時間はそれほど多くないだろう。

 柚貝が言った『コンクール用に絵を仕上げたい』そんな言葉を卜部は思い出した。

 最悪、生霊を無理やり剝がして、卜部が飼わなくてはいけない。



(まあ、明日また鏡について、聞いてみるか……)



 翌日、卜部は思い知ることになる。

 自分は、まだまだ日本に慣れていなかったのだと。

 早起きして弁当を買って、まだ見慣れぬ街並みを、確かめるように歩いていた。


 朝の日課に校門へ盛り塩をして、気づく。



(ずいぶん人が少ないな……)



 そう、今日は土曜日。学校は休みだ。


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