表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

霊障を受けている女子生徒

 卜部(うらべ)の転入初日は、あっという間に過ぎた。


 時間以上に早く感じたのは、窓際一番後ろの席から質問をした女子。

 『柚貝 三矢(ゆずかい みや)』のせいだろう。

 卜部の席が柚貝の隣になったのは、何か運命のいたずらかもしれない。



(柚貝……か。さすがに慣れたが、朝は驚いたな)



 『あなたには、私がどう視えるのですか?』卜部は答えられるはずもなかった。

 曖昧に、「ええと……これからクラスメイトになる女子……」とだけ言った。

 何を考えて聞いてきた、と頭を抱えたくなったくらいだ。



(こんなにひどい霊障は、初めて見た)



 『柚貝 三矢』彼女は、身体がばらばらである。


 手で逆立ちのように立ち、足を手のように使っている。

 首は胴体と別れ、手の代わりになっている足へ乗せている。


 西洋の妖精である『デュラハン』と東洋の妖怪である『逆さ男』を足して二で割った姿とでも言えばいいだろうか。


 卜部以外のクラスメイトには、普通の女子高校生の姿に見えていることだろう。

 にも関わらず、柚貝が訊いてきたのは、己の姿へ心当たりがあるに違いない。

 そうでなければ、よほど見た目に自信があるのかもしれない。



「柚貝……さん。今朝のことだけど、少しいいか?」


「あぁ、卜部くん。私のことは呼び捨てでも構わないですよ。朝のことで声をかけてくるってことは、あなたは私に何かが『視える』人なのですか?」


「あぁ、『視える』……。柚貝、それはどうした?」



 柚貝は逆立ちの姿勢をしながら、足に己の生首を乗せて座っている。

 生首にくすくす笑われているので、卜部はひどく居心地が悪い。


 どういう事態なのか、『心霊現象』に慣れた卜部にも、さっぱり分からない。



「さあ、気が付いたら、こうなっていましたから」


「三矢―! どうする? 一緒に帰る?」



 クラスメイトだ……名前は憶えていない。その女子は普通に柚貝と接している。

 しかし卜部には、『逆立ちした柚貝のスカートと話している』ように見える。


 白衣とスカートが重力に逆らっているのは、霊的で超常的な現象のせいだろう、と納得するが、異様な光景だった。



「あぁ、ごめん。今日はちょっと図書室に寄って行くから」


「分かった! じゃあ、また明日ね!」



 その女子は卜部にも手を振ってくれる。つられて手をあげて、ぺこりと目礼する。

 柚貝は座ったまま、足に乗せた生首を寄せてきた。



「じゃ、ちょっと図書室へ行きましょうか」


「……分かった」


「へえ。意外ですね」


「なぜだ?」



 柚貝は器用に足で生首を転がしながら笑っている。

 なかなかうまいもんだな、と卜部は目を丸くしてしまう。


 もちろん、柚貝に何か特別なことをしているつもりはないのだろう。

 『微笑みながら首を傾けている』ような仕草。

 それが、心霊現象の『視える』卜部には奇妙に見えてしまうだけだ。



「転入していきなりなのに、話を聞こうってのがまずひとつ。あとは……こうなったのに気づいた私が、自分なりに調べた『霊能者』とやらを訊ねて行ったら、門前払いにされましたので」


「……。」


「だから、意外ですね、と。それとも、今からでも断りますか?」


「話しは聞く。なんせ、隣の席だからな」



 視えるってのも、大変なんですね、と柚貝はかすかに目を細めた。

 卜部は、無言でリュックを背負って席を立つ。


 柚貝は後ろから付いてくるのだろう。椅子を引く音がした。



 廊下を見知らぬ生徒が走っていく。

 校庭では、どこかの運動部だろうか、大声をあげているのが耳に入る。

 廊下の窓から、屋上に座る霊が視えた。



(祓うのは、けっこう大変そうな気がするな……)



 転校初日からこうなるのは、さすがに予想していなかった。

 卜部はため息を吐いて肩をすくめる。

 思わず先に教室を出てしまったが、そういえば、と卜部は柚貝へ振り返る。



「なぁ、柚貝、図書室って、どこにあるんだっけ?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ